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閑話とステータスの確認

 オークの討伐から二日が経った。ブル・ウォータの生活にも慣れ、今日はギルドに報酬を受け取りに行く日だった。朝食の準備をするために台所を借りる。昨日市場で買ったりんごをスライスし、レタスに似た葉野菜の上に並べる。細切れにした干し肉と茹でたじゃがいもを加え、塩と胡椒で味付けしたオリーブオイルを垂らして完成だ。


 リリーはベットの上でぼんやりと天井を見つめていた。朝に弱いらしく、この姿が毎朝の儀式になっている。「だったら寝てればいいのに」と伝えたが、城での生活習慣が抜けないらしく、目が覚めてしまうらしい。

 教育係の先生はとても恐い人のようで、1秒でも遅刻をすればムチで叩かれたそうだ。「今日はサラダなのですね」とボサボサの髪のまま食べ始める。髪のボサボサ具合は日々進化しており、意外とズボラな性格なんじゃないかと思い始めた今日この頃だ。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


 ギルドは朝早くから開いている。飛び込みの依頼も多いそうで、それに対応するためだそうだ。受付のメイド姿のお姉さん達は奴隷上がりの冒険者で、受付の業務のかたわら他の依頼もしっかりとこなしているらしい。


「あ、お早うございます。ウッドさん」


 椅子に腰掛け、ウッドベンがビールを飲んでいた。ギルドでは飲食も提供している。どちらかといえば、食べるよりは『飲む』に特化している。


「おお、リリーちゃんか。今日も可愛いね」


「そんな。ウッドさんもカワイイですよ」


「分かるか? きっとこの筋肉のおかげだろうな」


 朝から酔っ払いを相手にするのは大変だ。リリーの身分についてはシーザリオにしか話をしていない。

 ウッドベンはギルドランクはFで、職業は戦士だそうだ。話を聞くと、この後ヒボク村まで商人の荷車の護衛をするという。相方はもちろん同じ人だ。名前はアドと言う。

 


 受付のエリシャに声かけた。始めてギルドに訪れた時もこのメイドのお姉さんだった。ギルドランクはBで、職業は『通信士』とのことだった。通信士とは、呪術的な能力によって、遠く離れた通信士と連絡が取る事が出来る人達だけがなれる専門職だそうだ。文字を飛ばしたり、言葉をそのまま飛ばしたりと、このギルド運営において要の人達だ。


「あら、お二人さん。今日は早いのね」


「「おはようございます」」


「うむ、元気があってよろしい」


 なんとも学校の先生のような人だ。


「報酬を受け取りに来ました」


「準備は出来てるよ。お疲れさま。今回は緊急の依頼だから、通常のランクの依頼より報酬を弾んでるよ」


「本当ですか! やったねスキル」

 

 10万ゴールドあったお金はいつの間にか半分近くまで減っていて、お財布事情は少し危うくなっていた。まあ、オーク討伐達成後に宴会をしてしまったのが原因でもある。シーザリオには感謝しかないが、まさか酒豪だとは思わなかった。ほぼ酒代で消えた。


「ありがたいです」


 明細票を見せてもらう。


【依頼ランクD】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 基本報酬    15万G                


 特別報酬    15万G


緊急案件     3万G               


 仲介手数料   ▲1万G


 合計支払い額  32万G



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 仲介手数料が引かれるのか。まあ、しょうがないかな。それにしても、想像以上の金額だった。無駄遣いをしなければ二ヶ月は暮らしていける額だ。


「この特別報酬というのは?」


「それはシーザリオさんからね。元々シーザリオさんへの報酬なんだけど、あなた達にあげるって」


 ただでさえ頼りきりになっていたのに、その上お金までくれるなんて。お人好し過ぎるぞ。


「そんな、受け取れません。シーザリオお姉様にもそうお伝えください」


 リリーのその言葉はもっともだ。


「いいのよ、受け取んなさいな。どうせあの子はこの100倍を受け取るのが日常なんだから。もちろん一回の依頼でよ」


 ――――-1500万Gってことか!


「そうですか……。確かに子供のお小遣いほどもありませんし、無理にお返しするのも逆に失礼かもしれません。ありがとうございますとお伝え下さい」


 深々とリリーが頭を下げている。王女様だけあって、金銭感覚がかなりズレている。浪費グセがなさそうのは救いだが、少しずつ直していただこう。でないと旅の運営に支障が出る。


「でも、すごいですね……シーザリオさんは。Sランクというのはそんなにも違うものなのですか?」


「正確に言うと、彼女はSSランクなのよ。頂点の中でもさらに選ばれた人達ね。職業も「騎士」と名乗ってはいたけれど『聖騎士パラディン』が正しいわ。少なくても、このギルド内では、サポート役において右に出るものはいない。無料で手を貸してもらえるなんて、本当に奇跡なんだから」


 凄い人だとは思っていたけれど、まさかそこまで凄かったのか。


「でもランクってどうやって決定しているのですか?」


「あげた指輪があるでしょ?それってギルドランクを表す以外にも役割があって、装備者の能力値も計っているの」


 最初にもらった鉄の指輪の事だ。エリシャは何やら書類を探している。


「あなた達のプロフィール表よ。最初に書いてくれた用紙なんだけどね。これに指輪をかざしてみて」


 言われるがままに指輪をかざす。ぼんやりと指輪が光った。プロフィール表に文字が追加されていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前  【スキル・ファルデ】

性別  【男】

年齢  【14】

職業  【剣士?】D- → D+

暗黒魔法【ヒール】S+


総合評価 C



名前  【リリー・ローファン】         

性別  【女】

年齢  【14】

職業  【魔法使い】G-

黒魔法 【ファイアーボール】G-

白魔法 【ヒール】G- →  G

追加項目【スキル】馬術 G+ →  F-

獲得  【スキル】アイテム士


総合評価 G-



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「能力の増加は、指輪の装着時から判断してるわ。もっと詳しいステータスも見れるけど、もう少しデータが揃ってからのが正確かもね。今はこれで十分な目安だと思うわ。あとこれ、スキル君はランクが上がったから新しい指輪ね」


 鉄製なのは同じだが、僅かに宝石のパールが埋め込まれていた。


「私、こんなに弱っちいのですね……」


 肩を落とし、激しく落ち込んでいる。


「でも、二つもスキルが付いてるぞ。ヒールも成長してるし、これからだよ」


「そ、そうですかね!私、強くなれますかね!?」


「ああ」


「もっと修行して、みんなの役に立ちたいです」


 やる気がみなぎってきたようだ。「がんばるぞー、がんばるぞー」と呟いている。


 表を見ていたら一つ気になることがあった。


「剣士の後ろに【?】が付いてるのは?」


「申請してくれた職業と適正職業が違うって事ね。これ珍しいわよ。剣士としても悪い能力じゃないし、『聖騎士パラディン』を目指しても良いかも。でもヒールに暗黒属性が付くなんて、よっぽど特殊な『ヒール』なのね。でもその年でS+は本当に凄いわ!」


 そう言ってもらえるとお墨付きをもらったようで、かなり嬉しい。暗黒属性が付いてしまっているのは、多分、回復時に相手に痛みを伴ってしまうからだろう。


「総合評価は剣士基準だから低めに出ちゃってるけど、もし治癒士ヒーラーに転職すれば、すぐにS級の依頼を受ける事が可能よ」


「いえ、剣士のままでいいです」


 旅の目的はあくまで聖地『ベネティス』にリリーを送り届ける事だ。まあ「帰って来るまでが旅行です」理論が適応されてはいるけれど。だから、金持ちになる事が目的ではない。リリーとの職業バランスを考えた上でも、剣士として成長した方が絶対に良い。


「リリーちゃんは――――-まあまだ若いし、これからって感じかな。少しずつ成長してるし、頑張ればきっといい魔法使いになれるわ」


「私、がんばります!」


「それに、白と黒の魔法を使えるのって才能だから。努力じゃどうにもならない。羨ましいくらいよ」


 褒められたのが相当嬉しかったのだろう。「スキル、『やるぞー、おー』をしましょう!」と言い出し、半ば強引にやらされた。ちょっと注目され恥ずかしかった。


 

 

 その後、市場で食料の買い出しをして宿へ帰宅した。初給料という事もあり、いつもより高い肉とお酒を買い揃えた。シーザリオとヴェルデを誘い、今晩はちょっとした宴会をする事にしたからだ。

 

いつもありがとうございます。またブクマしていただきありがとうございます。今回から旅の準備編です。

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