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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第四章 枕と夢(枕返し)
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枕と夢<17>

 冴子は、驚いて琥珀の方を見たが、既に琥珀は空中を飛んで食堂を出る所だった。悲鳴の主は里美だった。シャワー室の横にある脱衣場で里美は倒れていた。琥珀は、里美を抱き起した。怪我はないようだ。辺りに怪しい影はない。

「里美さん!里美さん!」

琥珀の声に、里美は部屋の窓を指差して、猿がいたと答えた。その時、冴子も駆けつけ里美を抱きかかえた。


「どうしたの、里美」

「猿がいたようです。ちょっと見てきます」

琥珀が代わりに答え、里美を冴子に任せると外に出た。この窓だな。琥珀は、気を静めて辺りを探った。妖気が残っている。里美が猿だと言うし、この妖気なら経立(ふったち)かもしれない。里美をさらいに来たのだろうか。琥珀はゆっくりと建物から離れ、妖気の跡を辿った。


 妖気は所々で消えながらも、裏山の方に続いていた。十数歩移動した時、前方の草むらに気配を感じた。何かいる!琥珀は身構えた。経立か?琥珀は、雑念を払った。違う、経立ではない。妖気を感じない。人間か?


「おや、誰ですか?ああ、琥珀さんですね。どうしました?」

草むらから現れたのは、堀田だ。琥珀は、窓から覗いたのは堀田か、と疑った。しかし、堀田には妖気を感じない。


「里美さんが、誰かに覗かれたので、見に来ました」

「ええっ?誰かが覗いたのですか。その窓から?そこは脱衣所?」

「はい、猿だと言ってますが、…」

「ああ、猿ですか。この辺りには猿はよく出ますよ」


そう答える堀田に、後ろから声を掛けた人がいた。

「堀田さんは、こんな所で何をされていたのですか?」

晴茂だ。堀田は、驚いて振り返った。

「安倍さんではないですか。安倍さんは、京都に戻られたのでは?」

「こんな事が起こるのではないかと思って、戻ってきました。堀田さん、経立を追い払ったのは、あなたですね」


 琥珀は、晴茂の言葉を疑った。人間の堀田に経立を追い払えるはずがない。

「ええっ?経立?何ですかそれは?」

「堀田さん、本当のことを教えてください」

「いやぁ、本当も嘘も、何を言っているのか、分かりませんが」

堀田は、晴茂と琥珀を避けて建屋の方に戻ろうとした。


その先を通せんぼしたのは、天空(てんくう)だった。

「堀田さん、こっちは通れませんよ」

「何ですか、あなた達は」

「堀田さん、ちょっと我慢してくださいね」

晴茂は、呪文を唱え青白い五芒星を飛ばした。堀田は、五芒星の中に封じ込められた。


「こんな所では人目に付く、みんな小屋に戻るぞ。琥珀、堀田さんは、おまえが見た人面犬、彭侯(ほうこう)の化身だ。琥珀はここに残って冴ちゃんや他の人を経立から守れ」

晴茂は、そう言うと五芒星に閉じ込めた堀田もろとも夜空に消えた。天空が後に続いた。建屋の屋根には六合(りくごう)太陰(たいおん)がいて、琥珀に微笑みながら消えた。そうか、みんな来てたんだと琥珀は、建屋の中に戻った。


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