ハロウィーン・ナイトメア
その声は突然、聞こえた。
「トリック・オアトリート!」
はっと目が覚めた。俺は、どこかの施設のようなところにいた。
白い壁に白いベッド。すべてが白かった。
どこなんだ、ここは。
俺の着ている服も下着まで白かった。
しかし、こんだけ、白いなかにひとつだけ、オレンジ色の球体があった。
おれは…とおもって近づくとオレンジのそれは突然動き出した。
「やぁ、ぼくは、ジャック!よろしくね!!」
「喋った!!!」
おれは、驚いた。
「そんなにビックリしないでくれよ。この世界では現実では起こりえないことくらい起こるさ」
「意味、わかんねぇし」
おれは、すこし、冷静さを取り戻してよくよくそれを観察した。
なるほど、カボチャだ。
そして、俺が目覚める前に聞いた言葉は…
ーーートリック・オアトリート
俺は、その言葉がどのような意味なのかをよく知っている。
お菓子くれなきゃいたづらするぞ
なるほど、今日はハロウィーンなのか。
となると、この、オレンジのカボチャはジャック・オー・ランタンか。だから、ジャックなのか。
「この世界のルールを説明するよ!」
カボチャはそう言うと壁に映像が流れた。
そこには、俺が映っていた。あそこは、俺の部屋だ。俺の部屋で、俺のベッドで俺の服で寝てる俺が映ってる。
「あそこに映ってる、君が現実世界の君。君はハロウィーンだから、いま、いたづらされてるんだ。どうやら、お菓子をあげなかったみたいだね。そのへんの記憶は抹消されてるから気にしないでね。で、こっちにいる君があっちに戻るためにはこの世界でゲームをするんだ。君はこの世界から脱出しなくてはならない。君が此の世界に残ったらあっちの君は目を覚まさない。この世界が存在できる時間は10月31日の間だけ。だから、あと、24時間以内に脱出してね!じゃ、最初のステージにいくよ!」
「まて、俺は、夢を見てるのか?」
「まぁ、そんな感じだね、そして、この夢のような世界にいる君はいま、夢みたいに儚い存在でもあるんだよ、じゃ、ファーストステージへGO!」
気づくとあたりは真っ暗になっていた。
が、同じ服を着た人間がたくさんいた。
「みんな、こんにちわ!ジャックだよー!じゃ、最初の試練。ここはね、幽霊の間っていうんだ。ルールは簡単、幽霊を捕まえてください。先着順7名が脱出可能だよ。」
「おい!その7人以外はどーすんだよ」
「幽霊なんかみえねーよ」
いろんなところから、いろんなガヤがとんだ。
「その辺はお楽しみです。では、スターとです。ここには3000人います。早くしないと…あはは」
不気味な笑みを見せる。かぼちゃのくせに。
3000人が一斉に動いた。
俺は、どこかにつきどはされて、誰かに抱きついてしまった。
あ、すみません
と言おうとしたとき、耳の奥の方にピンポーンと鳴り響いた。
気づくとまわりが青い空間にいた。
「どーゆーことだよ」
おれは叫ぶ。まわりには誰もいなかった。
「きみは、幽霊をつかまえたんだよ」
「そうなのか?それはよかった」
気づくとまわりには6人いた。
「さて、7人が揃いましたことですし。ここで一端休憩しましょう」
「休憩?」
がっしりとした男が尋ねる。
「はい、これから、ここにいる皆さんは互いに戦う相手です。相手のことを少しでも知れば有利になります」
「なるほどね」
スラリとした、女がいう。
「では、自己紹介から」
「じゃ、私から」
先程のスラリとした女だ。
「私はカナリ。職業はOLよ。よろしくね」
「次は俺だな」
がっしりとした男が言う。
「俺は、タカシよろしくな!」
「次は私ね」
眼鏡をかけた女がいう。
「わたしは、ユキよろしくね」
「次は僕ですね」
眼鏡をかけた男が言う。
「僕はシュウです。よろしく」
「じゃ、次私ね!」
この子は俺の目にとまった。
ツインテールにセーラ服。ただただ、かわいかった。
「私はマキ。よろしくね!みんな!」
「じゃ、おれか」
自分の番だった。
「おれは、マサユキ。よろしく!」
「自己紹介が終わりました。では、みなさん、これから、パーティです。折角のハロウィーンなんで」
辺りの景色がどのかのパーティ会場になり俺たちは仮装していた。
おれは、死神になっていた。
マキはゾンビナース。シュウはドラキュラ。ユキは小悪魔。
タカシはフランケン。カナリはごーすとだった。
仮装パーティしている間、おれは、マキに話しかけた。
「やぁ」
「こんにちは、マサユキくんだっけ?」
「あぁ、そうだよ」
「もぅ、意味わかんないよね、このゲーム」
「マキさんってどこすんでるの?」
「へ?」
「せっかく、こんなところであったんだからさ、脱出したあともちょっと、一緒に遊びたいじゃん?」
「たしかに、それもいいわね」
「でしょ??」
「じゃ、脱出したら、おしえてあげるーえへへ」
「えーー」
「マサユキくんはさ、脱出したら、なにしたい?」
「え?」
「わたしね、弟がいるんだ。両親は幼いときに亡くしたから私が面倒見てあげないとなんだ」
「そうか、大変なんだな」
「で、マサユキくんは、脱出したらなにしたいの?」
「おれは…」
思い出せない。おれは、何をしていたんだ?
「まぁ、いろいろあって、悩むよね。はやくこんなとこから出たいなぁ」
彼女の顔はどこか悲しげであった。
カボチャがあらわれた。
「みなさま、そろそろ時間です。次のゲームは魔女ゲームです。とりあえず、魔女の間へ行きましょう」
あたりは、赤い空間になった。
「ここが、魔女の間です。それでは、魔女ゲームの説明をします。この空間ではあなたたちは魔女です。思い通りの魔法が使えます。そして、このゲームにおける勝ち、つまり脱出の条件は相手を紐で縛ることです。あなたたちの使う魔法で紐を召喚し縛ってください。このゲームでは2人まで脱出できます。それでは、はじめてください」
その瞬間だった。シュウが俺とマキ以外の4人を縛った。
「フフハ」
変な笑いをしている。
「こいつら、アホだよな、これは夢なんだって説得したら次のゲームで俺に負ける約束してくれたよ。夢が覚めたら100億円払うって言ったらな。やっぱり、世の中金だよな。さぁ、お前ら、いくらほしい?」
「金で釣ったのか」
「言っただろ?世の中金だって。金さえあれば人を買うこともできる。気持ちだって買うことができる。すべては金なんだよ」
「ちがうわ!」
マキが叫ぶ。
「私、幼いときからずーーっとお金がなかった。えぇ、いまもそうよ。私と私の弟の生活は私のバイトの収入だけで成り立ってるわ。日々の生活で精一杯よ。でも、私は弟といるのが幸せなの、あなたにはわからないでしょうね」
「俺は、裕福だからな。そんな庶民の気持ちなんてわかりゃしねーよ、そんな汚いもんわかりたくないね」
「ざけんなよ?」
俺は、キレた。
「お前は、心が貧しいよ」
「うるさい」
シュウは俺に向かって紐を投げてきた。魔法で。
おれも負けじと投げ返す。しかし、当たらない。
突然、俺の足元に雷がおちる。
「それは、反則だろ!」
「いいんだよ、むすんであればよ」
するとどこからか、突然、紐がとんできて、シュウの体にまきついた。
マキだった。
「くっそ!金なら払う!ほどいてくれ!」
「うるさい」
ピンホールと音がなった。
「おめでとうございます。では。最終ステージです」
ジャックがしゃべった。
あたりは。白い空間になった。
そこにひとつだけ黒い穴があった。
「最後は友情ゲームです。二人のうち一人だけが脱出できます。では、スタートです」
「マキ…」
「マサユキ…あなたがいって」
「ダメだ。君には弟がいるだろ」
「でも…」
「いいんだよ、おれは」
「なんでよ」
「おれは、マキみたいに記憶がない。俺にいきる資格は無いみたいなんだ。最初からそう決まってるんだよ、マキ、君が脱出するんだ」
「わかった、ありがとうね」
マキは穴へと向かう。
「さようなら」
「さようなら」
二人同時に声が重なる。
「弟によろしくな」
おれは一人で呟いた。
目の前が真っ暗になった。
俺は、ようやく、悪夢から解放された。やっぱり、夢だったのだ。マキは弟に久しぶりに会えただろうか。
俺は、それを見守っていた。
青い空。冷たい風。一年の終わりが近づく。
だが、おれには、11月は来ない。
おれは、昔のことを思い出していた。ハロウィーンの時。若者に「トリック・オア・トリート!」と言われた。が、俺は、そこで説教をした。「そんな変な格好してないで社会のためにもっとまともなことしなさい」と。そして、若者に「のりわりぃな」と言われてとても、殴られたことを思い出した。これが、私の最後の記憶だ。