人間へ<15>
すっかり夜が明けていた。猫又は、涙を流しながら、晴茂と大天狗に話をした。こんな事なら、猫又にならなければよかった、とも言った。
「わしは猫又になったおぬしの母猫とは顔見知りでな。よく鞍馬の頂上で話をしたもんだ。人間は、それは身勝手じゃ」
天狗は、若い猫又を諭すように言った。
「でもな、この世界の生き物の中で人間と一番仲がいいのは、おぬし達、猫なんじゃよ。わしも長生きをしているがな、わしが生まれるずっと前から、人間と猫は一緒に暮らしてきたんじゃ。それは、おぬしの母猫もよぉく知っておった。猫は人間に甘え、人間は猫を可愛いと思い、そうやって生きて来たんじゃな。
飼い猫というものはな、人間を恐れない、野良猫は人間を恐れる。その違いは天と地ほどもあるんじゃ。おぬしは、例え数カ月であっても、人間と暮らしたことがある。人間を恨んでも、敵だとは思えないんじゃ」
大天狗は、可哀そうな猫又だと思った。
晴茂が、続いて猫又に言う。
「猫又よ、母親を弔ってやろう。僕は、おまえを封じ込めようと思っていたが、おまえには飼い猫の血が流れている。邪悪な妖気は消えた。この鞍馬の山で野良猫の猫又が生まれないように、見張ってはくれないかなあ」
晴茂の提案に大天狗も応じた。
「おう、そうしようぞ、猫又。わしと一緒にな、この山を守ろうではないか」
晴茂は、気付かれないように猫又に呪文を飛ばした。それは、人間と過ごした楽しい時間の記憶を、もっと鮮明にもっと生々しく蘇らせる呪術だ。これで、この猫又は邪悪な猫又にはならないだろう、と晴茂は確信した。
後は任せると言って、晴茂は僧正坊に礼を言うと、玄武と琥珀が待つ場所に急いで飛んだ。




