枕と夢<14>
滅多に怒らない六合が太陰を怒鳴った。何のために晴茂が経緯を説明したんだ。経立を倒すために話し合っているのではないか。何を今更言いだすのか、太陰は…。
「おやおや、怖いわねぇ、六合さん。倒せますわよ、経立」
何と、太陰はいとも簡単に倒せると言う。
「なにぃ?さっき、弱点は無いって言っただろう。この酔っ払いめ」
今度は天空が今にも掴みかかる勢いで怒った。
「こら天空、まあ待て、待て。聞かせてくれ、太陰」
晴茂が、言葉を発しなければ、六合も天空も本当に太陰に掴みかかったかもしれない。晴茂が太陰を促した。
「はい、晴茂様。そりゃあぁ、経立には弱点は無いですわよ。でも、倒すことはできますわ」
「…??」
「だから、そこが分からんのじゃ、太陰」
六合がいらいらしながら言った。
「経立を倒す時に障害になるのは、あの強靭な鎧ですわねえ…」
「そうだ。それでみんな困っている」
「いつも私が言っておりますでしょ。もっと単純に考えればよろしいのですわ。その鎧を弱くすればいいのですわよ。経立の妖術はそれ程強くありませんの。だから、鎧さえ弱めれば、後は簡単に倒せますわ」
「…??」
そんな事は分かっている、と六合は言いたかったが、太陰が理路整然と言うので押し黙った。
「その鎧は、何でできていますかしら?六合さん?」
「そりゃあ、猿の毛に木の樹脂を付けて、砂で固めた鎧だろ。それは、ここにいる全員が分かっている」
「おやっ!そこまでお分かりなら、簡単ですわよねぇ。ほらっ、天空、考えてみて!」
太陰は、にこにこしながら天空を見詰めた。
「…」
「天空、ほらぁ、…砂で、…固めたのよ、その鎧」
「あっ!砂か、…」
「ねっ!砂と言えば、天空、あなたの得意技でしょ。砂なら、あなたが自由自在に操れるわよね」
「そうだっ!砂なら操れる」
「砂を取れば、残ったのは木の樹脂だわ。木の樹脂は、火に弱いはずですわ。おそらく、騰蛇の業火で樹脂は焼けるでしょう。ほらぁ、もう残ったのは、猿の毛だけですわ。鎧がなくなった経立は、きっと私でも倒せますわよ」
聞いていた三人は、太陰の智恵に、またしても感心した。
いいや、知恵と言っても、そんなにすごい知恵でもないないのだが、どうやら考え方の道筋が太陰のすごいところなのだ。
「いやはや、すごいぞ太陰。そんな方法は思いもよらなかった」
「おうおう、これで経立を倒せるぜぇ。止めは俺のこの剣でだなぁ、こうやって」
「おいおい、天空、危ないぞ。振り回しちゃあ」
六合と天空は、大はしゃぎだ。
そんな二人を見ながら、晴茂は、その作戦には問題があると感じた。
「太陰、ありがとう。しかし、天空、その筋書きで鎧を剥ぎ取ることは理屈の上ではできるのだが、暴れる経立にどうやっておまえが術をかけて砂を操るんだ?」
「えっ、そりゃあ、おとなしくさせて、…ええっ?どうやっておとなしくさせるかって、…?」
「ありゃあ、どうする?」
六合も天空も、答えられない。
「天空、砂を操って鎧から砂を出させるのにどれ位の時間が要る?」
「そうだなぁ、まずは経立の妖術を解かねばならないし、えっと、それから操るとして、えっと…」
天空は、戦いを想定して考えた。
「いくら短くても、二、三分はかかるな」
「そうだな。その二、三分間、どうやっておとなしくさせるかだな」
又しても、三人は途方に暮れてしまった。あの経立が数秒でもおとなしくしているはずがない。太陰は、もう問題解決だと思って、うとうとと微睡んでいる。




