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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第四章 枕と夢(枕返し)
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枕と夢<14>

 滅多に怒らない六合(りくごう)太陰(たいおん)を怒鳴った。何のために晴茂が経緯を説明したんだ。経立を倒すために話し合っているのではないか。何を今更言いだすのか、太陰は…。


「おやおや、怖いわねぇ、六合さん。倒せますわよ、経立(ふったち)


何と、太陰はいとも簡単に倒せると言う。


「なにぃ?さっき、弱点は無いって言っただろう。この酔っ払いめ」


今度は天空(てんくう)が今にも掴みかかる勢いで怒った。


「こら天空、まあ待て、待て。聞かせてくれ、太陰」


晴茂が、言葉を発しなければ、六合も天空も本当に太陰に掴みかかったかもしれない。晴茂が太陰を促した。


「はい、晴茂様。そりゃあぁ、経立には弱点は無いですわよ。でも、倒すことはできますわ」

「…??」

「だから、そこが分からんのじゃ、太陰」


六合がいらいらしながら言った。


「経立を倒す時に障害になるのは、あの強靭な鎧ですわねえ…」

「そうだ。それでみんな困っている」


「いつも私が言っておりますでしょ。もっと単純に考えればよろしいのですわ。その鎧を弱くすればいいのですわよ。経立の妖術はそれ程強くありませんの。だから、鎧さえ弱めれば、後は簡単に倒せますわ」

「…??」


そんな事は分かっている、と六合は言いたかったが、太陰が理路整然と言うので押し黙った。


「その鎧は、何でできていますかしら?六合さん?」

「そりゃあ、猿の毛に木の樹脂を付けて、砂で固めた鎧だろ。それは、ここにいる全員が分かっている」


「おやっ!そこまでお分かりなら、簡単ですわよねぇ。ほらっ、天空、考えてみて!」


太陰は、にこにこしながら天空を見詰めた。

「…」


「天空、ほらぁ、…砂で、…固めたのよ、その鎧」

「あっ!砂か、…」


「ねっ!砂と言えば、天空、あなたの得意技でしょ。砂なら、あなたが自由自在に操れるわよね」

「そうだっ!砂なら操れる」


「砂を取れば、残ったのは木の樹脂だわ。木の樹脂は、火に弱いはずですわ。おそらく、騰蛇(とうだ)業火(ごうひ)で樹脂は焼けるでしょう。ほらぁ、もう残ったのは、猿の毛だけですわ。鎧がなくなった経立は、きっと私でも倒せますわよ」


聞いていた三人は、太陰(たいおん)の智恵に、またしても感心した。


いいや、知恵と言っても、そんなにすごい知恵でもないないのだが、どうやら考え方の道筋が太陰のすごいところなのだ。


「いやはや、すごいぞ太陰。そんな方法は思いもよらなかった」

「おうおう、これで経立を倒せるぜぇ。(とど)めは俺のこの剣でだなぁ、こうやって」

「おいおい、天空、危ないぞ。振り回しちゃあ」

六合と天空は、大はしゃぎだ。


 そんな二人を見ながら、晴茂は、その作戦には問題があると感じた。

「太陰、ありがとう。しかし、天空、その筋書きで鎧を()ぎ取ることは理屈の上ではできるのだが、暴れる経立にどうやっておまえが術をかけて砂を操るんだ?」


「えっ、そりゃあ、おとなしくさせて、…ええっ?どうやっておとなしくさせるかって、…?」

「ありゃあ、どうする?」

六合も天空も、答えられない。


「天空、砂を操って鎧から砂を出させるのにどれ位の時間が要る?」

「そうだなぁ、まずは経立の妖術を解かねばならないし、えっと、それから操るとして、えっと…」


天空は、戦いを想定して考えた。


「いくら短くても、二、三分はかかるな」


「そうだな。その二、三分間、どうやっておとなしくさせるかだな」


又しても、三人は途方に暮れてしまった。あの経立が数秒でもおとなしくしているはずがない。太陰は、もう問題解決だと思って、うとうとと微睡(まどろ)んでいる。


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