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琥珀色の心  作者: 柴垣菫草
第七章 送り犬・番外
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送り犬・番外10

 お万が水無瀬(みなせ)に現れてから、紅葉の身体を支配したのは経若丸(つねわかまる)の妖気だった。紅葉は鬼女となり、お万を連れて戸隠(とがくし)へ移り住んだ。更に手下は増え、旅人の金品を奪う日々となった。


 その内、時々力を盛り返す呉葉(くれは)の妖気を嫌って、経若丸は呉葉の妖気を身体から追い出し、呪いをかけた壺に閉じ込めた。しかし、この時、世紀の陰陽師、安倍晴明でも親子の妖気を完全に分離する事はできなかったように、経若丸は紅葉の身体から呉葉の妖気を完全に追い出す事はできなかった。


 紅葉の身体には、経若丸の妖気と分離できなかった呉葉の一部の妖気が混在したのだ。これがその後の不思議な事態を引き起こす事になった。


いいや、元はと言えば、呉葉に頼まれて止むを得ず晴明が行った呪術で、ひとつの身体に二つの妖気、しかも親子の妖気を入れた事が、後々の問題を起こしていると言える。


 鬼女紅葉を討つ勅命が下り、平惟茂(たいらのこれもち)が遣わされたことは壺の中で呉葉も知っていた。そして、惟茂の放った降魔(ごうま)利剣(りけん)が鬼女紅葉の右肩に刺さった瞬間に、壺の呪いが解けた。呉葉の妖気は壺から出て上空で戦いの様子を見ていた。


 惟茂は渾身の力を込めて、降魔の利剣を振るった。鬼女紅葉の身体から邪悪な経若丸の妖気を吸い取りながら、利剣は紅葉の首を刎ねたのだ。空中に飛んだ紅葉の首には、降魔の利剣によって、すでに妖気は存在していなかった。これ幸いと、呉葉の妖気がその首に納まった。


 紅葉の首が刎ねられ、利剣が紅葉の胸を貫いた後、呉葉は邪悪な経若丸の妖気がまだ紅葉の身体に残っている事を確認した。降魔の利剣は邪悪な妖気だけを吸い込む。紅葉の身体に少し残っていた呉葉の善良な妖気に紛れ、経若丸の邪悪な妖気の一部は、降魔の利剣には邪悪と見做(みな)されずに残ったのだ。


 こうして、首のない鬼女紅葉の遺体には、経若丸の邪悪な妖気の一部が残った。呉葉は、一部ではあるが、残った経若丸の妖気をそのまま放置するのは危険だと考えた。


当面は遺体に残った邪悪な経若丸の妖気が動き出す事はないだろうが、何か別の邪悪な力が加わると復活する危険性がある。呉葉は、埋葬された鬼女紅葉の遺体を監視する事にした。


 呉葉の妖気が取り戻した紅葉の首と、首が切断された鬼女紅葉の遺体をつなぎ合わせ元の姿に戻るのも考えた。しかし、そうすると親子の妖気が再び混在する不安定な状態を作ることになる。呉葉は、このまま首だけは分離しておいた方がよいと判断したのだ。


 鬼女紅葉の手下は、お万を除いて全員が惟茂に降魔の利剣で討ち取られた。鬼女紅葉の墓の近くに手下達も埋葬された。呉葉はお万を探した。お万は、寺の住職を騙し、惟茂にお万は改心し、仏に帰依したいと嘆願させていた。惟茂がお万に仏への帰依を許した後も、呉葉はお万を見張った。


 そしてひと月後、お万は分身の術を使い、偽物のお万が自害したのだ。本物のお万は、経若丸の妖気を探し回った。お万は降魔の利剣に邪悪な妖気を吸い取る力があることを知らなかったが、いずれお万の知るところとなるだろう。


 呉葉とお万では呉葉の妖力の方が強い。戦えば、呉葉が勝つであろう。しかし、呉葉は今は首だけの存在だ。手足を無くしては全力で戦う術がない。呉葉は、お万が動けなくなるような手はないか思案した。


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