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オーク討伐

 その場で手枷を破壊し、エルフの女の子を宿に連れてきた。筋肉の男は自分の家に戻った。


「名前は? 君はエルフなのか? 」


 ベットに腰掛けたエルフに問いかける。少し疲れているようであったが、思った以上に元気がだった。毛布を頭から被り胡座をかく。


「うん、そうだよ。あたしヴェルデ。10歳のおねえさんだぞ。おねえちゃんと呼べ」


 自慢げに胸を張る。だが胸はない。当然ながら。


「10って、俺のが年上じゃねえか」


「えっ、そうなのか? うーん、人間年齢はよく分からんな。じゃあ、お前はお兄ちゃんだな。よろしくな、お兄ちゃん」


「お兄ちゃんて……」


「あたしは妹だからな、何でも言うことを聞くぞ」


 頭が痛え、調子が崩される。全体にいたずらっ子のような雰囲気はエルフという種族のせいなのか、この子の性格のせいなのか。


「それで、オークから逃げてきたというのは本当か?」


 シーザリオが相変わらず真面目な表情で聞く。宿に来るまでの間、簡単な話は聞いていた。


「そうだよ、おっぱいのお姉ちゃん」


「おっぱ……くっ!」


「ひゃん!」


「ふふふ、いい声で鳴きますのう」


 なんだこれは。シーザリオさんも何を顔を赤くして恥ずかしがってんですか。そしてヴェルデ、どさくさに紛れてリリーの乳を揉むな。リリーも変な声を出すんじゃない。

 ピンク色の空気だ……。緊迫した空気が一気に失われていく気がする。ここに筋肉男さん(ちなみに名前はウッドベンと言うらしい)がいてくれればもう少し違ったはずだ。ただ、この空気、嫌いじゃないよ。


「友達と薬草集めをしていたら森で捕まっちゃって。豚野郎オークは二匹だけだから、隙を見て逃げ出したの。近くの小屋で隠れてたんだけど、いつも間にか寝ちゃった。へへへ」


「でも良かった逃げ出せて。オークの奴隷になったエルフは酷い扱いを受けると聞きます」


豚野郎オークはスケベだからねえ。ムッツリのおねえちゃんの言う通り、逃げられて本当に良かったよ」


「わ、わたしはムッツリなんかでは―――――」


 何がともあれ、本人に悲壮感がないのは良いことだ。リリーの話のように、オークの奴隷になったエルフの扱いは本当に酷いらしいからな。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


 ここのトイレ汚いなあ。まあ、トイレがあるだけマシだと考えるべきなのかもしれん。ギルドに掃除の依頼を出してくれるように村長に伝えておこうか。

 夜空に広がる星空がとても綺麗だ。宿までは少し距離があるものの、星空を眺めながらであればそんな事は気にならなかった。


 ヴェルデは騒ぐだけ騒いで今はグッスリ眠っている。シーザリオは「外の様子を見てくる。二人はここで待機してくれ」と言い残し出て行った。リリーはだいぶ疲れが溜まっているようで、ヴェルデに寄り添うように眠っている。ついこの間まではずっとお城の中で守られて生きてきてんだ。外の世界に放り出され、今は見たこともないモンスターと戦っている。疲れるのも当然だ。

 

 きっとシーザリオはこの状況を見越して俺とリリーを誘わなかったのだろう。さりげない気遣いがありがたかった。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


「お手洗い行って来ます……」


 リリーが目を覚ましたようで、そう言い残し部屋を出て行った。俺もうつらうつらしていた。


「……ああ、いってらっしゃい」


 頭がぼんやりしている。ローファン城で仕事をしていた時のがよっぽど疲れるはずなのに、これが環境の変化ってやつか。


 シーザリオはまだ戻っていないようだ。今は何時頃なんだろうか。


 宿の外は、たまに警備兵の談笑する声が聞こえてくるくらいで、基本的にしんと静まり返っている。特に大きな動きはなさそうだ。


 ちらりとヴェルデを見た。幸せそうな顔をして寝ている。飼料小屋で眠っていた時は表情が違った。安心しているのだろう。


 早めにオークを討伐しないといけない。放っておけば、また別のエルフが被害に遭うかもしれない。リリーが戻ってきたら警備に加わろう。


「キャーーーーーーーーーーーー」


 突然悲鳴が聞こえた。リリーの声だった。


 武器を取り宿の外に飛び出す。シーザリオも馬を走らせやってきた。


「乗れ! オークが出現した! 」


 俺は飛び乗った。


「今リリーの悲鳴が聞こえた!」


「やはりか!二匹のオークの反応がどんどん村から遠ざかっていく。追いかけるぞ!」


 村を飛び出す。


 牧場内を駆ける。


 星空の下、疾風の如く駆ける。


 まだ見えない。


 更に駆ける


 「もう少しだ!!」シーザリオの声が響く。


 更に、更に駆ける。


 だんだんと村が遠のく。少しずつ闇が濃くなっていく。


 その時。


 見つけた!

 

 ついに二匹のオークの背中を捕らえた。


 リリーがオークに抱きかかえられている。気を失っているのか、抵抗している様子はない。

 

 今助けるぞ。

 

 だが、想像以上に足が早い。相撲取りのような体格をしているとは思えない動きだ。まさに弾丸肉団子だ。

 一匹のオークが立ち止まり俺達を待ち受けた。


「こいつは私が相手をする! もう一匹は頼んだ! リリーを助けろ!」


 そう言い放ち、シーザリオは馬から飛び降りる。


 鞍上あんじょうを譲り受けた俺は更に馬を加速させた。


 みるみる差が縮まる。逃がすもんか。


 捕らえた!


 馬を回り込ませ、俺はオークの前に立ちはだかった。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


 オークはリリーを雑に投げ捨てると、腰にぶら下げていた剣を構えた。


「痛っ……」


 地面に落ちた衝撃でリリーは目を覚ましたようだ。


「えっ……あっ……スキル!!」


 俺に気づいたようだ。


「体は大丈夫か?」


「はい」


「助けに来た。少し離れてろ」


「はい!!」


 オークは剣を構え、じっとこちらの動きを見ている。それにしてもデカい剣だ。剣というよりは大きなナタと言った方がしっくりするかもしれない。


「オンナ、オンナ、ワタサナイ。オンナ、ホシイ」


 少し言葉が喋れるのか。


「お前たちの目的はなんだ? なぜリリーを狙った」


「オンナ、オンナ、ワタサナイ。オンナ、ホシイ」


 駄目だ。言葉が全く通じていない。もしかする女の子であれば誰でも良かったのかもしれない。


「オンナ! タベタイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


 雄叫び共に突っ込んでくる。やはり早い。一気に間合いを詰められ頭部にナタを振り下ろしてくる。俺は交わしきれず、なんとか剣で受け止める。だが―――――大きな岩石を受け止めたような衝撃が腕を襲った。


 身体を横にずらし、その場を離脱、再び間合いを取る。ナタを受け止めた衝撃で右腕がありえない方向に向いていた。骨が僅かに飛び出している。あまりの痛さに叫びそうになったが、グッと堪えヒールを使用する。このヒールだって無限に使用出来る訳でない。無駄に傷を負う事だけは避けなければいけない。


 しかし―――――この戦闘にリリーが参加できないで良かったと心の底から思う。オークは強い。リリーを見ながら戦えるほど、今の俺は強くない。


「オンナ、オンナ、モラッテイケル、オンナ、カイタイ。カラダ、カラダ。ヤワカイイイイイイイ」


 くそったれ。勝てると思ってやがる。よだれが汚いんだよ。

 ヴェルデの言う通りとんだドSのスケベ野郎だ。性欲がビックバンだ。どこの世界にもこういう奴はいるのか。エッチな薄い本でも渡せば大人しく引き下がるんじゃないのか。絵の才能があれば平和的な解決方法もあったかもしれない。


 俺は再び剣を構える。真っ向勝負では勝てない。


 スピード、パワー―――――これらは豚野郎ぶたやろうのが上だ。


 俺は真っ向勝負しか出来ない。ただ、やり方を変える。オークは頭が悪いと言っていた。確かにそう感じる。豚野郎の脳みそが背脂とにんにくの塊で出来ているなら、こちとら少しだけ頭を使ってやる。


 本気でやってやる。ここで負けたらリリーを助けられない。不安そうな顔をしてこっちを見てやがる。できれば楽勝で勝ちたかった。リリーを不安にさせたくなかった。


 ただ、もうそんな事は言ってられない。リリーは俺が助ける。


 オークのふところへ飛び込んだ。やはり向こうのが早い。さっきと同じ間合い、同じ形、そう、頭部に隙が大きい状態。だったら――――-やはりさっきと同じように、頭部へナタが振り下ろされる。


 狙い通りだ。


 わざと身体の重心を傾けて飛び込んでいる。今度は避けられる。右肩が切られたが、そのまま回り込み、すれ違いざまにオークの手首を切りつけた。

 ボトリ、とオークの右手首が地面へ落ちた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオ」


 呻き声が響く。


「ハア、ハア、小手の一本かな」


 剣道なんて体育の授業でしかやっていない。ただ、知識は大事だ。知っていれば使える事もある。大した知識を持って転生していない俺だけど、そのわずかな知識を振り絞ってこの世界を生きている。


 右肩に痛みが走る。ギリギリで避けた感じがしたが、結構深く切られている。しかもヒールをかけても治りが悪い。痛みが引かない。筋肉さんを助けた時から、魔力が完全に元に戻っていない。


 しかし、オークはもう武器を持つことが出来ない。怒り狂って闇雲に突っ込んでく弾丸肉団子を――――-ヒラリと交わし――――-まるでバッファーを仕留めるように――――首の後ろに剣を突き刺した。


 声もなくオークは崩れ落ちる。


 ピクリとも動かない。


 俺は、ゆっくりと剣を収めた。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


 その後、シーザリオがすぐにやってきた。「スキルならやってくれると思っていた」という言葉に励まされたが、オークが予想外に強かったため冗談混じりに文句を言ってやった。

 

 治りきらなかった右肩には、リリーがヒールをかけてくれた。治った『気がする』。あくまで気持ちの問題だ。リリーも日々成長している。今はこれで問題ない。

 

 続々と村の兵士が集まってきた。その中にはヴェルデもいた。ヴェルデを奴隷にしようとしていたのはこの二匹のオークで間違いないとの事だった。


「お兄ちゃん達すごく強いんだな! 本当にありがとう! 」


 と言い喜んだ。相変わらず軽い言い方だが、心の底から喜んでいるのは本当のようだ。筋肉男ことウッドベンも一緒に喜んでいた。


 村に帰るため馬を借りた。後ろにリリーを乗せ出発した。『眠り草』を使われて連れ去られたようで、怪我はなかった。俺の腰をしっかりと掴み、身体を背中に押し付けている。


「スキルと一緒に旅が出来て、本当に幸せです」


 前にも聞いた言葉だ。ただ、あの時とはまた言葉の意味が違うのかもしれない。


「まさかリリーが捕まるとは思わなかった。てっきりヴェルデが狙われるものだと思ってた」


「えへへ、私もそう思います。おかげで、お手洗いに行きそびれてしまいました」


「今度は付き添ってやるよ」


「お願いします。ちょっと恥ずかしいので、遠く離れて待っていて下さいね」


「それじゃあ、付き添った意味がないじゃないか」


「確かにそうですね、ふふふ」


 満天の星空の下で、なんて汚い会話をしているんだ、全く。




 ――――-こうして、俺達の最初の依頼は無事に終わったのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます。また、ブクマをしていただきありがとうございます。

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