雲外鏡<18>
座敷童は、不安顔で屋根裏に隠れ雲外鏡を見張っている。そこに晴茂、琥珀が戻った。
「おおぉぉ、脅かすなよ。何だか、今夜は、鏡が大人しいんだ」
「そうか。それはよかった」
晴茂は照魔鏡を取り出した。
「おおっと、雲外鏡がもうひとつあったのか?こっちへ近づけないでくれよ」
「そんなにびくびくしないで、座敷童。これで雲外鏡の呪いを解くの」
「おまえたち二人は、ここにいてくれ。雲外鏡の呪いを解く」
琥珀と座敷童は頷いた。晴茂は、玄関のホールに立ち、呪文を唱え始めた。雲外鏡が光り出した。それに呼応するように、晴茂の持つ照魔鏡も光り出した。
そして、その光が頂点に達した時、晴茂は照魔鏡を雲外鏡の前にかざした。ふたつの鏡がお互いを写し、光が一体化した。
その光の中から黒い物体が何個も転がり出ては消えて行く。雲外鏡に吸い込まれたあらゆる物が転がり出て消滅しているのだ。しばらくそんな光景が続いた。
黒い物体はもう出て来なくなった。そして、鏡を結んでいた光も徐々に弱くなり、やがて消えた。
雲外鏡の呪いが解かれた瞬間だ。晴茂の持っている照魔鏡も、壁に埋め込まれた雲外鏡も、その魔力が失われ、普通の鏡になった。
晴茂は、琥珀と座敷童を呼んだ。
「これで普通の鏡になった。解決だ」
「はい、晴茂様」
「そうか、もう何事も起らないか。よかった。でも、あの五芒星に閉じ込めた蔵王丸と遠藤親左衛門っていう武士はどうなるの?」
「犬も遠藤さんも、既に寿命が尽きている。だから、雲外鏡の呪いが解けた瞬間に土に戻っている」
「そうか、そうか」
「さて、座敷童、僕たちは帰るが、この家の人達に怪奇現象はなくなったので、戻るように伝えてくれるかい。そして、座敷童もこの家に棲んだ方がいいのではないか。新しい家でも、その内に慣れるさ」
「おお、そうだな。何とか家の人に伝えるよ。九尾の狐にも伝えるよ、陰陽師に世話になったって。琥珀も元気でな」
「じゃあ、座敷童、この家の人を幸せにしてやってよ」
晴茂と琥珀は、家を出た。




