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Page 1.出会い(B)

Bパートです。

物語が動き始めました。

少し長めになってしまい申し訳ございません。


批判・感想なんでも受け付けております。

すべてのご意見をありがたく受け止める所存ですので、よろしくお願いいたします。

活動日誌の方で制作秘話のようなこともやっているので、よろしければそちらもどうぞ。

 穴からものすごい勢いで何かが飛び出してきた。かと思えば英朗にとてつもなく大きな衝撃が走った。車にでも轢かれたかのような重たい衝撃だった。何も考える間も無い。英朗の世界は、崩壊した。

 ぶつかった瞬間に真っ暗な世界があたり一面に広がる。暗闇が英朗を、そしてこの書庫全体を飲み込んでしまった。とても明るい暗闇だった。真っ暗な世界で英朗は目を覚ました。何がなんだかよくわからず、あたりを見渡す。小さな黄色い光と青白い光が衝突し合っては消えていく様子が見える。無数の光たちが衝突しては消えていく。それは、なんだか切なかった。

 誰かいないものかと声を出そうとしてみる。でも、声すら出なかった。しばらく真っ暗な世界で為すすべもなく突っ立っていると、また英朗に光が飛び込んできた。今度は、黄色い光だった。

 音もなく衝突した瞬間、真っ暗な世界は一点へと収束し、書庫の穴へと消えていった。英朗の現実が戻ってきたが、どうも状況が飲み込めない。

「さっきのは……?」

「動かないで」


 突然頭に激痛が襲ってきた。何が起こったのか英朗は咄嗟に理解できなかったが、どうやら頭を掴まれたらしいことは理解できた。何かに。

「今から私はあなたのメンタリに干渉し、あなたの負のエネルギーを吸い取ります」

 何が起こっているのか、少しでも状況を理解しようと首を回す。英朗はかろうじて、自分の頭を掴んでいる何かの正体を見ることに成功した。女の子だ。女の子だと認識した途端、全身に感じたことのないほどの寒気が訪れた。

 英朗はもうどうにでもなれと、目を閉じた。

「あれ? どうして、この人、干渉できない」

 突然女の子は英朗の頭を離す。頭を抱えようとしたが、頭はもう痛くなかった。寒気も無い。どういうことだろうと思いながら、女の子を睨む。黒い髪を優雅に垂らし、細い指を柔らかそうな唇に当てている。何か考え事をしているようだ。

「この人……もしかして!」

 女の子は叫びをあげたかと思えば英朗の顔を覗き込んできた。女の子の顔は、不自然なほどに整っていた。まるで、人間ではないかのように美しい。

「あなた、なんでそんなに落ち着いているの?」

「わからない」

 非現実的なことが連続で起こっているにも関わらず、英朗は冷静だった。自分の冷静さを自分自身が一番よく理解していた。怖いくらいに冷静。これも、人間じゃないかのようだった。

「あなた、泣いたり悲しんだりネガティブになることってある?」

「は?」

 質問の意図が理解できない。それにこの女の子は一体何なんだ。さっきから言ってることとやってることがわけわかんない。もしかしたら、さっきぶつかってきたのもこの女の子なのか?

「答えて」


 不審に思いながらも、英朗は答えることにした。

「無くはない。でも、極端に少ないかな」

「何年前くらいから?」

「んんー……九年、くらい前」

 女の子は「九年、九年」とぶつぶつとつぶやくように繰り返す。英朗は頭を傾げながらも隙を見て逃げ出そうとしていた。こんなわけのわからない不審者に、長いあいだ関わっていたくなかった。早く通報しよう。心でそう強く念じる。

「やっぱり! 私、あなたをずっと探してたの」

 女の子が手を握ってくる。

 しまった、逃げられない。

「お前、誰だよ。さっきの空間は何だ」

 英朗はプランを変更することにした。通報するより前に今起こったことと、この不審人物の詳細を知ることを優先する。女の子はくすりとも笑わず、英朗を凝視する。

「私はメンタリオンのミザリー・イーストよ。あなたのネガティブな心よ」

 メンタリ、メンタリオン。何かの本に出てくる言葉だろうか。でも、英朗はそんな言葉が出てくる本を読んだこともなかったし、そんな言葉は一度たりとも聞いたことがなかった。

「わかるように話してよ」

「あなたの精神世界から生まれたのよ。九年前、あなたとあなたの精神世界が分離してしまった日、この人間の世界にやってきてしまったの」

「変な設定のファンタジー小説か。もっと現実味がある話をだな」

「これが現実よ」

 これはもう話していても無駄だと直感した英朗は、ゆっくりと踵を返した。


「悪いがお前の話には付き合ってられない。これは夢だ」

 ゆっくりと歩き出し、徐々にスピードを速め、走り出した。一度攻略した迷路だから道を覚えていた。だからまた迷わずに書庫から出ることができた。書庫から出て、扉を閉める。鍵をかけ、深呼吸をする。

「あんたどうしたの、そんな慌てて」

 書庫の外には本をまとめる作業をしていた母が居た。英郎が母の声に釣られて母の顔を見た。その瞬間、全身を得たいの知れない何かが駆け巡る。『このアホ息子が。貴重な本は適当に売りさばいて金にすればいいものを』『なんでこんな子産んじゃったのかしら』『人生最大の汚点だわ』

 頭の中に直接流れ込んでくる汚い言葉。綺麗な声。母の声だった。

「母さん、僕を産んだことを人生の汚点だと思ってる……」

「へ? そんなこと言ってないじゃないの」

 言ってない? 言ってないわけがない。だって、聞こえてきたじゃないか。


「嘘だ!」

 英郎はたまらなくなって走り出してしまった。今日起こったことは全て夢だと思い込み、悪い夢から覚めようと必死になって走り出した。『あんなに必死に走って、キモー』『何? あいつ、キモオタ?』走っている最中にも人々の馬耳雑言が頭の中に直接流れ込んできて、英郎は吐きそうだった。

 英郎は気が付けば、とあるビルの最上階に来ていた。夢というのは大抵、高いところから落ちるところで覚めると、ネットに書いてあったからだ。英郎はビルの窓を開け、身を乗り出した。重心を前に思いっきり傾けようとしたとき、あることを思い出した。

 英郎が、九年間一度も夢を見ていないことを。

「何をしているんだ君!」

 『自殺か? 辞めてくれ、仕事が滞るじゃないか!』同じ声。英郎は泣き出したい気分に駆られたが、生憎涙が出なかった。

「早く降りるんだ!」

 英郎はスーツを着た男に建前で引き摺り下ろされ、ビルの廊下に尻餅をつく。

「よかった、死ななくて」

 『本当だよ、このビルで死なれたら迷惑だ。死ぬならうちのライバル会社でやってくれ』これがこの男の本音だ。頭の中に直接流れ込んでくる人間の本音。前まではこんなことはなかった。全てはさっきの女のせい、さっきの書庫での事件のせいだと英郎は理解した。

「すいませんでした」

 英郎も建前で謝罪をし、再び家に向けて走り出す。

今回も読んでいただきありがとうございます。

人の心が読めてしまうというのは、私だったら絶対に嫌です。

星新一さんのショートショートで、そういう話があったように思います。誰も信じられなくなり、皆が皆引きこもってしまうという。キノの旅でもありましたよね。


次回は設定ネタばらし的で、話の本筋が始まる回になります。次回であらすじの最後の部分ですね。最初の部分の話が出てくるのは、まだまだ先の話です。


次の話を投稿する前に設定資料を投稿しようと思います。

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