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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第十一章 一言主
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一言主<18>

 晴茂は、琥珀、天空(てんくう)、そして天后(てんこう)を伴って蟷螂(とうろう)の岩屋に飛んだ。四人は洞窟の前に立ち、気配をうかがった。既にあたりは漆黒の闇だ。天空が、呟いた。


「うん、これは相当異常な気だ。これは、法力か?」

「ですよね。天空さん、中に入れますか?」

琥珀が聞いた。自分だけが入れないのは情けないので、賛同者を募ったのだ。


「ふぅむ、普段なら入らないな」

琥珀は、天空の曖昧な返事にいら立って、どっちなのよっ、と天空を見た。


「これは、やはり仙術が混じってます、晴茂様。仙人のいない場所に仙術の力を及ぼすとすれば、…何か、そんな品物が、仙術で呪った品物が、…あるはず…」


そう言って天后は気を集中した。

「洞窟の…、中ですね」


「よし、ではわたしと天后で中に入る。天空と琥珀は、ここで見張っていてくれ」

「おれも入るぜ、晴茂様」


「天空、弁財天(べんざいてん)に化けたやつが来るかもしれない。やつはかなり強いぞ。もし、弁天の正体が川童(かわわらわ)餓鬼坊(がきぼう)で、仙術を使うなら、油断するな、ふいに現れる。気配なしでな。琥珀、川童なら臭いだ、臭いに集中しろ」


そう言い残して、晴茂は天后と洞窟に入った。

琥珀と天空は、洞窟の入り口で左右に分かれ、物陰に潜んだ。


 晴茂は慎重に進んだ。天后も晴茂の後ろを進む。あの曲がり角で、以前は光を見た。晴茂が、その方向を指差した。天后は気配を探る。仙力はない。天后は首を振った。その曲がり角を過ぎると、大きな段差がある。修験者(しゅげんじゃ)のために鉄の手摺(てすり)が設けてある。ふたりは、その段差を静かに飛び降りた。


 晴茂の足が地に着くと同時に、強烈な閃光が一瞬走った。ふたりは、その瞬間に左右の壁に身を寄せた。目眩(めくら)ましの仕掛けだ。普通はこれで目が見えなくなり簡単に攻撃される罠だ。


しかし、晴茂と天后には効かない。元々、ふたりは目で見ていないからだ。すぐに洞窟の奥から、晴茂が踏んだ場所に火の玉が放たれ炸裂(さくれつ)した。


辺りを探っていた天后がすばやい動きで晴茂の横に来た。そして、洞窟の奥の天井の一点を指差した。


 閃光と火の玉による一連の罠の動きから、天后は仙力を秘めている品物を見つけたのだ。晴茂もそれを確認した。岩の隙間に挟み込まれた黒い石。綺麗な真っ黒の石だ。晴茂が頷き、天后はその天井に貼り付いた。何やら念じながら天后がその石を岩の隙間から外した。そして、晴茂の許に戻ると、その石を手渡した。


それは黒水晶だ。


手の平で包み込める程度の大きさだ。天后は、空中に指で五芒星(ごぼうせい)を描いて、晴茂にみせた。黒水晶に結界を張れと言っているのだ。晴茂は、黒水晶を下に置くと、五芒星を切った。青白く光る五芒星の結界の中に黒水晶が封じられた。


その瞬間、洞窟内の空気が揺れた。


そして、洞窟内に仕掛けられた呪術、法術の呪いの気が姿を見せた。洞窟内の仙術が消えたのだ。


 洞窟の入り口で警戒していた天空と琥珀にも、その洞窟内から溢れた空気の揺れが感じられた。ふたりは目を見合わせて頷いた。洞窟内から漏れていた強烈な異常な気が消えたのを感じたのだ。洞窟から出てくる気は、普通の呪力と法力だけになった。


琥珀は、これなら洞窟に入れると気が緩んだ。その時、琥珀の後ろから影が現れた。振り向くとそこに晴茂がいる。気が付いた天空も、琥珀の横へやってきた。


「晴茂様、今のは洞窟の仙力を消したのですか?琥珀も洞窟に入れますよ」


「あとは呪力と法力だから、問題ない。それより、天河大弁財天社から弁財天の念が届いた。琥珀、天空と行ってくれ。こっちは、一言主(ひとことぬし)の呪いを解く」


「はい、晴茂様」


天空も晴茂の言葉に頷き、頭を下げた。琥珀と天空は直ちに天河(てんかわ)村に飛んだ。


 それを見届けた晴茂は、不敵な笑みを浮かべ洞窟に向かった。その晴茂の手には、首にかけられた黒水晶のペンダントが握られていた。


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