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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第九章 川童
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川童<16>

 そんな騒ぎの中、森の大きな杉の木が光った。

「おっ、天神様だ。みんな、座って頭を下げるんだ」

河伯(かはく)の声に、河童族は全員、光った杉の木に向かって正座し、頭を下げた。杉の大木の前に天神が姿を現した。晴茂と琥珀は、河童族とは離れて腰を下ろした。


「みんな、よく集まってくれた。礼を言うぞ」

河童族は、へへぇと(かしこ)まった。


「さて、他でもない、最近は河童の数が減った。原因は色々あるだろうが、今日はその話は置いておこう。みんなも知っているだろうが、河童は雷神の配下で長年に渡り重要な役割を負って来ている。

河童の数が減った事で、その役割を全うするにも支障が出始めた。ここで、提案じゃが、集まったみんなで河童の役目を助けようじゃないか。そうすれば河童の負担も減る。また、おまえ達も張合いができると思うのじゃが、どうじゃ、…?」


 河童族はお互いの顔を見合わせながら、口々に話し合いを始めた。『河童の役目って?』、『雷神に会うのか?』、『俺は、雷神が怖い』、『カミナリは苦手だしな』、『河童はいつも雷獣と対決してるよなぁ』 その内、話し合いが高じてわいわいがやがやと騒々しくなった。


 そんな河童族の前に河伯が飛び出した。

「なあ、みんな、聞いてくれ。河童はあちこちにちらばって、川や池で水の状態を監視している。渇水や洪水や色々なことを肌身で感じているんだ。それは、俺たち河童族はみんな同じだろ。俺たちは水のことなら誰よりもよく分かるはずだ。


普段は水の中や水辺に棲んでいる河童が、そんな異常を感じた時に陸に上がる。陸に上がれば、雷獣に見つかる。雷獣は河童を見つけると稲妻で脅しをかけるんだが、その稲妻が雷雲を呼び雨を降らせる。


雷獣でも手に負えない時は、河童と雷獣は雷神様に報告に行くんだ。河童の数が減ったという事は、あちこちの異常気象が見つかり難い。


俺たちはそれをやろうじゃないか。異常があれば、河童に連絡するんだ。それに、河童が雷獣に脅かされた時、河童の数が少なくなった今では、河童の危険が増える。


それは俺たちが、いや俺、河伯と、河虎(かわこ)、それにシバテンとタキワロが雷獣から河童を守る。どうだい?みんな、やるか?」


 河伯の説明で、各々の役割がはっきりした。河童族は全員、頷き始めた。シバテンが立ち上った。

「みんな、やろうじゃないか。河童の手助けだ」


ゴンゴも立ち上った。

「俺たちゴンゴは、今では一番数が多い。それに北は北海道から南は沖縄まで、くまなく棲んでいるからな。河童の手助けはやれるぜ」

ゴンゴは最も河童に似ている。違うと言えば、河童より手足が長いくらいだ。


「おおぉ、やろう!」

みんなが答えた。河伯を真ん中にして、河伯、シバテン、ゴンゴが天神の方を向いて座った。

「天神様、お聞きの通りでございます。我々河童族がみんなで河童の手助けを致します」

河伯が、神妙な声で言った。


「そうか、良かった、良かった。これでみんなを集めた甲斐があったというもんだ。河童よ、怪我をしたと聞いたが、どうじゃ?」


「はい、天神様。向うにおります五芒星(ごぼうせい)の陰陽師が呪術で治してくれました」


「安倍の晴茂が治したか。それは良い。では、みんなで河童を助けて、雷神に仕えるのじゃぞ。何かあれば、そこの五芒星の陰陽師が駆けつけると言っておる。はははは、…」

晴茂を見ながら、天神はそう言うと、笑い声を残して消えていった。


 シバテンと河伯を残して河童族も徐々に姿を消していく。シバテンと河伯は晴茂の方に歩み寄ると、頭を下げて礼を言った。


「陰陽師さんよ、ありがとうな。河童の足まで治してくれて、それに俺たち河童族の結束を強めてくれた。

本当のことを言うとな、俺たち河童族はそれぞれ別々に関係なく生活していた。仲間という意識はほとんどなかったんだ。俺とこの河伯は、時々話をして、何とか河童族をまとめたいなと思っていたんだ」


「なぜ仲間意識がなかったの?」


「いやあ、そんな必要がなかったんだ。みんな好き勝手に生きておれば良かったからな」


「そうじゃ。しかし、ここ数百年で我々河童族も棲み難くなった。人間が増えてしまったからな。我々の棲家になっている辺境の山奥まで人間が踏み込んで来るようになった。


河童族は妖怪だが、強い妖怪は少ない。そんな河童族は一族だけでは生きてゆけぬ時代になってしまった。ここにいるシバテンは妖怪の中でも充分に強いのだが、ゴンゴやガータローは下手をすれば人間にも負ける。


河童族の助け合いは必要なんじゃ」

そう言って、シバテンと河伯はもう一度礼を言うと、山奥に姿を消した。


琥珀は、晴茂の顔を見ながら呟いた。

「河童は、これで大丈夫でしょうか」

晴茂は、浮かぬ顔をしている。


河童の足にかけられた法力の呪い、それに川童(かわわらわ)の不可解な動き、シバテンが言っていた山伏の言葉も気になる。河童族、いいや川童とは近いうちに再会する必要があると胸騒ぎがする晴茂だった。


「川童に会いましょうか、晴茂様」

琥珀の問いに、晴茂は静かに答えた。


「いや、今は会わなくていいだろう。

しかし、川童はどうも胡散(うさん)臭い」


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