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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第四章 枕と夢(枕返し)
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枕と夢<13>

 晴茂は小屋に入り、十二天将の六合(りくごう)天空(てんくう)を呼んだ。老将である六合なら経立(ふったち)の弱点を知っているかもしれない、また天空は孫悟空の血を引く可能性があるので猿が変化(へんげ)した経立の弱点が分かるかもしれない、との思惑(おもわく)だ。しかし、そんな晴茂の思惑は叶わなかった。


「晴茂様、いやあ経立という妖怪は知っていますが、その弱点となるととんと分かりません」

六合はそう答えた。


「経立?猿の化け物か。あいつは俺より凶暴かもしれないぜ」

いつもは威勢のいい天空もそう答えた。


「そうか。さて、どうするかだな。枕返(まくらがえ)し、何か知らないか、経立の弱点を」

晴茂は、枕返しの兄妹にも聞いたが、所詮枕返しに分かるはずはなかった。


「まず経立の鎧兜はとても強固だ。火は通さない。青龍の稲妻も弾ける。白虎の光線も歯が立たぬ。それに、経立の動きは俊敏だ。天空、身のこなしは、おまえと互角かもしれぬな。それに、策略家だ。そこいらの妖術だけの妖怪ではない。敵を見、周りを見、敵の動きを予測し、自らの行動を決める。しかも、決断は早い。相当、手強(てごわ)い」


天空は、うぅーんと唸ってしまった。

「要するに、俺と戦えば互角で勝負がつかない…、と言う事か?そうなれば持久戦になり、最後に勝敗を分けるのは、やはりその強固な鎧と言う事か。我々が鎧を破らねば、いずれは負けると、…」

「そうだ。そういうことだ」


「晴茂様、太陰(たいおん)を呼びましょう。困った時は、太陰の智恵に頼るしかない」

六合が言った。


「おうおう、そうだ、そうだ。相手が策略家なら、こっちも知恵者を呼ばねば」

いつもは、太陰なんか目の端にも入れない天空も同調した。

「分かった。太陰を呼ぼう」


 晴茂は、太陰を呼んだ。いつものようにやや酒の臭いを(まと)いながら、太陰が現れた。


「晴茂様、お呼びでしょうか。おやっ!六合さんではないですか。おや、おや、天空までかしこまっちゃって、いつもの威勢のいい天空はどうしたのじゃえ」

「うるさいっ!酒飲みババアめ」


「あらっ、久し振りに会ったのに、酒飲みババアはないわよ。まだまだ若いお嬢様ですわよ。おやまあぁ?あれは枕返しだわねぇ。何か悪さをしたの?」


 晴茂は、太陰に経緯を話した。いつものように聞いているやらいないやら、酔っ払って半分寝ているような太陰だ。


「…、で太陰は、経立を知っているか?」

「知っていますとも。そりゃあ、もう、性質(たち)の悪い猿ですわ。でもね、誰かさんと違って割に頭も良いですわよ。ねっ、天空」

天空は、太陰を睨みつけた。

「で、経立の弱点は?」

六合が聞いた。


「弱点?うーん、…、無いわねぇ」

「ええ?無い?…そうか。…うぅん」


 万事休すの答えに、三人は言葉を失った。しばらく沈黙が続いたが、天空が投げやりに呟いた。


「やはり、俺がやられるまで戦って、経立が疲れた所をみんなで寄って(たか)って攻撃するしかないなぁ。ひょっとしたら、倒せるかもしれない。えらいこったぜ、こりゃあ…」


そんな天空の話を聞いて、太陰は目を開けると言った。


「あらっ!何ですか?経立を倒したいのですか、みなさんは」


晴茂、六合、天空は、声を揃えて怒鳴った。

「そうだっ!」


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