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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第十一章 一言主
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一言主<11>

 晴茂は、大裳(たいも)に聞いた。

「大裳、役小角(えんのこづぬ)の術について、何か分かっていることはないのか」


「はい、晴茂様。まず、役小角は晴茂様と同じ賀茂家の出自です。ですから、呪術は相当の使い手と思われます。


次に、仏に帰依し法術を会得しています。しかし、そもそも法術は慈悲の術ですから、戦いにおいては呪術の敵ではありません。ここまでは、晴茂様と失礼ながら同格」


「なる程」


「問題は、役小角がどの程度の神通力を持つか。神の力です。やつは、葛城(かつらぎ)族の神である一言主(ひとことぬし)を封じています。一言主を超える神通力を持つ可能性も否定できません」


しかし、太陰(たいおん)は、またしても大裳と意見を異にした。


「その点は、わたくしは少し違うと思いますわ。役小角は、神ではありませんからね。本物の神通力を持つとは思えません。一言主を封じたのは、謀略を巡らしたのですわ、きっと。一言主にも、役小角は同族という油断もあったかもしれませんしね」


「そのような役小角、あるいは役小角の式神と戦うための智恵は、何かあるのか、太陰」

六合が聞く。


「はい、お酒を頂きながら考えましたわ、晴茂様。呪術では同格と大裳は言いましたわね。でも、わたくしは晴明(せいめい)様を師匠とする晴茂様と、役小角を比べるなら、安倍晴明様の力を引き継ぐ晴茂様の方が強いと思いますわ。


だって、賀茂家は古い呪術、まだ五芒星(ごぼうせい)の術も完成していない時代の呪術ですわ。賀茂家から進歩、発展したのが安倍陰陽師、数段上ですわ。素直に戦えば結果はついてきますわよ」


「しかし、太陰、さきほど大裳が言った神通力は、どうなる?」

六合が不安げに聞いた。


「どれ程の神通力か分かりませんけれど、それは葛城族の先祖に聞けば…」

「そ…それは、お勧めできませんぞ、晴茂様」

大裳が、慌てて太陰の言葉を遮った。


「何だよ、今回の事件では大裳と太陰の意見が合わないな。まずは、太陰の話を聞こう」

六合が、太陰に発言するように促した。


「はい。葛城山に、葛城一言主神社がありますわ。そこに土蜘蛛(つちぐも)塚があって、大和皇祖神に破れた土蜘蛛神が眠っています。


土蜘蛛神は、葛城族、賀茂家、そして安倍家の先祖神ですわ。


子孫である晴茂様が訪ねるのだから、なぁんにも問題はないはずでしょ。その先祖神に頼ってみるのですわ。役小角が、どのような術を使うのか聞いてみるのですよ」


 大裳は、情けない顔で聞いていた。大裳にしてみれば、皇祖神と敵対した土蜘蛛族の祖先と会うのだから、何が起るか分からない危険な賭けだと言うのだ。そんな危険を冒す必要はないと言うのだ。


確かに土蜘蛛族は、大和朝廷に滅ぼされた。そして大和朝廷が治めたこの国家を是としないはずだ。従って、大和朝廷に仕えた安部陰陽師を快く思うはずはない。そんな土蜘蛛に会っても事を複雑にするだけだと大裳は言うのだ。


「そうじゃなくってよ、晴茂様は、あくまでも葛城族の子孫として、会いに行く。どうです?問題ないでしょ。会ってみて、その時の状況で頼めるのなら頼めばいいし、無理ならやめればいいのですもの。別に、土蜘蛛を復活させる訳ではありませんわ」


「晴茂様、なかなか面白い方法ではありませんか。なにがしかの策が探れるやも知れませんし」

六合も太陰の案に賛成のようだ。大裳は、大きくため息を吐いた。


 晴茂と琥珀は、葛城一言主神社へ向かうこととした。


別れ際に、太陰は、琥珀に気付かれないように、目で晴茂に合図した。太陰の意図は晴茂にも分かった。琥珀と土蜘蛛の杖が役立つかもしれない。



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