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Page 2.異界侵入(A)

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   Psge 2.異界侵入


 ミザリーが英朗のアパートに同居し始めてから一週間が経った。実家の書庫からめぼしい本だけをアパートに持ち帰り、ミザリーに餌として与えることにした。本当に必要としているのは、ミザリーだから。

「で、ミザリー」

「美沙よ」

「ミザリー、どうしてお前の心は読めないんだ?」


 ひょんなことから人の心を読んでしまうという不思議な力を身に宿してしまった。でも、ミザリーの心だけはどうしてか読むことができず、英朗にとって、ここ数日の悩みの種になっていた。

「それはね、私があなただから」

「パパが娘で娘がパパで的な?」

「ちょっと違うかな。私はあなたの影みたいなものだからね。自分の心は意外と盲点になって見えないものよ」

 ミザリーが本を読みながら無愛想に答える。ミザリーはいつも無愛想だ。

「なるほど。で、この力を制御する方法とか、ないの?」

「どうして? 便利じゃない。それが無いと他のメンタリオン見つけらんないし」

 英朗とミザリーがメンタリオンとメンタリを探す方法は、英朗の力を使って負のエネルギーの増幅を感知することしか無い。数日前の話し合いで、そういうことに決まっている。

「そういう問題じゃないんだよな。これじゃ外に出れないじゃないか」

「だから、どうしてよ」

「人の本音がわかったらな、自分は本当は嫌われてるかもしれないとか不安になるんだよ」

「かもしれない、じゃなくて確定だけどね」


 英朗は眉をしかめる。床に座ってせどり商品の出荷作業をしていたのだが、手を止めて立ち上がる。ミザリーは決して本から目を離すことなく英郎と対話する。

「コンビニ店員だって建前で、ありがとうございますって言ってるけど本当は僕に悪態ついてたり。そういうのが丸分かりって怖いんだよ!」

「私にはわからないわ。ご馳走じゃない」

「そうかそうだった。お前らは負の感情が栄養だもんな」

 英朗は大きなため息をつく。ミザリーから本を取り上げて本を閉じた。

「ちょ、返して!」

「僕たち人間にとってはな、ポジティブな感情が一番の栄養なんだよ。少しは、理解しろ」

 英朗が背伸びをしてミザリーに本を取らせまいとしている。ミザリーは取ろうとしてジャンプするが、背が小さくて届かない。

「私にとっては、ネガティブな感情が一番の栄養なの。少しは、理解してよ」

 二人の会話はまるで痴話喧嘩するカップルのようだった。

「理解はしている。した上で、この力をどうにかできないかと相談してるんだ」

「心を閉ざせば、いいんじゃない?」

 ミザリーがそう言うと、英朗は本を持っていた手をおろした。その隙を見てミザリーが本を奪い取る。

「心を閉ざすって?」

「音は耳から、景色は目から入るでしょ? 感情は心から出て心から入るの。だから、その入口を閉ざしてやればいいのよ」

「つまり、弁みたいにぱかぱか心を開いたり閉じたりしろってことか?」

「そうそう。特定の負の感情にのみ反応できるようにすればいいの」


 英郎が顎に手を当てる。ミザリーは再び本を開いてページをめくる。「どこまで読んだかわかんなくなったじゃないの」と文句を言いながら。

「でもそれじゃあ、閉じてる時にメンタリオンが事件起こしたら対応できないな」

「そう、だからその力はそのまんまでどうぞ」

「はあ……それしか無いのかねえ」

 肩を落として出荷作業に戻る英朗。ミザリーは本を読み終わったようで「あー、美味しかった!」と言いながら伸びをしている。二人は壊れた歯車のようにまるで噛み合わない。正と負という相反する存在だからか。

「そういえばあなた、さっきから何してるの?」

「本を売るから、送る準備をしてるんだよ」

「へえ、餌を売ってるわけね」

 英郎はダンボールにガムテープを貼り付ける。

「餌じゃない。本が好きな人に売ってるんだ」

「そこから知識や娯楽を得るんだから、それはそれで餌じゃない」

「まあ、そうかも」

 ダンボールを二回ほど軽く叩いて部屋の隅に寄せる。出荷予定のものは全て部屋の隅に寄せておくことにしている。そうすれば、間違えることはないから。

「ちょっと待ってよ。売るっていうことは、私食べられないじゃない」

「安心しろ、お前が食ったものしか売らない」


 だからお前が来てから作業効率が悪化したんだよ、という言葉を喉の奥で飲み込んでベッドに座る。

「ふうん。それならいいわ」

 英朗は大きなあくびを付きながら窓の外を見る。夕焼けのオレンジ色に染まる空は、思ったよりも低かった。白い雲が光を反射し、雲さえもオレンジに見える。街さえも、自分の心さえも。でも、自分の心は、オレンジに染まることはないのだ。

「そういえばさ、ミザリー」

「美沙ね」

「もし、誰かのメンタリを見つけたらどうするんだ?」

 ミザリーはダンボール箱をつんつんとつついている。

「その中に入るわ」

 英朗の顔は見ずに答えた。英朗もミザリーの顔を見ずに「どういうことだ」と問う。

「中に入って、そのメンタリが誰のものなのか探るの。箱は開けてみなきゃわからないってことよ」

「なるほどなあ。でもさ、そのメンタリが僕らのものじゃなかったら?」

「本来の持ち主に返す。じゃないと、メンタリオンが人間にとって良くないことをし続けるでしょう?」

「それもそうか」


 英郎は、面倒だなあと心の中でつぶやいてベッドに横になる。ベッドが英朗の体重に耐えられずに悲鳴をあげる。英朗の体はベッドに埋もれた。

「縛られてるねえ」

「違うわよ、解放されちゃったのよ」

「解放された挙句縛られるとか皮肉だな」

 解放は縛られることと同義。この不条理の中で人間は生きているのだろうか。そのような哲学的なことを考えたところで、英朗に哲学書は書けない。だからそのような面倒なことは無視するようにした。

「解放っていうのが、いつも良い方向に転がるとは限らないからね」

「まあ、物語の中の解放軍とか、悪者多いしな」

「そうよ。解放っていうのは、それまであった秩序を破ることなんだから」

「なかなかポエマーなことを言うもんだな、メンタリオンって」

 英朗の口角が少しだけ上向きになった。

「本ばっかり読んでるからかもしれないわね」

 かもしれないな、と思いながら英郎が立ち上がった。その瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚に襲われた。『俺に濡れ衣を着せた奴らに、復讐してやる』心から入り込んできた誰かの負のエネルギー。

「どうしたの?」

「なんか、誰かの感情が入り込んできた」

今回は中途半端なところで「To be continued……」的な終わり方をしてしまったので、次回は若干ハイライトを含む予定です。やっと物語が本格的に始動します。とは言っても、かなり長いうちのまだまだプロローグ部分です。


英朗とミザリーのやりとりがなんだか微笑ましいですね。今回は本ネタはありませんが、パパが娘でなんちゃらっていうドラマがありましたよね。新垣結衣が出てた奴。あれ好きでした。

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