表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第四章 枕と夢(枕返し)
72/231

枕と夢<7>

 その日は、粘土の扱い方を学習する。形を造る方法の基礎編だ。まずは粘土を練るところから始まった。晴茂は、途中で抜け出し、冴子と里美の部屋へ行った。部屋に異常は感じられない。特に里美が寝ていた場所が問題でもなさそうだ。あまり長い時間、学習を離れていると怪しまれる。


晴茂は、ポケットから琥珀石を取り出すと、呪文を投げた。琥珀が姿を現した。

「はい、晴茂様。お呼びでしょうか」

晴茂は、琥珀にこの建物と回りの異常を調べるように言った。

「琥珀、人に見られないようにな。私を呼ぶ時は、念力で呼ぶんだ」

「はい、晴茂様。お任せ下さい」

晴茂は、学習場に戻った。


 既にみんなは何かしらの形を粘土で造っていた。子供の頃にやった粘土遊びのようなものなのだが、陶芸となると、お遊びではいけないと遠藤が説明している。形を造るだけではなく、それがどのように機能するか、焼き上がった状態を想像しながら形を造るのだと言う。確かに、厚みが極端に違えば焼いた時に割れが出る、持つ部分が細すぎると出来上がってから折れる。単純なお皿のようなものでも、焼き上がりを想像すると、その形を造る作業はそう簡単ではない。


 遠藤と堀田は、粘土の厚みの揃え方、粘土と粘土のくっつけ方、などを指導して回った。午前の学習は、体力があまり必要ではなく楽な作業だが、みんな自分の発想力の貧困さを痛感した。単純な形の皿、茶碗、箸置きでも、これはという形はなかなか造れないのだ。そんな話をガヤガヤとやりながら昼食をとった。昼食後、晴茂を琥珀が呼んだ。


「琥珀、何か分かったか?」

裏の雑木林の中で琥珀は待っていた。

「いいえ、あまり多くはありません」

「そうだな。異様な気は弱いから、あまり分からないかもしれない」

「ただ、里美さんが寝ていた布団は問題ないのですが、枕に微かな気がありました。それに、…」

「それに?」


「昨日、里美さんが穿()いていたジーンズですが、裾にほんの僅かですが、異様な気か何かが残っていました」

「ジーンズは洗濯したぞ。気は薄れているはず」

「あっ、はい。そのようですが、気というか何か感じるのです。ほんの僅かです」

「うーん。枕とジーンズか、…。あの時、里美さんは頭だけ熱かった。枕か、…」


 晴茂は、ひとつの仮説を立てた。

「琥珀、もう一度、あの建物をくまなく調べてくれ。屋根裏も床下も、箪笥(たんす)の中も、箪笥の後ろも、柱の中も、…。」

「柱の中も、…、ですか?」

枕返(まくらがえ)し、かもしれない」

「枕返し?」


「そうだ。広島の墨っ子と同じような精霊のような妖怪だ。座敷童(ざしきわらし)(たぐい)だ。しかし、座敷童は余程のことがないかぎり、人間を襲わないのだが、…。墨っ子もそうだが、むしろ、人に幸福をもたらすのが精霊だ、…普通はな。


琥珀、もし枕返しなら、建物からは外に出ない。建物の中のどこかにいるはずだ。それに、普通は安全な枕返しだが、その技で人間を殺した前例もあるにはあるから、気を付けろ」


「はい、晴茂様」

「それと、ジーンズだが、…。気というより、何か付着していないか調べておいてくれ」

「はい、晴茂様」

晴茂は、自分の仮説が正しいのか考えながら、体験学習へ戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ