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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第十二章 足洗い
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足洗い<15>

 晴茂は、晴明と太陰(たいおん)が造った毒酒入りの徳利(とっくり)を、おそらく生き残った茨木(いばらぎ)童子(どうじ)酒呑(しゅてん)童子の怨念を使って呪いの徳利に変えたのだと考えた。安倍晴明の直系の子孫である晴茂と毒酒を造った太陰に出会い、その徳利の呪いが二人に酒呑童子の姿を見せたのだろう。


足洗い古狸(こり)の事件が、晴茂をとんでもない妖怪に導いている。しかも、消息を断った経立(ふったち)の出現、それに酒呑童子の一番弟子の茨木童子、こちらも長年消息がなかった妖怪の出現だ。どうにも晴茂の考えがまとまらない。冴子や圭介の様子も気になる。分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)の古狸の動向も気になる。


「イヌ鷲、おまえは邪悪な妖怪ではない。事の真相が分かるまで、経立、いや、その猿から身を隠していてほしい。いずれ、連絡をする」

晴茂は、イヌ鷲に言い、全員を引き連れて姿を消した。


 晴茂が琥珀と共に現れたのは、京都のアパートだ。そして、式神を集めた。今回は、晴茂も総力を結集すべき事件かもしれない。晴茂には、そんな予感があった。


「まず、事件の整理をしたい。疑問点も多い。何なりと意見を言ってくれ」


晴茂の言葉に、口火を切ったのは天空(てんくう)だ。

「晴茂様、とにかく経立が復活したのかどうか、それを確かめないと打つ手がない」


「そうだな、イヌ鷲に近づいた猿は、本当に経立だろうか」

六合(りくごう)が続けた。


「そうだよ、そこが、まずは問題だ」

天空は、天空剣をきりきりと握り締めながら言う。


律儀な文官である大裳(たいも)が、ゆっくりと話し出した。


「はい、経立の件も問題ですが、今回は謎が多すぎますね。起こっている事柄がバラバラで、ひとつの話として繋がっていません。晴茂様も、だから整理したいと仰っています。さて、…」

大裳が一つひとつを整理するように話した。


 足洗い妖怪、これは古狸の妖怪が引き起こす怪事だが、まずこれが起こった。調べてみると芦屋家陰陽師が、掛け軸の絵に封印したはずの足洗いが封印を解かれていた。その封印を解いたのは、同じ古狸妖怪の分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)の狸だった。


分福茶釜が何故足洗い妖怪を解き放ったかというと、狸の天敵であるイヌ鷲の妖怪に襲われたからだ。全国に封印された古狸がいるので、それらを解き放ち、イヌ鷲の妖怪に対抗しようとした。


「ここまでは、みなさん、よろしいですか?さほど不思議な話ではありません」

「うん、何も変なところはないよな」

天空が、みんなを代表して答えた。


 さて、イヌ鷲の妖怪を探索して話を聞いてみると、イヌ鷲は無理矢理に妖怪にさせられたと言う。誰がイヌ鷲を妖怪に変化させたかと問うと、頑丈な鎧、兜を着けた猿だと分かった。


そして、どのようにイヌ鷲を妖怪に変化させたかを探ったところ、どうやら猿がイヌ鷲に渡した酒徳利の呪いではないかと。その徳利を調べたところ、酒呑童子の怨念が()りついていたのではないかと、太陰は思った。晴茂様も、同様に、その徳利に酒呑童子の怨念を感じた。


「ここまで順を追って整理すると、多くの疑問や謎が出てきます。イヌ鷲の妖怪が登場してからの話に何やら隠されているのです」


「そうそう、その通り。だから、言ってるだろ、まず経立を…」

(はや)る天空を制して、大裳が謎を整理した。


「はい、天空、それも謎であり疑問です。だから、謎の一つ目、そもそもイヌ鷲を妖怪に変化(へんげ)させようと近づいた猿は、経立なのか?また、経立であろうとなかろうと、なぜイヌ鷲を妖怪に変化(へんげ)させなければいけないのか?イヌ鷲でなくても、他の者でもよかったのか?」


「そうだな…、妖怪イヌ鷲を生んだ謎っていうところじゃな」

六合が言った。


「謎の二つ目、その猿、仮に経立とすると、経立がなぜ酒呑童子の徳利を持っていたのか?経立と酒呑童子の関係は?それに酒呑童子は平安の御代に滅んでいるのだから、経立に徳利を渡したのは誰か?」


「それは、…生き残った茨木童子じゃないか」

天空の推測に、大裳が続ける。


「茨木童子だとすると、茨木童子は千年以上も現れていないのに、なぜ今になって活動を開始したのか?」

「なるほど、酒呑童子の謎っていうことか」

六合の言葉に、式神達が頷いた。


「晴茂様、今回の事件、このように大きく二つに謎が絞られます」

「そうだな。さて、その謎を、どのように解くか…」

晴茂が言った。


その横にいた琥珀が、ぽつりと独り言のように発言した。

「酒呑童子の配下の鬼達は、その後どうしたのだろう…」


天空が、琥珀に向かって答える。

「そりゃあ、源頼光(みなもとのよりみつ)とその四天王に成敗されたのさ。全滅だったさ」


「でも…、沢山の鬼がいたんでしょ。首領が切られれば、それより弱い鬼達は、我先にと逃げ出すはず。それを全滅させるには、五人では手が足りない…」


「まあ、琥珀、そんな雑魚(ざこ)の話は後でいいぞ」

天空が言い放った。


晴茂は、琥珀がその他の鬼達の消息を気にしているのに、何か違和感を感じた。


「うっぷぅー、大裳さん…」

酔っぱらって眠っているのか起きているのか分からない格好で大裳の話を聞いていた太陰が、酒臭い息を吐いた。


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