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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第七章 送り犬・番外
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送り犬・番外12

(わらわ)は、それはもう嬉しくって、急いでこちらからもその穴を覗きましたよ。善光寺のお戒壇(かいだん)から松厳寺(しょうごんじ)への穴を覗いた人がいる。その時点で、誰が覗いたのか、知りたくて。何とか早くここまで辿り着いて欲しいと願いました」


そして、呉葉(くれは)がその穴に気を使っているうちに、お万が土蜘蛛(つちぐも)の糸から脱出してしまったのだ。


「すると、封じ込めていた呉葉さんの術をお万が破ったのですか?」


「いいえ、土蜘蛛(つちぐも)の術はお万には破れません。妾の油断です。穴に気を取られて、蜘蛛の糸の綻びを治さなかった。


しかし、初めて穴を覗いてくれた琥珀様が、脱出したお万にやられるとは、…。そして、その琥珀様のご主人様が、陰陽師 安倍晴明様のご子孫だとは、…。因果は巡りますね」


「そんな気楽な話ではありませんよ。琥珀の心を取り戻さねばなりません。お万を探す手立てはありますか」


「ほほほ、晴茂様、そんなに焦っても仕方ありません。晴明様は、もっとゆったりとされていましたよ。それとも、琥珀様はそれ程大事なお方ですか」


「それは、…私の式神ですから、…」

「ほほほ、式神は主人の為なら灰にもなるものですよ。あなた様の手足となって働くもの。式神を救うために、主人のあなた様が危険に飛びこむのはいかがなものでしょう」


晴茂は、言葉に詰まった。言われれば、その通りだ。


「ほほほ、晴茂様、琥珀様が大事なのはよく分かってますわ。妾は、お万を千年以上封じて来たのですよ。お万がどこにいるか、何を考えているか、察しがつきます。

もう、五・六百年程前になりましょうか、以前にもお万に脱出されたことがあります」

「ええっ?逃げられたのですか?」


「はい、その時にお万は妖怪縊鬼(いっき)を倒し、その配下だった青坊主を自分の手下に仕立てたのです。そして、長寿丸(ちょうじゅまる)にも、邪悪な妖気を植え付けました。それは、全て経若丸(つねわかまる)の居所を探るためです」


「それで、どのようにして再びお万を封じたのですか?」


「ほほほ、蜘蛛の糸は切れてもそのものにまとわり付いて離れません。その蜘蛛の糸は、妾の妖力を与えてますからね。()わば妾の分身」


「あっ、なる程」


「ほほほ、土蜘蛛(つちぐも)の術を甘く見てはいけません。今、お万は戸隠(とがくし)山のかつての拠点だった洞窟にいます。琥珀様の心もそこに隠されています」


「どのように琥珀の心を取り戻すか、策を講じなければいけない」


「ほおら、また焦ってますわ。晴茂様のお力なら、お万はすぐに倒せます。それより心配は、経若丸の妖気。千年以上眠っていますから、その力は徐々に強くなっているはずです。妾は、こちらの方が気がかりです」


「結界に封じよう。それで安心だ」

「はい、それしか方法はありませんか。いいえ、経若丸の妖気には妾の妖気も混在していますから。それも一緒に封印するしかないと言われますか…、それしか、ありませんか…」


「結局、その混在した妖気が、今までの災いを引き起こしているのだから、仕方がないでしょう」


「ほほほ、その通りです。でもねぇ、晴茂様が琥珀様の心を心配されるのを見ると、たかが十に分けた一つ分の妾の妖気でも、もう少し大切にしてくれるかと、…」


「ああ、いや、そんなつもりではありませんが…、晴明様でも分離は諦めたと聞いていますし…」


「ほほほ、困らせてご免なさいね。では、全部封印する方法で安心しましょう」


 晴茂は苦笑いをした。琥珀を例えに出されると、返す言葉がない。その時、呉葉の目が光った。そして空中高く飛び戸隠山の方角を探った。


「晴茂様、お万が動きます。経若丸に結界を張るのは後で、まずは、お万を倒し琥珀様の心を取り戻しましょう。長寿丸、鬼塚に行き、墓を見張れ!経若丸が動いたら知らせなさい」


呉葉は、再び空高く飛んだ。晴茂も呉葉の後を追った。


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