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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第九章 川童
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川童<9>

 晴茂は、川童(かわわらわ)の方を向いた。

「何故正直に話してくれなかった。河童(かっぱ)雷獣(らいじゅう)の争いだったのだな」


「いやあ、すまなかった。河童の居所を知られたくなかったのだ」

「敵を騙すなら味方からとは言うが、それにしても水臭いな、川童。何故、それ程に河童をかばう」


 四人は、川童の居間としている空間に戻った。そして、川童は話し出した。


「ひと月ほど前だったか、ふらっと河童がわし等の縄張りに入って来ました。背中の甲羅がひどく焼け焦げていました。怪我をしているし、とても疲れている様子でした。まあ、いくら河童だからといってもほおっておく訳にもいけません。しかも、話を聞くと、この日本に河童はすでに十数頭しか残っていないらしいのです」


「ほぉう、絶滅寸前ですか」


「その残った十数頭は、筑後川の流域で密かに暮らしていたのですが、雷獣に見つかり皆ちりじりに逃げたようです。昔は日本の各地に多くいた河童ですが、江戸時代の中頃までに、多くが芦屋家の陰陽師に異界に封じられたのです。それでもまだまだ各地に潜んでいたのですが、雷獣に襲われてはちりじりになり、姿を消してゆきました」


「そこまで、河童と雷獣は仲が悪いのか」


「雷神に告げ口をする河童を許せないというのが雷獣の言い分ですが、よく分かりませんよ。結局は雷神の部下は自分達だけで良いと思っているのでしょう。雷神を独り占めしたいのでしょう」


「雷神は、何か仲裁でもしないのだろうか」


「最初の頃は仲裁もしていたようですが、雷神はそもそも気まぐれで短気です。そんな煩わしいことには気が乗らないのでしょう」


「河童も力を合わせて雷獣に立ち向かえばいいのに」

琥珀が呟いた。


「昔、もっと多くの河童がいた頃には、その地域毎に多くの河童が協力して雷獣の攻撃を退けていたらしいのですが、陰陽師に異界に封じられてからは、いくら協力し合っても雷獣に立ち向かえる程の力にはならなかったのです」


「雷獣といっても、わたしが見る限りは、そんなに強い妖怪でもないのだが、…」

晴茂が聞いた。


「雷神の配下として、雷獣は稲妻を使います。方や河童は雨や水を使います。一対一では、河童は全く歯が立ちません」

「なる程、そういう事か。それで、隠れている河童の容態はどうですか」


「随分と回復しました。でも、今は雷獣がうろついているので、もう少し様子をみようと話しています」


琥珀が、川童に同情した顔で言った。

「しかし、雷獣を何とかしないと、川童さん達も困りますね。晴茂様」

「うん、そうだなぁ」


 晴茂は、腕組みをして考え込んだ。雷獣をやっつけるのは簡単だが、その時は雷神を敵に回す事になる。雷神は人間にとっても必要不可欠だから、倒してしまう訳にも行かない。もっとも、晴茂が雷神を倒せるのかどうかも分からないのだが…。雷獣や雷神に、河童を追いかけ回すなと忠告しても、聞く耳は持たないだろう。


「少し考えさせてください、川童さん。暫くは、あなた達も河童と一緒に、池の中に隠れた方がいいのではないですか。あの様子では雷獣は、またやって来ますよ」

「はい、この子だけでも、池の中へやります」


 晴茂と琥珀は、アパートに戻る事にした。雷獣の後をつけた大裳(たいも)の報告も、そのうちにあるだろう。


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