Page 2.異界侵入(D)
やっとプロローグが終わったという感じでしょうか。
批判・感想・なんでもお待ちしております。
よろしければ活動日記のほうもよろしくお願いいたします。
英朗の視界から青白い光が消え、目の前には生活指導室の風景が広がっているだけだった。重信は、暴走で疲れたのか眠ってしまっている。疲れたなと思い、生徒指導室の椅子に腰掛けようとした。その時、誰かに肩を叩かれた。
「何休憩しようとしてるのよ! あのはぐれメンタリオンを追わなきゃ!」
肩を叩いたのはミザリーだった。ミザリーの言葉を聞いた英郎は、当初の目的であるはぐれメンタリオンの捕獲のことを思い出す。「あ、そういえば」とつぶやき、ミザリーに頭を叩かれる。ミザリーの力を使って再び空を飛び、さっきのはぐれメンタリオンを探す。あたりはもうすっかり夜だった。
「私と戦って結構深手を負ってるから、そう遠くへはいけないと思うけど」
「物騒だねえ」
「あんたが呑気すぎるのよ。暴走したメンタリオンに口で勝つなんて、あんたくらいしかできないんじゃない?」
「勝つとか負けるとかじゃないしな。ただ、重信さんの気持ち、痛いほどわかるから」
英郎は飛びながら空を見る。周りのビルよりも高く飛んでいると、東京でも結構星が見えるんだなあとしみじみ思った。故郷で見た星空を重ねながら。
「そういえば、あんたって九年前何があったの?」
まあでもやっぱり、故郷の星空の方が綺麗だな。
「そのうち話すよ、そのうちな」
「そのうち、ねえ……」
空を見るのをやめて、行き交う人々を見つめる。これだけ離れていれば、余程大きな負のエネルギーでもない限り、心の声は入り込んでこないようだ。ホッと胸をなでおろし、感覚を研ぎ澄ます。大きな負のエネルギーを垂れ流しにしているものを探す。
「まあ、絶対いつかは話してよね。相方なんだから」
「そうだな、いつかは話すよ」
「絶対ね、約束よ」
「うん、やくそ――」
突然吐き気を催すほどの悪寒に襲われる。とてつもなく大きな負のエネルギーが英朗の中に流れ込んで、まともに飛んでいられない。英郎は胸を抱えるようにして、静かに急降下した。
「英朗!」
急降下する英朗の体をミザリーが受け止める。『助けて』『やめて、離してこのけだもの!』『いや、いやぁああああ!』むせび泣く声と喘ぎ声が混じったような声が、英朗の中に流れ込む。でも、一つ不可解な点があった。
「いろん、な人の声が、聞こえる」
「なんですって!?」
英郎はミザリーの腕の中でもがく。『許して許して許して許して』『妻が死んだ、妻が……』『子供は誰かに殺されたんだ!』『殺してやる!』『殺してやる!』『殺してやる!』『私を犯したやつを』『私をいじめたあいつを』『妻を殺した運命を』『子供を殺した男を』『殺してやる』
「……いろい、ろな人の殺、意が集ま、ってる」
英朗の中に流れ込んでくる負のエネルギーの量があまりにも膨大で、英朗の目や鼻や口から青白い光が漏れ出している。複数の人間の複数の殺意、それが自分のもののように感じられ、心というガラス玉が割れてしまいそうになる。
いよいよ耐え切れなくなり、壊れそうになったとき、突然、負のエネルギーはぴたりと止まった。漏れ出ていた青白い光が英朗の中へと入っていく。英朗の胸はもう苦しくはなかった。
「止まった……」
「一体なんだったの」
ここら一体の複数人の負のエネルギーが、一斉に膨大になったとでも言うのだろうか。ミザリーはそう考えたが、「そんなことはあり得ない」と自分の考えを振り払う。ミザリーは英朗を部屋に連れて行き、ベッドに寝かせた。
「はぐれメンタリオン、探さなくていいのか」
「私もあんたも、今は消耗してるから」
ミザリーはベッドのふちに座って本を手に取る。英郎は「そうか」とつぶやき、目を閉じた。さっきまでひどい目にあっていたのにも関わらず、目を閉じるとすんなり眠ることができた。ミザリーは本を読みながら、英朗の頭をそっと撫でる。割れ物にさわるように、そっと、そっと。
「それに、ひょっとしたら、もっと危険なものがこの街にあるかもしれないし」
やっとプロローグも終わり、次から話が大きく動き始めます。
猫鰯節も炸裂するので、次回で僕の文章の好き嫌いがはっきり分かれると思います。
それでもお付き合いいただければ幸いです。