送り犬<15>
晴茂は、十二天将を呼んだ。
「誰か、伴経若丸を知っているか?お万を知っているか」
晴茂の問いに、十二天将達は驚きの顔を隠せなかった。しかし、みんな口をつぐんでいる。そして、彼らの視線は太陰に向けられた。
太陰は、いつも酔っぱらった表情で軽口も叩くが、この時はすっかり酔いも醒めた顔付で、下を向いている。手が震えているではないか。
ようやく決心をしたように真顔で晴茂を見ると、押し殺したような声で太陰は答えた。
「お万も、経若丸も知っています」
「経若丸とは?」
「…」
「お万とは?」
「…」
大裳が、律儀な顔で言った。
「晴茂様、晴明様が鬼女紅葉に関わっております。実際に関わったのは、太陰、青龍、そして晴明様でございます。我々に聞くよりも、晴明様に直接聞かれた方が良いと思います」
「そうです、晴茂様。晴明様と紅葉、なかなか難しい話でもありますから…」
太陰が、何やら奥歯に物の挟まった言い方をした。
「鬼女紅葉とお万、経若丸の関係は?」
「…」
太陰は、いたたまれず、質問とは関係のない答えを言った。
「それに、そこにいる犬、その犬も…」
太陰に突然話題を振られ、送り犬は太陰をじっと見た。どこかで会ったような気がする、と送り犬は感じた。
「後は、…晴明様に、…」
大裳が続けた。
「琥珀の心がかかっています。晴明様に直接聞いてください、晴茂様。
この話は、他言無用と晴明様から釘を刺されております。我々からは、話せません」
太陰は、心から琥珀を心配し、晴茂に言った。
「晴茂様、晴明様がお話になれば、私も全てを話せます」
「分かった。晴明様に聞いてみる。とりあえず、今夜は帰ってくれ」
晴茂は、十二天将を帰した。
安倍晴明が関わり、話すなと指示されたのなら、十二天将を問いただしても酷だ。
何やら奥の深い繋がりがあるのだろう。
晴茂は、目を閉じ、しばらく考えた。
そして目を開けると、琥珀石を心配そうに見つめた。琥珀を滅ぼしてはいけない。
必ず助ける。




