枕と夢<13>
晴茂は小屋に入り、十二天将の六合と天空を呼んだ。老将である六合なら経立の弱点を知っているかもしれない、また天空は孫悟空の血を引く可能性があるので猿が変化した経立の弱点が分かるかもしれない、との思惑だ。しかし、そんな晴茂の思惑は叶わなかった。
「晴茂様、いやあ経立という妖怪は知っていますが、その弱点となるととんと分かりません」
六合はそう答えた。
「経立?猿の化け物か。あいつは俺より凶暴かもしれないぜ」
いつもは威勢のいい天空もそう答えた。
「そうか。さて、どうするかだな。枕返し、何か知らないか、経立の弱点を」
晴茂は、枕返しの兄妹にも聞いたが、所詮枕返しに分かるはずはなかった。
「まず経立の鎧兜はとても強固だ。火は通さない。青龍の稲妻も弾ける。白虎の光線も歯が立たぬ。それに、経立の動きは俊敏だ。天空、身のこなしは、おまえと互角かもしれぬな。それに、策略家だ。そこいらの妖術だけの妖怪ではない。敵を見、周りを見、敵の動きを予測し、自らの行動を決める。しかも、決断は早い。相当、手強い」
天空は、うぅーんと唸ってしまった。
「要するに、俺と戦えば互角で勝負がつかない…、と言う事か?そうなれば持久戦になり、最後に勝敗を分けるのは、やはりその強固な鎧と言う事か。我々が鎧を破らねば、いずれは負けると、…」
「そうだ。そういうことだ」
「晴茂様、太陰を呼びましょう。困った時は、太陰の智恵に頼るしかない」
六合が言った。
「おうおう、そうだ、そうだ。相手が策略家なら、こっちも知恵者を呼ばねば」
いつもは、太陰なんか目の端にも入れない天空も同調した。
「分かった。太陰を呼ぼう」
晴茂は、太陰を呼んだ。いつものようにやや酒の臭いを纏いながら、太陰が現れた。
「晴茂様、お呼びでしょうか。おやっ!六合さんではないですか。おや、おや、天空までかしこまっちゃって、いつもの威勢のいい天空はどうしたのじゃえ」
「うるさいっ!酒飲みババアめ」
「あらっ、久し振りに会ったのに、酒飲みババアはないわよ。まだまだ若いお嬢様ですわよ。おやまあぁ?あれは枕返しだわねぇ。何か悪さをしたの?」
晴茂は、太陰に経緯を話した。いつものように聞いているやらいないやら、酔っ払って半分寝ているような太陰だ。
「…、で太陰は、経立を知っているか?」
「知っていますとも。そりゃあ、もう、性質の悪い猿ですわ。でもね、誰かさんと違って割に頭も良いですわよ。ねっ、天空」
天空は、太陰を睨みつけた。
「で、経立の弱点は?」
六合が聞いた。
「弱点?うーん、…、無いわねぇ」
「ええ?無い?…そうか。…うぅん」
万事休すの答えに、三人は言葉を失った。しばらく沈黙が続いたが、天空が投げやりに呟いた。
「やはり、俺がやられるまで戦って、経立が疲れた所をみんなで寄って集って攻撃するしかないなぁ。ひょっとしたら、倒せるかもしれない。えらいこったぜ、こりゃあ…」
そんな天空の話を聞いて、太陰は目を開けると言った。
「あらっ!何ですか?経立を倒したいのですか、みなさんは」
晴茂、六合、天空は、声を揃えて怒鳴った。
「そうだっ!」




