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共同浴場とヒール

 日が沈むとほぼ同時に、俺とリリーは港街ブル・ウォータに到着した。この街は大河である『オウラ川』挟んでおり、今俺たちがいる側が『ブル』といい、対岸が『ウォータ』といった。二つで一つの街だ。ローファン国最大の街であり、農業、漁業、工業の製品が全てここに集まってくる。

 

 途中休憩もあったが、大きな遅れもなく、とりあえずは無事に到着したことに安堵あんどし胸をなでおろした。

 

 俺たちは早々に宿を見つけ、共同浴場に向かった。リリーのベタベタになった身体を綺麗にするためでもあるが、ローファン国内で一番の大浴場に入ってみたいという好奇心もあった。下心があってではない。本当に。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


 服を脱ぎ湯船に浸かる。体の芯まで温まってくる。城内で掃除夫を続けていたら絶対に味わえなかったはずだ。ちゃんとした風呂に入ったのは転生前以来かもしれない。

 

 しかし、本当に大きな浴場だ。しかもサウナもあるときている。大勢の老若男女が、飲食をしつつ、お湯を楽しんでいた。もちろん全ての人が生まれたままの姿だ。ちょっと目のやり場に困ってしまう。


「スキル……」



「お、おう……」


 隣からリリーの呼ぶ声がした。何を隠そう、隣にはリリーがいる。さすがに直視は出来ない。まあ、最初にちょっと見てしまったのだが。

 

 顔を真っ赤にし恥じらいを見せ、大事な部分を両手で隠したその姿は、体のラインがハッキリしないものの、俺の頭を沸騰させるには十分であった。今日、ドレスから一時的に布一枚になった時とは全然違う。

 直視すると理性が負ける可能性がある。


「あ、明日は起きたらすぐに『ウォータ』に向かうからな。そこで冒険者ギルドに登録する。今後お金を稼ぐのに必要だからな……。だ、だから、今日はちゃんと身体を休めろ。良いな」


「はい。ただ……」


「どうした?」


「ちょっと右の足首が痛くて……。どこかでひねったみたいです……」


 今までそんな素振り全然見せていなかった。緊張がとけ、痛みが出てきたのかもしれない。


「ちょっと見せてみろ」


「はい……」


 リリーはそう言うと湯船から右足を出す。高級絹のような肌だ。触れると吸い付いてくる。ずっと触っていたい。いや、何考えてんだ俺。リリーは怪我をしているんだ、真面目にやれ。それにしても、奴隷をしていた俺とは肌の質が違うな……。同じ人間とは思えない。


 まじまじと足首を見る。確かにかなり腫れている。腫れている部分を少し触ってみる。


「いたっ……いたい、で……す……」


「あっすまない」


 俺はすぐに手を離した。多分捻挫だろう。これくらいなら『ヒール』ですぐ治る。奴隷の時は違い、コソコソと魔法を使う必要がないというのは楽で良い。右手に魔力を溜める。次第に光が集まってきた。


「ヒール、ですか?」


 リリーはびっくりしたようだった。そう言えば、魔法を使える事を話していなかったな。


「ちょっと痛いかもしいれないが我慢しろよ」


 俺はリリーの腫れた足首に直接魔力の塊を当てた。


「えっ――――-直接当てるんですか!あっ……あっ……ああっ!!」


 みるみる腫れが引いていく。問題なく成功だ。正直これくらいの傷なら一瞬だ。死んでなければ大体治せる。始めから強い力を持っていた訳ではないが、転生する際にもらった能力なだけあって、かなり性能が良かった。


「足、動かしてみろ」


「は、はい――――。あ、ほんとに痛くない……。すごいヒールですね!」


「ありがとう。結構自信あるんだ」


「私の知っている限りでは、ここまで素晴らしいヒールを使う方はいませんでした。普通、回復までもっと時間がかかります。それに使い方もちょっと違いますね。私達は、患部に直接魔力を当てません。だから――――-えっと、痛くもないんです」


「えっ?治療中痛くないの?」


「はい。ただ治りはこんなに良くないですけどね」


 知らなかった。確かに、俺は魔法を誰かに習った訳ではない。使いやすいように『ヒール』を使っていただけだっだ。この方法も、単に一番回復能力が高かったからだ。リリーの治った右足首をさすってみる。痛そうな表情は見せない。しっかり治っている。

 

 ふくらはぎ、太ももと続けて触ってみる。続けて首筋、肩、二の腕、手のひら。

 指先に小さな擦り傷を発見した。試しに、傷口に触れないように治療してみる。傷はあっという間塞がる。この程度の傷では、感じる痛みもたかがしれている。これではよく分からない。

 

 仲間に『ヒール』を使う場合、痛みが発生するこの方法は大きなデメリットだ。やり方を考える必要がある。


「あの――――-」


 リリーはもじもじと何か言いたげだ。しかも顔が真っ赤になっている。


「は、恥ずかし……です――――-」


 ここで始めて、自分がやっている変態行為に気付いた。握っていた手を慌てて離す。こうなってしまったら、やることは一つしかない。


 ――――――――――――――――――――誠心誠意の『土下座』だ。

いつもありがとうございます。そして、ブクマしていただき本当にありがとうございます。今回は区切りの関係で、ちょっと文字数が少なめです。次回はいつも通りの文字数になる予定ですので、よろしくお願いします。

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