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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第五章 橋姫
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橋姫<8>

 夕暮れが迫っていた。青龍(せいりゅう)は京都へ、琥珀と天后(てんこう)は麓の村へ飛んだ。北村の長屋(ながや)坊老人は、快く二人を屋敷内に通した。


「ほぅう、火喰い鶏が出ましたか。わしの感覚もまだまだ衰えていないのじゃな。しかし、伝説だと思っていた話が、事実だったと言うことですかのぉ」

長屋坊は目を輝かせて二人の話を聞いた。


「ところで、綾子という美しい女性はご存知ありませんか?言い伝えの中に出てきませんか?」

「はて?綾子さん、…ですか」


老人は言い伝えを思い出していた。


「綾小路(あやこうじ)何某(なにがし)という身元の分からない女性なら言い伝えの中に出てきますぞ」


二人は顔を見合わせ、同時に呟(つぶや)いた。

「それだ。それだわ」


「ふぅむ、しかしその綾小路は妖怪とは無関係だと思うのじゃが、…」

「どういう話ですか?長屋坊さん」


「おお、その娘はな、お沙世が生贄になる数カ月前からこの土地に現れていた。とにかく身許は分からないんじゃが、綺麗な身なりで、美人でな、気立ても良く、村の若い男はみんな嫁に来んかと言い寄ったそうじゃ。その娘は全く首を縦に振らずにな、毎晩山へ帰って行ったそうな。


お沙世とは同じ年頃なので友達になってな、よく二人で遊んでいたそうじゃ。お沙世が生贄に決まってからは、その娘はひどく悲しんで、お沙世を慰めたり、励ましたりしておった。その内、その娘が私がお沙世を助けると言いだして、生贄に出す数日前から山に籠ってしまったんじゃ。それっきり村には姿を見せなくなったのじゃ」

長屋坊が話す伝説の内容から、やはり綾小路という少女は橋姫らしいが…。


「お沙世が助かってから言うには、生贄に行く時に、橋のたもとでその綾小路何某という娘を見たそうじゃ。しかも、若い男と並んで見送っているのをな。その男は見知らぬ若者だと言う事じゃった。村の男どもはそれをお沙世から聞いて、そんな男がいるのでは、みんなが言い寄っても良い返事が来るはずはないと、納得したと言う事じゃな」


「その美女と一緒にいた若い男は、何者ですか?」


「いいや、それは知らん。爺さまも何も言っておらんだ。まあ、綾小路という娘も、その男も、この地元の者ではないんじゃろうな。どこか遠くから駆け落ちでもしてきた二人じゃなかろうかのう。火喰い鶏の言い伝えとは無関係で、話の賑(にぎ)わし程度の事だろうよ」


 そこまで話した長屋坊老人は、鋭い眼差しを天井に向けた。そして目線で二人に合図を送った。天井裏に何かがいる。確かに、琥珀も天后も、長屋坊が察知する前から微かな妖気を感じていた。琥珀は、すっと飛ぶと天井裏に出た。妖気は消えていた。橋姫か?そうに違いない。琥珀は、辺りを探ったが気配はない。長屋坊老人の前に戻った。その行動を見ていた老人は、驚いて目を見開いた。


「おん、…陰陽師の式神とやら、大した術を使うのう。あまり老人を驚かすでないぞ。これが妖術か?」


「いいえ、わたしたちが使うのは呪術です。妖術は、異界の生き物が使います」


「ほ…ほおぉ、呪術な」


「天井裏にいたのは、橋姫と言う妖怪でしょう。逃げましたが、今までの話を聞いていたのでしょう。おそらく、言い伝えに出てくる綾小路という娘が橋姫と思います」


「なんと!火喰い鶏といい、綾小路という娘といい、言い伝えは事実だったと言われるのですな。事実ですか、伝説は…。そうなのじゃな」


「はい、そのようです」


「むむ、…」


又しても長屋坊老人の鋭い眼差しが、ガラス戸に注がれた。何者かがいる。


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