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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第三章 伸上り
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伸上り<1>

 琥珀は、毎日が楽しかった。人間の心と身体をもらい、人間になれと晴茂に言われてから、学ぶことは一杯ある。買い物に行きどんな食事を作るか、人々と話をするのも新鮮で面白かった。今日は土曜日、鞍馬へ来た。山原真弓に会いに来たのだ。猫又(ねこまた)の事件があってから、真弓に会いに来るのは数度目だ。ほぼ毎週末、真弓に会いに来ている。


 玄関のドアを叩くと真弓が待っていた。真弓の部屋で二人で色々な話をする。

「真弓さん、もうすっかり良くなったようね」

「ありがとう。あれから夜出歩く症状もないし、もう大丈夫だよ。今日の琥珀ちゃんの洋服、素敵じゃない」

真弓は、琥珀のファッションを()めた。


別に琥珀が考えたファッションではないのだが、そう言われると嬉しい。琥珀は町で見る女性のファッションで、気に入った洋服や小物を真似て呪術で作っているだけだ。


晴茂には、妖怪と立ち向かう以外は呪術を使うなと言われているが、服装や小物は晴茂に見つかっても叱られない。晴茂は、琥珀が女であることを自覚してくれるように、大目に見ているのだ。


 二人は散々、洋服などファッションの話をした後、真弓が晴茂に会いたそうに聞いた。

「晴茂さん、あれからいらっしゃらないわね。忙しいのかな」

「どうかなあ。そんなに忙しくないと思うけど…」


 真弓は大学一年生、琥珀の年齢は琥珀自身も知らないので、晴茂が真弓と同い年でいいやと決めた。

しかし、どう見ても真弓の方が二つ程年上に思えるのだが、医療の専門学校に通っていることになっている琥珀なので年下だと辻褄が合わなくなる。それに高校生だと高校の名前なんか聞かれると、嘘が分かってしまうかも知れない。晴茂は、こんな嘘を言いたくはなかったのだが、まさか自分の式神だと言う訳にもゆかない。そんな嘘をついている晴茂の心のつかえを、琥珀は全く頓着(とんちゃく)していない。


 琥珀が最初に山原家を訪ねた時は、晴茂も一緒だった。その後、晴茂は来ていない。

「真弓さん、兄ちゃんに会いたいの?」

「ええ?うううん、そんな、…ことは…」

琥珀の単刀直入の質問に、真弓は頬を赤らめて動揺した。


 どうやら真弓は晴茂に会いたいようだが、琥珀にはその女心が分からない。琥珀は晴茂に散々言われ、自分が女だと自覚というのか、頭の中では理解しているのだが、女の気持ち、男の気持ちの区別ができない。区別より、そもそも性別による心の違いが分からない。身体の違いは、確かに自分と晴茂を比べれば歴然と違うのが分かり、腕力も晴茂の方が強いのも分かる。でも、心となると皆目見当がつかない。


「どうしたの、顔、赤いよ」

「もう、琥珀ちゃん、嫌だあ」

琥珀は、女心を会得するために真弓に会いに来ているのだが、この様子ではどうやらあまり効果がないようだ。


「そうだ、真弓さん。あした、兄ちゃんと広島へ行くんだけど、一緒に行く?」

「ええ?」

「兄ちゃんに会いたいのなら、行こうよ」

そんなにあからさまに言われても、真弓はどう答えればいいのか迷った。


 琥珀は、でも、真弓が会いたいのなら一緒に行こうと素直に提案したにすぎないのだ。

「何か、筆を見に行くんだって」

「筆?ああ、習字とか絵とかの?」

「そう。毛筆」

「地味だけど、楽しそうね」

やっとの思いで言った真弓だが、琥珀はこれを同意の返事だと思った。


「オッケー、じゃあ、わたし帰ったら何時頃行くか連絡するね」

「ああ、うん」

そんな生返事をしながら、真弓は再び頬が赤くなるのを感じた。


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