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P.9 どたばた!修学旅行

修学旅行の当日。

行きの電車の中、僕は内山の隣の席で、熱いカード話に耳を傾けていた。




「そ、そ、それでこのカードの出番なわけですよ。エヘヘ。あ、あ、相手の攻撃をう、受け流すことが、で、で、できるんですぅ!」



内山信輝。通称、デブウェイザーだ。

岡田真之介グループ所属。担当はカード。

見た目から太っていて、牛乳瓶の底のようなメガネがチャームポイント……なわけあるか!

普段は、暗く、ほとんど会話をしない奴なのだが、カードの話題になると、異常にテンションをあげ、マシンガントークを展開する。



「ァ、アハハ、なるほどね。」


「そ、そ、それとですね!こ、このカードの、こ、こ、効果も凄いんですよっよっよ。」


「慌てなくて良いから、ちゃんと喋ってくれ。」


「わ、わかり、ま、ま、ました」



突然、内山はたくさんのカードが入ったケースを、鞄の中から取りだした。

何十枚単位ではない。この量だと何百枚単位だ。



「こ、このカード、レ、レベルの割りには、か、か、かなり使えるんですよ!」



パラパラとカードをめくっていく内山。そして、迷いもなく、目的のカードを見つけた。

なんてスピードだ。何百枚あるカードの中から、目的のたった一枚のカードを、たった数十秒の間で見つけるなんて…

そんな特技があるなら、それを勉学とか、別な方に使ったら、もの凄いことになるだろうな…と、ひしひしと感じた。




「ちょっと、静かにしろよな〜。うちらの班だけだぞ、こんなうっさいの。」



前の席からひょこっと顔を出し、そう言ったのが、吉沢愛莉だった。



「ちょ、僕もかよ」


「何言ってるんですかぁ〜、な、内藤くんだって、た、楽しそうにしてたじゃ……」


「してないから!断じてしてないぞ」



内山は、なんてことを言いやがる。

まるで、僕と内山が仲良く、カードのことについて熱く語っていたみたいではないか。



「おおおお、内山氏!それに、内藤氏も、ここの席だったのですか!おはようございます!」



急に、真之介が現れた。



「おはよう」


「お、おは、おはよう」


「で、真之介、急にどうしたんだ?」



僕ら3班と真之介たち1班の車両は別であるのに、どうしてここまで来たのだろうか。

内山や僕に会いに……いや、その可能性は低い。

なぜかというと、班ごとに席が指定されるのだが、他の班がどの車両に乗っているのかは、知らされていないからだ。



「いや〜お恥ずかしいことに、トイレを探していたら、ここまで来てしまったのですよ。」



真之介は、照れ笑いをしながら、そう答えた。



「“ウォーリーを探せ”じゃあるまいし、簡単に見つけられるだろ」


「それでも、内藤氏に会えて、逆にラッキーですよ!」



真之介は、僕に向かってピースをしてみせた。

この指二本をどうにかしてやりたい。僕はそう思ったが、今はやめておこう。



「おお、内山氏!そのカードは、超ウルトラレアカードじゃないですかぁ!!」



真之介は、内山が持っていたカードに気づくと、目の色が変化した。



「この輝き、この強さ、素晴らしいですぅ!!」


「エヘヘ。き、昨日、カード買ったら、ぐ、ぐ偶然出てきたんだ。」


「羨ましいです!実に羨ましい!!」



僕は、話について行くことができなかった。いや、むしろ、ついて行きたいとは思わなかった。

なんだ、このオーラは。なんで、こんなにギラギラしている。車内は冷房がついて、快適な温度のはずなのに、なぜ、この空間だけ熱い。





「ちょっと、カードのことは分かったから、いい加減にしなさいよね!」



吉沢さんは、少々強い口調でそう言ってきた。


ざまぁない。そんなに熱く語っているから、怒られるんだ。ありがとう、吉沢さん。君は僕の救世主だ。





「そうですね。吉沢殿申し訳ありません。以後、気をつけますです。内山氏、内藤氏も、もう少し、ボリュームを下げて喋りましょう。」



おい、待て……



「なんで、そこに僕の名が入る?」


「何をおっしゃっているんですか、内藤氏。今まで、楽しく喋っていたではないですか〜」


「だから、喋ってねぇって。一言も喋ってねぇぞ!」




なんて言いがかりだ。

だが、いくら否定をしても、このチームオタク…もとい、チーム真之介のパワーには気負いしてしまう。実に腹立たしい。


これが、あと1時間も続くのか……かなりきついな……





「さて、実際にカードゲーム対戦としゃれこみましょう!」


「な、内藤くんには、ま、負けないぞ〜」



なんか、やる気だ。



「いや、遠慮しておくよ」


「またまた〜。遠慮しなくて良いのですぞ!」



真之介はそう言うと、どこからともなくカードを取り出し、僕に手渡してきた。



僕、もう、涙目です。











“ファンタジーランド”



昼頃には着くと、いっちーは言っていたが、それよりも若干早めに着いた。




僕は、長時間電車に乗っていたことと、長時間のカードゲーム対戦をやらされた結果、体調が悪くなっていた。




駅から出て、背伸びをする。とても、気持ちが良い天気だ。

天気予報通り、今日は雲一つなく晴れていた。



「すげぇ!!なんて規模だ」


「あのキャラクター何?きゃ〜わ〜い〜い〜」



他クラスの生徒も、修学旅行だからなのか、いつも以上にテンションが高めであった。



「とりあえず、いっちーのとこ集合らしいよ。行こうぜ。」



吉沢さんは落ち着いている様子だった。さすが、生徒会長といったところか。





いっちーの所にAクラス全員が集結した。

テンションが最高潮の翔太や真之介。それを楽しく見ている、仁やカノンの姿があった。



「ちゃんと、説明聞きなよ〜。あとで、説明してって言っても、説明しないからね」



1班の様子を見ていた僕に、そう言ってきたのは、吉沢さんであった。



「任せろって。携帯電話だって、説明書なしで操作できるし、問題ないね!」


「アハハ。それとこれとは、違うだろ」





いっちーの話は、いつも以上に長かった。

それもそうだ。こんなに広い所で遊ぶのだ。何らかの事件が起きることは、言うまでもなく予想される。

少しでも事件が起きないようにするためにも、話が長くなるのは仕方のないことだ。



「ってことで、みんな、くれぐれも個人行動は避けるように。必ず班で行動するんだぞ?」



ですよね〜。

こんな広い場所で、個人行動なんてしたら、すぐに迷子になってしまう。

仁や翔太たちは、班を抜けて来てあげると言っていたが、実際のところ、難しいだろう。



いっちーの長い説明が終わり、ファンタジーランドの中へ入る。

凄かった。ネズミーランドと同じ……いや、もっと広く感じた。





僕は、ファンタジーランドのパンフレットを見た。

予想通り、パンフレットには全体MAPが記載されていた。


このファンタジーランドというのは、いくつかのエリアがあるらしい。

一つ目のエリアは“ファンタスティックゾーン”

主に、ジェットコースターやお化け屋敷など、アトラクションが豊富なところみたいだ。


二つ目のエリアは“ショップ ザ ファンタジア”

名前の通り、大規模なショッピングエリアとなっている。


三つ目のエリアは“ファンタジー ゲームランド”

ここは、色々な対戦ゲームなどがあるらしい。真之介や内山が好きそうなところだな。


四つ目のエリアは“ファン フード”

飯を食べるところがかなり多いエリアだ。ここで、今日の昼飯は食べても良いな。







僕たちが最初に向かったのは、“ファンタスティックゾーン”であった。

内山は“ファンタジー ゲームランド”に行きたかったみたいだが、多数決で“ファンタスティックゾーン”に行くことになったのだ。

“ファンタスティックゾーン”は入り口を真っ直ぐ進み、ゲートを抜けた先にあった。




これまた、とても広い。

絶叫マシーンや、お化け屋敷。それに、なんの乗り物か分からないものまで、数多くのアトラクションが目にうつった。




「あれ乗ろうぜ!」





“ウルトラゾーン00”




吉沢さんが指さした先にあったものは、もちろん絶叫マシーンであった。

絶叫マシーンの中でもかなり手の込んでいそうなものである。

連続ループや様々な角度のカーブなど。絶叫マシーンが嫌いな人にとっては、まず乗ってはいけないものだろう。




「お、良いね。内山と、根本さんは大丈夫かい?」


「そ、そうですね〜、あ、あまり、す、す、好きじゃないんですが……」


「根本さんは?」



僕は、内山の話を最後まで聞かず、根本遥ねもとはるかに、乗れそうかどうか訊ねた。



「問題ありません」



なんとも淡泊な返答だった。



根本遥。

とにかく感情を表に出さないタイプである。というより、感情があるのかすら疑問だが……。

部活は、翔太の話によると、剣道部に入っているみたいだ。

なかなかの美人ではあるが、感情を出さない分、存在感がどうしても薄い。

それ以外の情報は、申し訳ないがもっていない。何せ、話したことが一度もないからだ。



僕は、やっぱり、吉沢さんがこの班にいてくれて良かったと思った。




「じゃあ、早速行こうぜ!!」



吉沢さんに牽引されるような形で、僕たちは“ウルトラゾーン”と言われる、化け物のようなアトラクションのある方へ向かった。

その乗り物があるところに到着すると、看板が立てられてあった。


“現在、この乗り物の待ち時間は20分です”


20分なら許容範囲だろう。

混雑時のネズミーランドに行ったことがあるのだが、その時、乗り物の待ち時間は、最低でも60分待ち。

人気のアトラクションでは、120分待ちとか180分待ちとか、異常な数値をたたき出していたのを今でも覚えている。

正直、1つのアトラクションに乗っただけで、1日が終わるとか、あり得ません。



ファンタジーランドも、9月の上旬ということもあり、なかなかの混雑具合だ。

それで、20分待ちなんていうのは、かわいいもんだ。




僕たちは、話すわけでもなく、当たり前かのように、列に並んだ。

だいたい20分経つと、僕たちの順番がまわってきた。




マシーンに乗る。

内山と、吉沢さんは一番最前列に乗り、僕と根本さんはその後ろの席に座った。

僕たちは係員の指示通り、ベルトを締めた。

絶叫マシーンだけあって、ちょっとした緊張感がこみ上げてくる。



「ちょっと、うっちゃん、ベルト締められないの?」



吉沢さんは、笑いを堪えて、内山のベルトを締める手伝いをしていた。



「い、痛い、痛いです〜」


「痩せるか、今我慢するか、どっちかにしなさい!」




正論です。




「根本さん、ベルトきつくない?」



僕は、隣の席に座っている根本さんに尋ねた。



「問題ありません」


「そ、そか。アハハ」



いやー、実に淡泊な返事で何よりだ。





マシンが動き出す。

僕も緊張感からなのか、ドキドキが止まらない。

どこまでも続く坂を上り終えると、マシンはスピードを上げ急降下をし始める。



「ふぎゃーああああああ」



急降下した途端、内山の叫び声がした。



なんて声しやがる……



だが、僕も他人の事に目をやっている場合ではなかった。

この絶叫マシーンの絶叫さは半端ない。

コースクリューや傾斜のあるカーブもそうだが、とにかく、スピードが今まで乗ってきた絶叫マシーンよりも断然速い。

これこそが、“ウルトラゾーン”だと言わんばかりの、手洗い歓迎を受けた。



どれぐらいの時間が経ったのだろう。

やっと、“ウルトラゾーン“から解放された。





マシンから降りた僕たちは、近くにあったベンチに座り、休息をとることにした。



「みんな、大丈夫だったか?」



僕は、乱れた髪を直しながら訊ねた。



「余裕余裕!」



吉沢さんは、笑顔でピースをする余裕さえ見せた。



「問題ないです」



お決まりの言葉ですね。



「ハァ……ハァ……」


「うっちゃん、大丈夫?ベルトきつかったの?」



吉沢さんは、内山に声をかけた。

内山の表情は、死んでいる魚のような表情をしていた。





絶叫マシーン巡りをしようと話していたが、内山の体調も考え、僕たちは休憩がてら、お化け屋敷に入ることにした。





「ザ 吸血鬼」




タイトルからして、このお化け屋敷のテーマは吸血鬼。

その建物の中に入ると、暗闇が僕たちを覆った。中は、少し肌寒く、それが恐怖心を煽っているのだろう。


お化け屋敷って、カップルで入ると、女性が怖がって、男性にくっつくというイメージがある。

だが、僕たちの班では、まったくと言っていいほど、そんなことはなかった。

いつもと変わらない顔をし、むしろ、ちょっと物足りない顔をしながら暗闇を歩く吉沢さん。

どんなことが起きようとも、表情一つ変えない根本さん。



「ひぇ〜!!!」



で、僕の腕をぎゅっと掴んで離さない内山。



「おい、内山。HA・NA・SE!!」


「ちょ、ちょ、これは、恐いって、れ、れ、レベルじゃ、な、な、ないですよ!」



これは想定外だった。

内山のおかげで、僕の服は少しずつ伸びていくのが分かった。



「うっちゃん、恐がりだな〜」



クスッと笑いながら、前を歩く吉沢さん。

それに、僕たちは続いた。




小刻みに体を震わせていた内山を除いて、僕たちは何事もなかったかのように、お化け屋敷を出た。







「楓くんの、服!めちゃくちゃ伸びてるんですけど!」



吉沢さんは、僕の方を見ながらケラケラと笑っていた。

僕の服は、完全に伸びきっていた。

結構、お気に入りの服だったので、内山に弁償させたかったが、さすが僕。紳士な気持ちで、内山を許すことにした。



「な、内藤くん。ご、ごめんね。」


「気にすんなって!服なんて買えば、いいことだしさ」



な?僕ってば、凄くいい奴だろ?



「そ、そうだよね、ま、ま、また、買えばいいよね」



内山はニコッと笑った。

なぜだか、僕はムカっときた。

それは、内山の呆気ない返事だったのか、ニコッとした表情だったのかは、分からないが、とにかく、飛び膝蹴りをしたくなった。






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