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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第四章 枕と夢(枕返し)
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枕と夢<16>

 その頃、琥珀は冴子と里美と一緒に轆轤(ろくろ)を回していた。慣れない手つきで形を作るのだが、どうも上手く行かない。そろそろ今日の授業も終わりだが、冴子は、再びやる気が出てきたようだ。三人は、一緒に夕食をとった。

「琥珀さんは、あまり晴茂さんと似ていないよね。どっちかというと、冴ちゃんに似てるね」

「嘘でしょ!」

冴子は困惑した。何で晴茂の式神が私に似ているっていうの、と里美を睨んだ。


「よく似た服を着てるからかなあ」

琥珀は、上手く話をそらした。その後、里美は今日も疲れたから早く部屋に戻ると言って、シャワーを浴びに行った。残された冴子と琥珀は、暫く何を話せばいいのか分からず押し黙っていた。そんな雰囲気に負けたのか、冴子が言った。


「琥珀、何時から式神なの?」

「えっ!ああ、去年の暮れからです」

「と言うと、九尾の狐事件の頃?」

「あっ!ご存知ですよね。そうです」


「そうか、九尾の狐は晴茂がやっつけて封じ込めたんだよね。でも、その正月にパーティーを開いたんだけど、琥珀はいなかったよ」

「はい、また石に戻っていました」

「そうなんだ」

「あのお、冴子様。…人間って何なんでしょう」

「えっ?」


「私、晴茂様に人間になれって命じられたのですけど、人間になるってどういうことか、よく分からないんです」


「うぅん、そうだよね。人間になれって言われてもね。琥珀は、人間だし」

「いいえ、私は、身体は人間で、人間の言葉も喋りますけど、まだまだ人間じゃあないと思います」

「そうかなぁ。すっかり人間だよ、琥珀」

「でもぉ、…」


 冴子は、そんな難しいことを聞かないでよと思った。人間って何?と言われても、人間である自分が答えられるはずもない。冴子は、当たり前だが生まれてから此の方ずっと人間なので、人間とは何かと言う問いに出くわしたことがない。しばらく無言が続いたが、琥珀は更に難しい問いを投げかけた。

「では、女性って何ですか?」


「えええっ?女性?」

「はい、冴子様。晴茂様に何時も言われるのです。おまえは女性であることを自覚しなさいって」

「ああ、なる程。琥珀は女性だもんね」


「でも、私は造られた人間なので、男、女の区別が分かりません」

「男、女の区別って、それは男は(たくま)しく、女は優しく、えっと私らみたいな年齢になれば女は胸も膨らむし、男は、…そうそう、脛毛なんか生えたりしてね」


「それは外見上の区別でしょう。それは分かります。でも、心が違うって、…言われるんです」

「心か、…。なる程。男と女じゃあ、心が違うか。…うぅん、そうかなぁ」

「えっ、違わないんですか?」


「いや、違う…、と思う。違う、違う」

「どこが、ですか?」

「どこが?と言われても、分からないけど、違うのは確かだな」


「こんなことは、晴茂様にも聞けませんし、他の人にはもっと聞けないので、冴子様に教えてもらおうと思ったんです」


冴子は、これは大変な娘を預かったと気が付いた。晴茂が、琥珀は人間としてまだ変なところがある、と言っていたのはこの事だろう。


人間だと言うことを意識しすぎると、人間でないことが強調されて悩んでしまうのだろう。現に、冴子は自分が人間で女性だなんて普段は意識していない。それに私に女性とは何かを聞くなんて迷惑だと冴子は思った。

「分かったよ、琥珀。じゃあ、追々教えてあげる。人間とは何か、女性とは何か、をね」

「冴子様、有難うございます」


 そう言ったが、琥珀の目が真剣なのには、冴子もびっくりした。食堂には二人の他に人影も無くなった。二人が部屋に戻ろうとした時、「キャー」という悲鳴が聞こえた。


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