鍛錬と次の旅へ
「すいませーん、お待たせしました」
「待たせたなー!」
リリーとヴェルデが広場にやってきたのはそれからすぐだった。
「遅かったなあ」
先程までリリーについて真面目な話をしていたが、いざ本人を目の前にすると今まで通りの感じになる。まあ、それでいいんだと思う。気張ってても、旅は長いし疲れてしまう。
「えへへ、ヴェルデちゃんに色々教えてもらってたら楽しくなってしまって。見て下さい、こんなにカワイイドレスを買いました」
戦闘に使えるアイテムを探していたんじゃないのか、と思わず言いたくなる。だが、今まで着ていたドレスよりもスカートの丈が短くなったせいか、スラリとした長い脚が強調されてとても素晴らしい。
「ちょっと恥ずかしいんですけどね。ヴェルデちゃんがオススメだって言うから」
やはりヴェルデのせいか。相変わらずスケベなおっさんのような性格をしているエルフだ。「戦闘にはこっちのがいい」とシーザリオに得意気に語っているが、絶対に嘘だ。
チョコチョコとヴェルデが近づいてきた。
「実はお兄ちゃんの趣味に合わせてあるぞ」
小声で何を言いやがる。しょうがないので頭を撫でてやる。良くやった。
「へへん。まったく、お兄ちゃんはえっちだなぁ」
何も言い返せん。
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ヴェルデはその場で鞄を逆さまにし、買ってきたアイテムを地面に広げた。そんなに乱暴な出し方をして壊れないのか。
「魔力爆弾を改造するのはかんたんだから、ちゃちゃっと手本をみせるよん。まずこれ」
見た事のない草だ。全体的に青みがかっていて、見た目がとても不味そうだ。
「なんだこれ?」
「私は知っているぞ」
シーザリオは知っているようだ。
「睡眠草だよ。リリーお姉ちん、この草に火を付けてちょうだい」
リリーが頷き、着火マンことファイヤーボールを使って睡眠草に火を付けた。
「わ、煙が出ましたよ。ふわー、すごい黒い……ふにゃあ……」
ん?突然眠り始めたぞ。
「はっはっは、睡眠草の煙を嗅いでは……ふにゃあ……」
ってシーザリオさんも何巻き添えを食らってるんですか!
「いやあ、リリーお姉ちんが使うと威力が増すね。さあ、二人のお姉ちんは深い眠りについた。おっぱいを触るなりなんなり、どうぞ好きにしていいよ」
何を考えてるんだ、このエルフは……。ここまでくると突然オークに変化するんじゃないかと心配になってくる。この場合、女版オークとして男を探し求めるようになるのだろうか?
というかこれ、俺も眠くなってきたんだが……。
「そうだ、お兄ちゃんはこれ食べて。眠気覚まし」
「た……助かる……」
一口噛んだ瞬間、口から火が出るかと思った。唐辛子みたいな形状をしている段階で気をつけるべきだった。ババネロ以上に辛いんじゃないか。
とりあえず二人を起こさなければならない。だが、ちょっとだけ眺める。せっかくの機会だ。
――――-二人の口に強引に唐辛子を押し込んだ。
「み、水をくれ!!」
「わ、わ、わ、わたしにのも……」
俺は二人に水を渡す。一杯じゃ足りないようで、近くの井戸から水を追加してくる。
「はあ、まさか眠ってしまうとは思いませんでした」
「私も油断していたっ」
辛さが引いたようだ。じゃあ早速魔力爆弾の改造を……。
「お姉ちん達が寝ている間に、お兄ちゃんがおっぱいをこねくり回していたぞ」
おい、なんて事を言い出すんだ……。
「………」
リリー……、胸を抑えながら黙りこくるのはやめて下さい。顔も真っ赤だし、何もしてなのに悪いことをしている気分になってしまいます。
「くっ……。責任を取ってもらわないといけないな……。子供の名前はどうしたら……」
子供ってなんですシーザリオさん……。おっぱいこねくり回されただけじゃ妊娠はしないから安心して下さい。
「ふふふ、安心しろお姉ちん達。さっきのはウソだよ」
二人揃って安堵の声をあげる。もちろん俺も安堵の声をあげる。
「そうですよね、スキルはそんなことしませんよね。でも、もし望むのであれば……」
そこで言葉を濁すのはやめて下さい王女。
「まあ、スキルは子供だ。触られたからといってどうって事ない」
子供の話まで進んでいたあなたが言うセリフじゃないぞ。
ああ……早く魔力爆弾の改造をしたい……。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
その後、俺とリリーは三週間ほど簡単なモンスターの討伐に依頼を受けながら鍛錬を続けた。以前よりは戦いにも慣れ、リリーも少しだが動けるようになった。
ヴェルデに関しては、エイシャに無事の報告をエルフの村にしてもらったため、一緒にいてアイテム関係の手伝いをしてもらっていた。俺達がある程度戦える時になったら、村に届ける約束になっていた。
シーザリオに関しては、三週間ずっと俺たちに付きっきりで剣術は魔法を教えてくれた。今後も旅に同行する予定ではあるが、以前から契約している長期の依頼をこなすために、一時離脱する事が決まった。依頼が終わり次第合流してくれるそうだ。
いつまでもゆっくりはしていられない。困難な道だと分かっていても進まなくてはいけない。
――――-そして、ついに新たな旅立ちの日がやってきた。
この二人ならきっと、この「水の精霊の義」を無事に成功させるだろう。王や貴族を納得させる事も出来るはずだ。
なにせ二人には強い絆があるのだから……。
いつも読んでいただきありがとうございます。以上で終了になります。ご愛読いただきまして誠にありがとうございました。連載終了の詳しい内容については活動報告をご覧下さい。




