エルフの女の子
ヒボク村に到着した俺達は、二手に分かれて情報収集をする事になった。オークがこの村を襲った目的を知る必要があったからだ。エルフの情報が見つかれば完璧だ。
リリーにはシーザリオが付いていた。探査魔法『ファインダー』をストレー街道で使用し過ぎている事もあり、今は展開していないそうだ。万が一オークに出くわした場合、必ず逃げる事になっていた。
ここ二日間はリリーと一緒の事が多かったため、こうやって一人で歩くのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。ヒボク村は中規模の農村のようで、大規模な牧場と畑が特徴的だ。家屋もしっかりとした土壁の建物が多く、普通の農村よりも裕福な層が多いように感じた。庭先には鎖で繋がれた奴隷も多くいる。自分が産まれた故郷の村に少し似ている気がした。
肝心なエルフの情報だが、出会った村人達に話を聞いて回ったものの、特別有益な情報はなかった。途中からは地元の奴隷達と話しをしている事のが多かった気がする。
リリーとシーザリオと合流した後、皆で村長の家を訪れた。
始めは事務的な対応の村長であったが、シーザリオがギルドランクSだと分かった途端上機嫌になり、晩御飯までご馳走してくれた。
ふんだんにハーブと香辛料が効いた蒸した鶏肉に、地元野菜のスープと名産だという小麦粉が使われたパン。全て美味かった。オークと戦闘の可能性があるため、ワインを断ったのが心残りだが、代わりに貰ったりんごジュースがまた格別に美味かった。
さすがに村長は事件について良く知っていた。事件の後は兵士経験のある村民達が警備をしているそうで、二体のオークが何度か姿を見せているという。一度だけ弓で威嚇を行った所、その後から姿を見せなくなったそうだ。「もう大丈夫だと思うよ」と村長は語っていた。
だが、オークの目的は分かっておらず、不安は残ったままだった。
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「御馳走様でした。警備をする前に、私達はご紹介いただいた宿で少し休ませていただきます」
シーザリオが頭を下げると同じように、俺とリリーも頭を下げた。村長は「ローファン国一の宿です」としきりに自慢をしている。オークの件は村長にとってはもう終わった事のようだ。
ふと、扉の向こうから5~6歳位の女の子が顔を出している事に気付いた。恥ずかしいのか、物珍しいのか、顔を出したり引っ込めたりしている。
「なんかカワイイですね」
どうやらリリーも気付いたようだ。確かに可愛らしい。手を振ってみる。
「あ、手を振り返してますよ。こちらに来ませんか? 一緒におしゃべりしましょう」
おいおい、もう宿に戻るって言ったのに。まあ、女の子も嬉しそうだしいいかな。
「こんにちは。お名前はなんていうのかな?」
「エリン……。エリンね、小屋の近くで、へんな人を見たの」
「ん~? どんな人かな?」
「見たことない、おんなの子。エリンよりはおとなだけど、おとなじゃないよ」
「エリンちゃんのお友達じゃないの?」
大きく首を振って否定する。
「ううん。エリン、おともだちだったらすぐに分かるよ」
予期しない発言だった。大人ではない女の子がこんな村に一人で訪れるとは考えられない。間違いなく事件に巻き込まれている。そして、一番可能性が高いのがオーク絡みだ。
「シーザリオさん、女の子ってもしかして」
「ああ、エルフかもしれない。エリン、その場所まで案内してくれ」
一気に騎士の顔になる。さすがにその顔で小さい子に近づいたら……。
「え? え? え?」
「お姉様、エリンちゃんが怯えてます」
そうなるよな。そら恐いよ。俺だってちょっと恐いんだから。
「しまった!すまない。私は恐くない!恐くないぞ!」
めちゃめちゃ困ってますね、シーザリオさん。普通に笑えば問題ないのに、一生懸命笑顔を作ろうとして逆に失敗ている感じだ。せっかくの綺麗な顔が崩れすぎている。にらめっこの大会があったらぶっちぎりで優勝する顔だ。
ともかく、もしその子がエルフだとしたらすぐに助けなくてはいけない。オークはその子をまだ探している可能性が高い。
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エリンが案内してくれた小屋は、バッファーの牧場の近くにある今は使用されていない飼料小屋だった。
古びた木の扉が少し開いている。そこだけ汚れが途切れており、明らかに最近開けられた痕跡だった。『ファインダー』は展開しているが、あくまでモンスターしか探知出来ないため、俺達は警戒しながら扉を開けた。
松明を掲げ小屋の中を照らす。
「誰かいるか?」
俺が最初に問いかけた。
「い、いたら返事をお願いいたします……」
リリーも勇気を振り絞って問いかけている。
「あそこに誰かいるぞ!」
シーザリオが指差した方向を見ると、枯れたワラの上に10歳から12歳位の少女が横たわっていた。
さらに近づく。死んでいるのか、意識がないのか、眠っているのか、反応がない。
顔を照らした。わずかに緑がかった金髪に、目がくらむほどの美しい顔。そして、エルフの特徴である長く尖った耳。服は、蝶蝶のような羽が生えたヒラヒラのドレスを着ている。
この子は、間違いなくエルフだ。しっかりと呼吸をしている事を確認する。多分寝ているのだろう。酷い出血も見当たらない。ただ、しっかりと施錠された手枷が気になった。
「うぅ~……うぅ~……」
さらに奥の方からうめき声が聞こえてきた。俺達は咄嗟に武器を構えた。恐る恐る声の元に歩み寄る。そこには頭が禿げた、筋肉質の生物が横たわっていた。
「オークか!」
俺は剣を抜いた。まさかエルフと一緒にオークがいるとは。完全に油断していた。
「違う! よく見ろ! あれは人間だ!」
シーザリオが俺の前に立ちはだかった。よく見れば特徴である緑色の肌をしていない。装備から判断すると戦士のようだった。よく見れば血だまりが出来ている。
「あれは『ヒボク村の男』の相方だ。スキンヘッドの筋肉体型の戦士という特徴に一致する」
あの男の相方か。死んでいるかもしれないという話だったが、なんとか生きているようだ。良かった生きているなら『ヒール』で治す事が出来る。
男に駆け寄り傷口を確認する。出血の元は腹部か。ここまで歩いて来たようで、その影響で傷口が更に開いてしまっている。相当に酷い。少しでも俺達の発見が遅れていたら間違いなく死んでいた。
「な……なんだ、ガキ……か……」
コンビで同じ反応をするんだな。仲が良い奴らだ。
「しゃべるな。今治療する」
「ど、どうせ、俺は、もうじき死ぬ……。あのエルフの子を……オークから、守ってやってくれ……。あと、もし……俺の相方に会うことがあったら……ゴホッゴホッ……ありがとうと伝えて……うがああああああああああああああああああああああああ」
よし治療完了。これでもう大丈夫だ。時間がなかったんだ、かなり痛かったかもしれんが勘弁してくれ。
「てめえ! 何しやがる」
筋肉男は思わず殴りかかろうとしてたが、すぐに体が治っている事に気付き、その手を止める。
「すげえ! 治ってやがる! 」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ筋肉男。その体重で飛び跳ねないで欲しい。ホコリが舞ってしまうだろうが。
「す、すごい回復能力だな……。もはやヒールの域を超えている」
「スキルって凄い人だったんですね…」
二人ともかなり驚いている。そういえば、深い傷をこれだけの速さで治す所は見せたことがなかったな。
その時だった。
「……だれか、いるの?」
話し声で起こしてしまったかもしれない。エルフの少女が目を覚ました。
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