伸上り<9>
琥珀は高入道との戦いに満足をしていた。危な気ない戦いだったし、うまく霊気と妖気を消し去る事も出来た。自信に満ちた琥珀だったが、晴茂にはまだまだ足りないと感じた。
「琥珀、雑念が多過ぎる」
「は、…はい?」
「琥珀の場合は、殺気、敵意が強過ぎる」
「ええ?…はい!」
「初めての実戦だから多くは望まない。だが、高入道から悪霊を追い出した後、カワウソの姿が残って牙を剥いたのは、琥珀、おまえの敵意が強かったからだ。霊気に誘発された妖気が無くなったのだから、高入道はカワウソの無力な毛に戻ってもいいはずだった」
「うっ!…」
「敵意を持つ相手には、それに応じた敵意が生じる。殺気に対峙すれば、殺気を生む。悪霊がいなくなり抜け殻となったカワウソの毛でも、おまえの敵意に応じて、なお戦意を保持していた。あれは、形を変えたおまえの敵意だ」
「はい、晴茂様」
「琥珀、おまえの敵意や殺気は、自分の力に自信が持てないから生じている。おまえは、すでに充分に強い。自分の力を信じて、事に当たれば、敵意も殺気も生まれない。
例え相手が殺気を放っておまえに向かったとしても、おまえは自分の中に殺気を生じさせてはいけない。それが、無心になるということだ」
琥珀は、神妙な顔で聞いている。
「敵意に無心で応じる、これ程強いものはない」
「はい、晴茂様」
琥珀は、さっきまで満足していた自分の気持ちがいかに小さかったかを、晴茂の言葉で思い知った。もっと自分の気を制御しなければいけない。情けない、あれ程修行していたのに、琥珀は自分を責めた。
「まあ、しかし、琥珀。戦い振りは上出来だったなあ」
「はい、あ…有難うございます」
琥珀は、この褒め言葉で涙が込み上げてきた。嬉しかった。晴茂に褒めてもらったのが、嬉しかった。
「六合、天后を追うぞ、琥珀」
「はい、晴茂様」
嬉しさに浸っている暇はなかった。琥珀は、晴茂の後に随った。




