川童<4>
「そうだ、わしが見つけた足跡を見てもらおうか。こっちだ、行こう」
川童は木の間を抜けて、林の中へ出た。かなり山の奥へ入った所で立ち止まり、足跡を指差した。木々が入り組んでいるその場所は、見晴らしが良くない。琥珀は、その足跡に気を集中した。
その場所に微かな妖気を感じた。
「妖気、…妖怪の足跡?」
「やはり妖気を感じるか。わしも異常な気配を感じた」
足跡は丸い。その先端には地面を深くえぐった跡が見える。足跡は十数個あるのだが、四本足の獣なら大型の犬程度、二本の足なら人間よりやや小柄かと琥珀は考えた。足跡は池の方角にのびている。こんな奇怪な足跡の妖怪とは、何だろう。しかし、いくら考えても琥珀には妖怪の知識がない。琥珀は、川童の顔を見た。
「こんな足跡は見たことがない。そこで足跡が途絶えている。周りを探ったが、何もない。まるで、そこから空を飛んだように見える」
川童が言った。
「空を飛んだ?…、ちょっと待っててね」
琥珀は、足跡が途絶えた場所から池の方向に向かって、生い茂る木々の幹や枝を探った。妖気を探りながら木々を調べると、「あった」、爪で引っ掻いたような傷が枝に残っていた。この妖怪は木に登れるんだ。
「これを見て!そこから飛んでこの枝を伝って進んだんだわ」
川童親子は、するすると木に登り、枝に残った爪の傷を確認した。
「なるほど…」
琥珀は、微かな妖気を頼りに、次々と木の枝や幹に残る爪痕を辿った。川童親子もついて来た。池に流れ込む小さな川の横にある木を最後に、木に爪痕は見つからなくなった。琥珀と川童親子は地上に降りた。
「ここで途絶えているわ」
琥珀と川童親子で、その最後の木の周りを手分けして調べた。
辺りを走り回っていた子供の川童が何かを見つけた。
「お姉ちゃん、これ。足跡だ」
行ってみると、池に流れ込む川の岸に足跡が残っていた。しかも、ここで何かをしたのだろうか、沢山の足跡が重なって残っている。その川を見ると、両岸は何かで焦げたような跡がある。ここで火でも燃やしたのだろうか。いや、何かが燃えた跡ではない。
何だろう?琥珀には見覚えがあるような焦げ跡だ。
「そうだ、…これは、…稲妻だ!」
琥珀も使う青龍の術、稲妻が大地を焦がした跡だ。
「稲妻?」
「雷さま?」
いったい何が起ったのだろうか。琥珀も、川童親子も、顔を見合わせた。
稲妻らしき焦げ跡があった場所から先は、新たな足跡や爪痕は見つからなかった。川童親子はもう少し辺りの調査をすることとした。




