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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第二章 人間へ(猫又)
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人間へ<7>

 翌朝、晴茂は寒さで目を覚ました。琥珀に上布団を取られたものだから、晴茂は夏のケットを引っ張り出して寝たのだ。部屋の隅で、まだ琥珀は昏々(こんこん)と眠っている。心配になった晴茂は琥珀の額に手を置いた。えっ、冷たい。上布団を剥し身体にも触ってみたが、冷たいではないか。しかも肌に弾力がない。


 晴茂は、気を静めて琥珀の胸に手を置いた。心臓の鼓動はないが、身体の生気は充分に満ちている、大丈夫だ。身体は人間でも石に戻っているのだろう。そして、その中で晴茂の心が琥珀を支配しようとしているのだ。こんな事なら、琥珀に布団は必要なかったのかと思いつつ、それでも布団を掛けてやった。


 晴茂はコンビニで昼食のパンや飲み物を買って帰る途中、大学の友人から電話があった。その友人は山原定男と言うが、昨年暮れにお互い年末年始で故郷に帰るのだから、故郷の土産を持ち帰って交換しようと約束していた。故郷での九尾(きゅうび)のキツネ事件で、晴茂はそんな約束をすっかり忘れていた。約束を忘れたと電話で詫びると、定男もまだ京都には帰っていないと告げた。


定男の妹が奇妙な病にかかってしまい、帰るに帰れない状況らしい。定男によれば、妹さんは毎晩遅くにベッドを出て山の中を徘徊(はいかい)しては踊りを踊っているとのことだ。夢遊病なのかも知れない、と言う。部屋に鍵をかけても、何故か外に出ているし、誰かが見張っていても何かの隙に外に出ているのだと言う。家族は、と言っても母親と定男兄妹の三人だが、こんな状況で夜寝られないので疲れ果てているらしい。そんな事情なので、しばらくは京都に帰れないと電話をしてきたのだ。定男は、じゃあ京都に帰れるようになったら連絡をすると言って電話を切った。


 晴茂はアパートに戻って、買って来たものを口にしながら窓から外を見ていた。もう陽は西に大きく傾いている。琥珀が目覚めるのは夜の予定だ。まだまだ、時間がある。かと言って、目覚めた時に誰もいないのも心配なので、ずっとここに居なければならない。


 何もすることがなく、さっきの定男の電話の話を考えた。夢遊病とは、ノンレム睡眠の時に起こる症状で、身体は眠っているが脳は覚醒している状態だ。晴茂には、それ位の知識しかない。鍵をかけても、見張っていても、外へ出て行くのはどうしてだろう。単なる夢遊病ではないのかも知れないな、と漠然と考えていた。その時、琥珀の右腕がビクンと動いた、いやそう見えたのだ。


 晴茂は琥珀のそばに行った。動いたように見えたのだが、と顔を覗き込んだ。あれっ、顔色が戻り体温がある。晴茂は、琥珀の額に手を触れた。普通の体温に戻っているではないか。徐々に覚醒しつつあるんだと体に触ってみた。体温もあるし、柔らかさも戻っている。ふぅっ、良かったな、と安心をした晴茂は、しげしげと琥珀を見つめた。こんなに琥珀をしっかりと見たのは初めてだ。綺麗な顔立ちだし、肌は琥珀色に輝き、透き通っているように見える。


 ほおぅ案外いい女じゃないかと、琥珀の顔を正面から覗き込んで眺めていると、ふいに琥珀の目が開いた。晴茂は急なことで驚いた。貴人は一昼夜は起きないと言っていたが、どうやら元々の琥珀の心が弱かったので、新しい心が早く支配できたのだろう。琥珀は、じぃっと晴茂の目を見つめていたが、にこりとほほ笑んだ。晴茂も、それにつられて苦笑いをした。


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