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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第一章 予兆
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予兆<19>

 九尾は、『コーン』と声を出すと、立ち去ろうとした。『いかん、九尾が逃げる』、しかし、晴茂の右手はまだ(しび)れている。攻撃の呪術が上手く使えない。晴茂は呪文を唱えると、天空(てんくう)を呼んだ。晴茂は天空に状況を伝えた。


「晴茂様、もっと早くこの天空を呼んでくださいよ」

そう言うと、天空は黄砂の玉を九尾に放った。九尾は、高く飛んで軽くそれを避けると、一回転して分身の術を使う。走りながら天空は黄砂を矢継ぎ早に放った。いくつかの黄砂は九尾をとらえていたが、それらは本物の九尾ではない。黄砂を避けた九尾は、一回転すると更に分身する。天空は飛びながら走って黄砂を放つ。目にも留まらない速さだ。


その途中で、天后の近くへ来ると、

「おい、天后。お手柄だな、琥珀を助けたのか。おまえにしては、上出来だぜ。しかし、気を付けなよ。九尾は強い」

と、からかう余裕さえある。


 黄砂の玉は徐々に正確に九尾をとらえるようになってきたが、如何せん、ひとつ外すとそれが九倍になって戻る。このままでは終わりがない。『これじゃあ、やるだけ無駄だな』と天空は、高く飛び上がると気を集め、ぱらぱらと少量の黄砂を上空でまいた。


するとどうだろう。その少量の黄砂は落ちながら一粒が二粒に、またその一粒が二粒に、倍々で増えてゆく。地上に達する頃には大量の黄砂となり、分身した九尾の上から襲った。

「へへ、こっちも黄砂の分身だぜ」


 天空の術は功を奏した。本物の九尾だけが黄砂の上に残った。上空から天空は剣を伸ばすと九尾を刺す。九尾はすっとその剣先をかわすのだが、上空から突き出される天空剣の動きが速い。たまらず九尾は崖に沿って逃げた。

「しめしめ、罠にはまったぞ。この先で勾陳(こうちん)が待っているんだな」


 天空剣の攻撃で、九尾を袋小路の窪地に追い込んでゆく。その頃晴茂は、ようやく右手の痺れを快復させた。天空が、九尾を窪地の罠に追い込んで行くのを見て、後を追った。途中、琥珀の様子を見て天后に言った。

「天后、琥珀は大丈夫か。あとは頼んだぞ」


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