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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第一章 予兆
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予兆<4>

 家に着いた。いやがる冴子を、パーティーの計画をしておいてくれと車から降ろして、圭介は晴茂を乗せたまま車を走らせた。小学校のそばまでやってきて、車を止めた。そして、圭介が話し出した。


「晴茂、おまえの見たやつ、白いやつ、あれは白坊主(しろぼうず)という妖怪だ。」

「はあ? …妖怪?」

「まあ、聞いてくれ」

突拍子もない話の割には、真剣な顔で圭介が続けた。


「妖怪、と言うか、異界の生き物と言うか、この世のものではない」

「……??」

「山田俊夫が死ぬ前に、家の屋根にいる白坊主を見たと話してくれた。俺も俊夫に誘われてそいつを見に行った。そうしたら、俊夫の家の屋根に確かに白い生き物がいた。でも、俊夫のお袋さんや近所の人には見えないらしい。見えるのは俺と俊夫だけなんだ。そして、次の日も、どうも一人で見るのは気味が悪いからな、二人で見に行った。そうしたら、やっぱり白いやつは屋根にいた。見たのはこれで三回目だと俊夫は言った。そうしたら、次の日、俊夫が死んでしまったんだ」

「……??」


 晴茂は、圭介が何を言っているのかつかめない。相槌を打とうにも、あまりにも冗談ぽい話の内容だ。それでも、圭介は続けた。

「この話を親父にした。こんな話は警察に言っても信じてもらえないからな。親父が言うには、それは白坊主という妖怪だと言う。見た者に災いを振りかける妖怪だって言うんだ。三回見ると四回目には異界に引き込まれるそうだ」


「俊夫はその白坊主という妖怪に殺されたと言うの?」

「ああ、そうらしい」

「……そんな、馬鹿なっ!そんな…、子供でも、そんな話しないよ」

圭介は、真顔で話を止めない。


「でな、今日は俊夫が死んでいた場所に、何か手がかりでもと思って行ったら、晴茂らが来たという訳だ。今日も白坊主を見たから、俺も三回目だ。次は俺が、異界とやらに引き込まれる」

「……」

圭介の頭は大丈夫なのか、と晴茂は顔を覗き込んだ。


「しかし、あの木にはたくさんいたぞ。十匹はいたかなあ」

そう言って、圭介は晴茂の反応を待った。晴茂は、『そんな馬鹿なっ』と思いつつも、圭介が言う『白坊主』を、晴茂も見たのだ。十匹位は、確かに見た。妖怪とか、異界とか、そんな話は真に受けられないが、その白坊主は…、晴茂も確かに見た。


「ああ、たくさんいた。僕は今日、俊夫の家の屋根と、あの木で二回見た。でも本当に妖怪が犯人なのか。そんな話は、信じられないなあ…」

「そうだなあ。よく分からない。……、しかしだ、俊夫と俺と晴茂が見えて、他の人には見えないというのも事実だぜ。これも不思議な話じゃないか。冴子も見えないんだろう」


「うん、冴ちゃんには見えないようだ」

「ほらな。冴子だって今日は同じ場所にいたんだ。他の人は嘘をついているかも知れないが、冴子は嘘はつかないよ。それに、あの木では俺と晴茂が同時に見えたのだから、幻覚なんかじゃないよな」

「うん、僕もずっと幻覚かなあと思ってたんだが、あの木にいたやつは幻覚じゃない。身体が熱くなって動けなかったのもあいつらの仕業だ。そう思える」

晴茂は、妖怪白坊主という説には納得ができないが、とにかく説明のつかない生き物には違いない。


「晴茂の方が感受性が強いのかなあ。俺は、そんな身体の不調を起こす事にはならないのだが、……」

「圭ちゃん、甚蔵(じんぞう)おじさんは、何で白坊主って知っているんだ? 白坊主なんて話は聞いたことも読んだこともないよ」

「そうだな。親父にもう一度聞いてみるか。次に見たら俺もやばいからなあ」


 二人は、芦屋甚蔵、圭介と冴子の父親、に話を聞きに家に戻った。甚蔵はだまって二人の話を聞いていたが、話を聞き終わってこう言った。

「圭介、晴茂、おまえらは白坊主を見ても死ぬことはない。大丈夫だ」

「はあ? …?」


やはり甚蔵は、白坊主という妖怪を信じているらしい。


「しかし、妙輪寺に白坊主がそんなにたくさん集まっているのか。何か大きな異変が起こっているなあ」

「異変?…何だよ、それ?親父!」

圭介の問いには答えず、甚蔵は晴茂を見た。


「晴茂、最近おまえに変なことが起きてはいないか?」

「えっ、変な事って」

「他人に話しても信じてもらえないようなことだ」

「そういえば、……」

「そうか、起きているか。目の前の物が突然消えるとか」


晴茂は、驚いた。どうして甚蔵に分かるのだろう。やはり子供の頃に変な病気にでも(かか)ったのだろうか、と晴茂は心配した。圭介は、二人が何を話しているのか、とんと見当がつかず、きょとんとしている。

「おじさん、どうしてそれを……?」

「晴茂、いつからだ?そんな症状が出たのは」

「はっきり覚えてないけど、最近だよ」

「ふぅむ、これは一大事かもしれんな…」

「……」

圭介と晴茂は、顔を見合わせた。甚蔵の話が呑み込めないのだ。


「仕方がない、今夜八時に裏の神社の境内へ来い」

「ええ、そんな時間に」

「晴茂、時晴(ときはる)には内緒だぞ。圭介、冴子にも言うな」

時晴とは、晴茂の父親、安倍時晴だ。甚蔵とは犬猿の仲の間柄だ。


「何があるんだい、親父」

「話はその時にする。早く夕飯でも食ってこい」

二人は合点のゆかぬ顔で、それぞれの家で夕飯を食べ、八時を待った。


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