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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第十章 雲外鏡
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雲外鏡<14>

 おそでは、家族を殺した土御門(つちみかど)の安倍宗家がもちろん憎い、しかし権力争いに自分を使った幸徳井(こうとくい)家も憎い。そして何よりも、呪術が使えることを自慢したかった自分が憎かったのだろう。


 失意の中、人知れず京都、奈良を離れ、行き着いた場所が下総(しもうさ)国は佐倉(さくら)村だったのだ。そして、家族皆殺しにあった木内宗吾(そうご)の恨みに自分の恨みを重ねて堀田正信を呪い殺したのだろう。今回、雲外鏡(うんがいきょう)事件でおそでを黄泉の国から呼び寄せた者が、安倍宗家の晴茂だったので、おそでの怨念が再び燃え出したということだ。


友種(ともたね)どの、おそでの怨霊(おんりょう)を静める品はないでしょうか。いくら僕でも、人間の霊を滅ぼすことはできません。怨霊を静め、安らかに眠ってもらうしか手がありません」


「よく分かります。さて…、おそでの怨念を静める品…、ですか」

「おそでは、照魔鏡(しょうまきょう)に呪いをかけました。その鏡はご存知ですか。雲外鏡といいます」


「ああ、…おそでの母が持っていた鏡でしょうか。照魔鏡かどうかは知りませんが、大事にしていました」

「その鏡については何かご存知のことはありませんか?」


「おそでが人知れず京、南都を去る前に、焼け落ちた我が家に立ち寄ったと聞いております。その時に、その照魔鏡を見つけて持って行ったのかもしれません。


確か…、その鏡には合せる別の鏡が対になっていて、一対の鏡だったと聞いております」


「ええっ!照魔鏡は合わせ鏡になっていて、一対だったということですか」

「はい、そのように聞いています」


 何と元々は一対の照魔鏡だったのだ。では、その片割れの鏡はどこに?晴茂は、その片割れの鏡が呪いを解く鍵になると考えた。


「焼失したおそでの家はどこでしょうか?」

「はい、南の方角です。裏宗家(うらそうけ)様が今から行かれるのですか?では、これに案内させます」


友種は懐に手を入れると懐紙を取りだした。それを一枚空に向かって投げると白い鳥に化身した。晴茂が礼を言うと、友種は恐縮して膝を付き頭を下げて答えた。


「裏宗家様、そのようなお言葉は勿体なく存じます。


おそでのことは、元はと言えばわたくしにも責任があります。おそでが悪いのではありません。

何とか、おそでをお助け下さい。そして、この幸徳井友種が謝っていたと、おそでに伝えてください。お願い申し上げます。


このような所で、このような形で、今現在の裏宗家様にお会いできるとは、友種も幸せ者でございます」


もう一度、顔を上げて晴茂の目を見た友種は、裏宗家の陰陽師に会えたという満ち足りた表情をしていた。そして、友種の霊はすっと消えていった。


 晴茂は、白い鳥の後を追った。鳥は人家の上を悠々と飛ぶ。そして今は町の真ん中に取り残された公園の大きな木の枝に止まった。『ここか』と晴茂は呟き、辺りを見渡した。ほぼ正方形の普通の公園だ。


ただ、公園にしては、子供用の玩具はない。晴茂は、白い鳥が止まった木の下で呪文を唱え、照魔鏡を探した。普通の鏡と違い、写った人の邪心を浮かび上がらせる特別な鏡だ。もしこの地下に眠っているのなら、晴茂が感じないはずはない。


『うっ!』 晴茂は、木から十数歩離れた場所が白く光ったのを感じた。


『あそこだな』 


晴茂は、気を集中して、照魔鏡を呼んだ。


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