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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第一章 予兆
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予兆<3>

 二人は俊夫が倒れていたという妙輪寺(みょうりんじ)へも立ち寄ってお花でも手向けようと相談した。妙輪寺は俊夫の母親に場所を聞いてきた。車で五分ほどだ。寺の外に車を止め、妙輪寺の参道を歩いてゆくと、さすがに木々に囲まれて陽の光が遮られ、ひんやりとしてきた。


冴子は上着を車に置いて来たので、「寒い」とつぶやいた。晴茂はジャケットを脱いで冴子に渡してやった。晴茂はジャケットの下が半袖なので、「晴茂を見てると、余計に寒くなるね」と冴子は笑った。


参道を抜けると広い境内に入った。本堂の裏にある(くすのき)の横で倒れていたと俊夫の母親は言っていた。赤い山茶花(さざんか)が咲く垣根に沿って本堂の裏へ回った。本堂裏へ出ると楠はすぐに見えた。


 その楠の向こうに人影がある。じいっと、楠の(こずえ)の方を見上げている。

「あれ?兄…ちゃん」

冴子が小さな声でつぶやいた。晴茂も人影をよく見てみると、そうだ、冴子の兄、圭介だ。二人は近づきながら人影が圭介だとはっきり分かった。


「兄ちゃん、何しているの?おおーい、兄ちゃん!」

冴子に呼ばれて、圭介は振り向いた。

「冴子じゃないか、おどかすなよ」

圭介はふたりが近づいたのを気付かなかったようだ。

「おまえら、何だ?こんな所で」

「晴茂とね、俊夫さんの倒れてた場所にお花でも供えようって、来たんだ」


 圭介は、冴子越しに、すこし離れた所に立っている晴茂を見た。晴茂は、目を見開いて、微動だにしない。身体が強張(こわば)って、身動きができないでいるではないか。圭介は、これは尋常ではないと感じた。


晴茂は、楠に近づいた途端に全身が熱くなり、身体が動かなくなったのだ。そんな状態になる前に、楠の枝にぶら下がる例の白いのっぺらぼうが見えた。しかも、一体ではない十体程度は見えたのだ。やはり目はないのだが、のっぺらぼう達が晴茂を睨んでいるのを察知した。今は、のっぺらぼうは消えたのだが、身体が熱く動かない。額に汗も(にじ)んでいる。


「おい、晴茂!」

圭介は晴茂に駆け寄り、肩をつかんで激しく揺さぶった。その途端に、晴茂の全身の熱は消え、身体も動くようになった。圭介は、そんな晴茂の異変に、もしかしたら晴茂も…、やつらが見えるのか…?と気づいた。


「晴茂にも、あれが、見えたのか?」

圭介は、我に返った晴茂の耳元で小さく囁いた。

「あれは?何?圭ちゃん」

頷きながら晴茂も小声で聞いた。


「あとで話そう」

ふたりは、後ろの冴子に悟られないように目で合図をし合った。


「晴茂!大丈夫?」

冴子は心配そうに尋ねた。圭介がすかさず答えた。

「風邪でもひいてるんじゃないか、晴茂。身体も熱いし。冴子にブレザーを取られたから、冷えたんだよ」

「ああ、そうかもしれない。もう、大丈夫だ」


冴子はすまなさそうにブレザーを脱いで晴茂に返そうとした。

「あはは、大丈夫だよ、冴ちゃん。着てなって」

晴茂は、あえて明るく笑った。


 晴茂の身体の調子が悪いといけないから、圭介が車を運転をして帰った。圭介は、自動車整備の仕事は昨日で終わって、年末年始の休みに入っていた。晴茂は助手席で、白いのっぺらぼうの事を考えていた。「あれは何だろう…?」


冴子と圭介は、兄妹の積もる話をしていた。この兄妹も一年ぶりの再会なのだ。その話を聞き流しながら、晴茂は、のっぺらぼうを考えた。


圭介もあれが見えるのだろうか。冴子は見えないようだ。人によって見えたり見えなかったり、そんな事はありえないだろう。圭介と自分は同じ幻想を見るということか。しかし、目のないやつが、鋭い視線を投げかけるとは、どういうことだろう。身体が熱くなって身動きができなかったのは、なぜだろう。その間ずっとやつらの視線を感じていた。自分もやつらを見据えていた。なんだか分からないが、やつらからは異様なものがにじみ出ている。圭介は楠の梢を見上げながら、やつらを探していたのだろうか。とにかく、あの白いのっぺらぼうは何なんだ。


「ねえ、晴茂!」

後部座席から冴子の大きな声が耳に入り、晴茂は我に返った。

「あ、ああ、何?」

「何じゃないわよ。いつ京都に戻るのかって聞いてるんじゃない」

「ああ、…、まだ決めてないけど、十日位かなあ」

「じゃあ、四日の日は大丈夫ね」

「ええ? 何が?」

「もう、何も聞いてなかったの? 拡大同窓会よ」


冴子が企画して拡大同窓会をやるらしい。要は、帰省している人達とこちらに残っている人達で、同学年でなくても集まってパーティーをするらしい。冴子の話では十人位は集まる算段だ。


「神社の広場でバーベキューやってさ、ビンゴなんかもやれば、…そうそう川まで行ってテント張ってさ、花火もいいねえ」

晴茂は、呆れて言った。

「何言ってるんだ、冬にキャンプも花火もやれるかよ」

「でも、暖かだからいいんじゃない?」

「そういう事じゃなくさ、さすがにキャンプは無理だろ」

「社務所を借りてさ、ドンド火を焚いてさ、…、楽しいよお」

圭介も呆れ顔で晴茂を見た。

「まあ、勝手に企画してくれや。内容がよければ参加するから」


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