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悪の組織もわるくはない

作者: 来栖ゆき

 木崎結依(きさきゆい)は、二十八歳の誕生日前日に職を失った。

「ありえない……」

 公園のブランコに座り、コンビニで買った三本目の缶ビールを開けると、それを一気にあおる。

 冷たい風が吹き抜け、思わずコートの合わせ目をぎゅっと掴んだ。桜の木はすでに葉を落とし、細い枝の合間から満月が覗いていた。

 雲ひとつない冬の空はとても澄んでいて、星が瞬くのがわかるほど。

 頭上を眺め、はぁ、とため息を零す。

「何で私が、クビになるの……」

 結依はとある大手企業に勤めていたOLだった。

 だった、というのは、ほんの数時間前に解雇されたから。

 経理部に所属しており、昨年の4月に主任に抜擢されてからは、忙しいながらも楽しい毎日を送っていた。

 が、内部告発で不正経理が明らかになり、主犯はうやむやのまま、責任を取らされる形で結依だけがクビになったのだ。

 身の潔白を証明しようにも証拠が何もなかった。経理部長の白井が某取引先の隠居した会長の縁故者だからだと思う。大事になる前に証拠を握り潰し、結依を辻褄合わせのための生け贄にしたのだろう。

 真犯人は白井だ。そして結依に責任を押し付ける形で丸く収めた。

 思いだせばふつふつと怒りが沸いてきて、持っていた缶がメキョ、と音を立てて潰れる。

「ふざけんなー!!」

 五本目の缶ビールが空になる頃には、酔いもだいぶまわってきていた。結依はブランコから立ち上がり大声で叫び続ける。

「白井のハゲがっ! この、このーっ!!」

 ――憎い。憎い。憎い。

 すべてが憎い。

 どうしてこんな目に合わなければならないの? どうして誰も味方になってくれなかったの?

 じわじわと闇の感情が結依の心を支配していく。


 ふいに辺りが暗くなった気がした。

 ばさりと分厚い布が落ちたような音がして、結依は振り返る。

 ブランコの周りにある安全柵の上に、まるで空から舞い降りたかのように現れた男。

 漆黒のマントをひるがえし、月の光を背に不敵に微笑んでいた。

「まさに、ふさわしい……」

 男は静かに呟いた。

「私の忠実な(しもべ)、嫉妬を司る悪の女王――クイーン・レヴィアタン……」



 ――今思えば、結依はこの時かなり酔っていた。だから簡単に受け入れてしまったのだろう。



◆◇◆◇◆



「つまり、私を幹部待遇で雇ってくれるってことですか?」

 突然現れた男は、異世界からやってきた魔術師だと名乗った。

 この世界を征服し、人間を家畜同然のように扱い、全人類を支配するために来たらしい。

「そうだ。世界を征服するため、共に手を取ろう」

 結依と男は駅前のファミレスにいた。

 公園があまりにも寒すぎて、立ち話をするには向かなかったため、暖を取るために移動したのだ。

 店員に無理を言って温めてもらったワインに口を付け、結依は首を傾げる。

「何で私?」

「そなたは……嫉妬の心と、簿記の資格を持っている」

「え、簿記?」

 経理部の主任だった結依は、日商簿記検定一級を取得していた。

「まあ、確かに持ってるけど。そんなんでいいんですか?」

「悪の組織と言えど、活動には金がかかる。管理する者が必要だ」

 男は片手をあげてコーヒーのお代わりを頼んだ。

 店員は不審の目で見ながら、恐る恐るカップにコーヒーを注ぐ。

 それもそうだろう。彼はバイオレットの長い髪と瞳に、白い肌。金や銀の装飾が施されている詰襟の黒い服に、足元まで届くマントまで着用していたのだから。

 反対側に座る結依は、至って普通のオフィスカジュアル。

 こんな二人組を見たら誰だって戸惑うだろう。

「成功報酬として日本を含めたアジア圏の統治権を授ける」

「私、ヨーロッパがいい」

「ならば、そのように」

 それを聞いて結依はにやりと笑うと、半分ほど残っていたワインを飲み干してグラスを空にした。

 結依のその行動を肯定と取った男は、薄汚れた羊皮紙をテーブルの上に置いた。

「雇用契約書だ。これにサインを」

 羽ペンを手渡され、赤いインクにペン先をひたす。

 結依は日本語でも英語でもない文字が書かれた紙にサインをした。

 文字が読めないので細かな契約内容はわからなかったが、再就職先が決まり、しかも組織の幹部待遇とヨーロッパ統治権のフルセットなら願ったり叶ったりだ。

「これでそなたはクイーン・レヴィアタンとなった」

「イエス、ボス! で、クイーンなんとかって何です?」

「俗称だ。本名を名乗るわけにはいくまい」

 確かにそうだ。世界征服の最中に身元がバレたら面倒な事になるだろう。

「じゃあ、あなたは?」

傲慢(ごうまん)を司る悪の王キング・ルシファーとでも名乗っておこう」

「オーケー、ルーシー」

 ルシファーと名乗った男は結依の言葉に少しだけ眉をひそめたが、別段気にすることもなく、懐から銀色のブレスレットを取り出した。

「これは私の作った魔法道具のひとつ。(ねた)み、(そね)みと糧として、レヴィアタンに力を与える」

「へえ、だったら今の私は強いわよ?」

 受け取ったのは精巧な銀細工のブレスレット。三匹の細い蛇が絡まって自らの尾を噛み輪になっている。全体に細かな鱗模様が刻まれ、目には赤い宝石が埋め込まれていた。

 こうして結依はそれを左腕に通し、悪の組織の幹部、クイーン・レヴィアタンとなったのだ。



 ファミレスを出ると、結依は教えられたとおりに左腕を天にかざし、目を瞑って嫉妬の心で満たした。

 すると、ブレスレットの蛇の目が光り、足元から冷たい黒霧が沸き出す。

「嫉妬の闇で覆い尽くせっ!」

 ブレスレットから突風が放たれると、黒い霧が辺りに拡散し始めた。霧に包まれた人たちの目が虚ろになり、ふらふらと身体を揺らし始める。

「おい、テメー。今オレの足踏んだだろ!」

「ちょっと、私の財布取ったでしょう! 返して!」

「お前みたいなやつが上司だなんて許せねぇ!」

 闇に飲まれた人々が争い始める。殴り合いの乱闘を始める者まで現れた。

 止めに入った正義感あふれる者もその闇に触れると、途端に争いに加わり始める。

 嫉妬の闇が徐々に広がっていった。

「すごい……」

 喧噪を聞いていると心が凪いでいくのがわかる。

 これが力を解放するということ――

「もっと、もっと…………」

「いけません!」

 ふいに左腕を掴まれ、結依の周りに充満していた嫉妬の闇がすっと晴れていった。

「ちょっと、何すんのよ」

 結依の腕を掴んだのはプラチナブロンドに青い目をした若者だった。聖職者だろうか、黒衣のキャソック姿で、大きな十字架を手に持ち、真剣な面持ちで結依を凝視している。

「そのブレスレットは闇の魔法道具です。今すぐ外しなさい」

 ぐいと腕を引かれ、少しよろけた。彼の一方的な物言いに、結依は反抗心をむき出しにする。

「離してっ」

 男を振りほどくと、ブレスレットの蛇一匹をムチに変化させて大きく振った。

「ぐわっ」

 ムチは男に当たり、そのままコンクリートの地面に叩きつけた。

「クイーン・レヴィアタン。腕試しはそこまでだ。行くぞ」

「え、もう? ストレス解消には足りないけど」

 どこからともなく現れたルシファーの手を取り、結依は後ろ髪を引かれる思いで彼と共に煙のように消えた。



「なんてことだ……」

 男はムチを打たれた胸を押さえ、よろよろと立ち上がる。

「このままでは、この世界が滅んでしまう――」

 彼は結依の消えた空を見つめ、決心したようにぐっと拳を握った。



◆◇◆◇◆



 木崎結依――改め、クイーン・レヴィアタンは、悪の組織『セブンス・ヘル』の幹部兼経理責任者となった。

 これからは組織を大きくしながらじわじわと領土を広げ、いずれは全世界を支配する。

 人間は闇にひれ伏し、怯えて暮らすことになるだろう。

 とはいえ、この組織には、まだ二人しかいない。

 もちろん活動資金もない。

「いいか、愚民どもを恐怖のどん底に突き落としながら、有能な人間はスカウトする」

 最終的には七人で世界を牛耳る、とルシファーは言った。

「今日は、『セブンス・ヘル』という存在を公にするため、東京スカイツリーを破壊する」

「ラジャー、ボス!」

 天気のいい日曜日――悪事にはもってこいの日である。

 送信先がわからないよう細工をしたパソコンから『スカイツリーを破壊する』という内容の予告状をマスコミと日本政府各機関にメールした。テレビを通して日本全国にセブンス・ヘルの存在を知らしめるためだ。

「レヴィ、そなたの衣裳を用意した。今後は更衣室で着替えてからタイムカードを切るように」

 ルシファーに紙袋を手渡され、レヴィアタンは更衣室に向かい……すぐに戻って来た。

「ちょっと、何よこれ! ショートパンツなんて絶対無理だから!」

「私は好みだが?」

「あんたの好みなんてどうでもいい! アラサー女の冷え症なめんなっ!」

 レヴィアタンは、本日をもって二十八歳になった。微妙なお年頃である。

「とにかくこれは無理。私もう若くないからっ」

 用意された衣裳は、レザーのショートパンツと、太ももまであるロングブーツ。二十代前半ならまだしも、妙齢の女性が着ていい代物ではない。

 レヴィアタンは無理を言ってパンツをロングのものに変更してもらい、それにショートブーツを合わせた。

 パンツを履いてみるとローライズだったので、腰は冷やしたくないと文句を言ったら、裏がベルベッドの肌触りのいいマントも付けてくれた。

 ウエストと肩が出ている衣裳だったけれどマントがあれば大丈夫そうだ。

 蛇の鱗模様のムチに、目元だけ隠せる仮面をつけて、クイーン・レヴィアタンの完成だ。



「私は嫉妬を司る悪の女王クイーン・レヴィアタン!」

 どよめく人々の前でパシン、とムチをしならせポーズを決めた。

 やばい、テンションあがる。

「あーっはっはっはっはー!」

 突然の悪の組織の登場に、人々は蟻の子を散らすように逃げまどう。

 もう、笑いが止まらない。

 ムチを振り上げ、手当たり次第に降り下ろす。

「いけません!」

 それを制する男が現れた。

 昨日の神父風の男だ。逃げる民衆の間を縫って、ルシファーとレヴィアタンの前に踊り出る。

「やはり現れたか、ミハイル。しかし貴様ひとりでは何もできまい」

 ルシファーが嘲笑うように言い、獅子をかたどった杖を振る。轟音とともに雷が落ち、ミハイルが避けながら地面に伏せた。

「ルシファー、やめるんだ!」

 どうやらこの二人は顔見知りらしい。ただならぬ因縁を感じ、レヴィアタンは黙って様子をみることにした。

「無力な貴様はこの世界が征服されるのを、黙って見ていればよい」

「これ以上の悪さは許さない! アーメン!」

 十字架を掲げるが、痛くも痒くもない。

 レヴィアタンが無神論者だからかもしれない。

「ふん、効かないわよ!」

 レヴィアタンはムチを振り上げ、ミハイルを十字架ごと弾き飛ばした。

「ぐっ」

「キャハーーー」

 吹き飛ばされたミハイルは、近くにいた中学生くらいの少女たちに助け起こされている。

 彼の攻撃はまったく効かない。しばらく放っておいても大丈夫だろう。

「ギャラリーも増えたようね……」

 民衆の中には、事の重大さに気づいていないのか、暢気に携帯電話で撮影している者もいる。セブンス・ヘルのツイッターのトレンド入りは確実だ。

「ルシファー様……」

 レヴィアタンは一歩下がると膝を付き、うやうやしく(こうべ)を垂れる。

 ルシファーは勿体ぶりながら頷くと、再び杖から雷を呼んだ。

「聞け、人間たちよ! この世界は我々『セブンス・ヘル』が支配する! 逆らう者には罰を!」

 ルシファーがマントをばさりとはためかせ、高らかに宣言した。

 あとはマスコミと警察の到着を待って、スカイツリーを破壊するだけだ。

 今ならなんだってできる。

 不安そうにしている人々を見下ろしながら、レヴィアタンはルシファーの横に立った。

「ねえルーシー。潰したい会社があるんだけど」

「だめだ」

「じゃあ破滅させたい人間がいるの」

「私怨は仕事(悪の組織)に持ち込むな」

「ちぇっ」

 ルシファーに目で促され、レヴィアタンは口を尖らせつつもムチを振った。

「嫉妬の炎よ、燃やし尽くせ!」

 ムチから放たれた炎の塊が宙を舞う。

 蛇のブレスレットから黒い霧が発生すると、それに飲み込まれた人々が豹変し争いを始めた。

 ああ、きもちいー!

 一人でカラオケに行って、五時間くらいマイクを離さず歌ったあとのような解放感だった。

「もういっちょ――」

「まちなさい!」

 声と共に、赤、青、黄色の閃光がきらめいた。

「何っ!?」

 レヴィアタンは眩しさに目をすがめる。

「アンジェルージュ」

「アンジェブルー」

「アンジェジョーヌ」

「三人合わせてキューティー☆エンジェルズ!」

 ルシファーとレヴィアタンの前に、それぞれのイメージカラーのフリフリ衣装を身にまとった少女達が現れた。

「な、何者だっ!?」

 そう叫んだあと、我ながら悪者みたいだなぁ、と内心感じながら少女達を見下ろす。

「クイーン・レヴィアタン、あなたの好きにはさせないわっ」

 アンジェルージュと名乗ったリーダー格の少女にビシッと指をさされた。

「小娘が、人に指をさすなっ!」

 確かこの三人組は、先程ミハイルを助け起こした中学生ではなかろうか。

 辺りを見回すと、少し離れたところでミハイルが心配そうに少女達を見ていた。

「アンジェルージュ・フラーッシュ!」

「うわっ」

 赤い光線をとっさに避ける。あとから聞いたところ、このコスチュームにはまじないがかけられていて、普段の数倍の力がでるとのことだった。

 魔法少女たちの思わぬ邪魔のせいで、スカイツリー破壊計画が早くも頓挫しつつある。

 すでにマスコミも集まり始め、ビデオカメラを回していた。

 このままではかっこいいところが見せられない。

「よくも……小娘が――」

 レヴィアタンはムチをしならせながら、蛇のブレスレットから炎の塊を投げた。

 しかし、一対三体では分が悪い。

「クソガキが」

「フフーン、おばさんなんかには負けないんだから!」

 は――!?

「だ、誰がおばさんですって!!」

 二本目のムチを持ち、両手を交差させて降り下ろす。レヴィアタンの逆鱗に触れた少女達のチームワークが崩れ始めた。

「エンシェルズ、これを――」

 ミハイルが例のばかでかい十字架を少女達に投げる。

「アンジェブラン・ルミエール……アーメン!」

 合体技が発動し、混ざり合った三色の光線がレヴィアタンを貫いた。

「きゃあー!」

 光が収まると、先程までのみなぎる嫉妬のパワーが消えてしまっていた。

「ま、まじで!?」

 子供のくせに強すぎるでしょ!

「ほう……」

 そこに、どこからともなくルシファーが舞い降りた。高みの見物とはいいご身分だ。あとで文句を言ってやろうと、レヴィアタンは心に決める。

「嫉妬の闇が払われたか。今日のところは引き下がろう。だが、キューティー☆エンジェルズよ、今後我々の邪魔をしたら、ただではおかんぞ!」

 マントをばさりとはためかせ、ルシファーが闇に消えた。

 レヴィアタンもそれに続いて去ろうとする。

「待つんだ、レヴィアタン!」

 ミハイルだ。

「君は綺麗な心を持った女性だ。悪の道になんて進んではいけない!」

 ――何もしらないくせに。

「クビになんなかったら、私だってここにいなかったわよ!」

「僕で良ければ力になる。行ってはだめだ!」

 少し心が揺らいだけれど、レヴィアタンはミハイルから目を背けて、ブレスレットから発生した闇の霧の中に消えた。



◆◇◆◇◆



 仕事帰りの一杯は格別だ。

 レヴィアタンは携帯電話を片手に頬杖をつきながら、動画投稿サイトで一般視聴者からの投稿を見ていた。

 タイトルは『シブヤでレヴィおねえさまを見た!』だ。

「へえ、いいアングルね。私、かっこいい」

 ここは、バー『死神の休息』。レヴィアタンが悪の組織に入ってから通うようになった行きつけの店だ。

 ちなみに、マスターは隠居した本物の死神。

「マスター、同じのお代わり」

 ああ、悪者って気持ちいい。天職かもしんない。

 カウンター席でモスコミュールを(かたむ)けながら今度はツイッターを確認していると、静かに隣の椅子が引かれた。

「おとなりいいですか?」

「どうぞ」

 ナンパかと思い顔を向ける。そこにいたのはミハイルだった。

「げっ」

 逃げようとしたら腕を掴まれた。

「待って下さい」

 曇りのない青い瞳で見つめられる。

「今ならまだ間に合う。悪に染まっちゃいけない」

「そ、そんなの、私の勝手でしょ!」

 つーかなんでここにいるのよ!

 バー『死神の休息』は悪人御用達のお店なのに。

「貴様もしつこい奴だな」

 いつの間にやら、レヴィアタンの反対側にはルシファーが座っていた。ブランデーを傾け、色気のあるため息を零す。

「兄さん!」

 は――?!

「え、お兄さん? 弟さん?」

 ルシファーとミハイルの顔を交互に見ながら、レヴィアタンは誰に問うともなく呟いた。

 ちょ、兄弟って!!

「衝撃の新事実なんですけど……」

 まあ、敵対してるラスボスが親子だったり兄弟だったりすることは、よくあるけれど。

「兄さん、この世界を征服しようだなんてばかな真似はやめてくれ」

「貴様に指図されるいわれはない」

「昔は、人々の幸せをいつも祈っていたじゃないか。どうしてこんな――」

「うるさい! 私は貴様に国を追われたのだ。この地に自分の国を作ろうとして、何が悪い?」

 兄弟の言い合いから察するに、ルシファーは異世界にあるファティーマ国の統治権を、弟のミハイルに奪われてそのまま国を出たらしい。

「しかも、こんないたいけな女性までも巻き込んで……」

「俺の女だ。あっちへ行け」

 ルシファーはレヴィアタンの肩を抱き、ミハイルに向ってしっしと手を振った。

「誰が誰の女よ。そうなった記憶ないけど。それに私、社内恋愛はしない主義なの」

「ならば、何故クイーンを名乗っている?」

 キングとクイーンって――

「そ、そういう意味!?」

 レヴィアタンは驚いてルシファーをまじまじと見つめる。

「聖なるオトメを汚すなんて許されない。こっちにくるんだ、レヴィアタン」

 今度はミハイルに腕を引かれた。

「お前は昔から処女(オトメ)が好きだな。だが諦めろ」

 ルシファーがニヤリと笑い、レヴィアタンの反対側の腕を掴む。

「ちょ――」

「兄さん、これ以上無関係な人を悪の道に引きづり込もうとするのはよしてくれ! 僕は、処女(オトメ)を守るためなら――」

「ちょっと!」

 レヴィアタンは大声を出した。

「いい加減にしてよ! 何よ、二人して! 私がアラサーなのに経験ゼロだって言いたいわけ? つーか何て知ってるのよ!」

 辺りがしんと静まりかえる。

「そりゃ、ずっとずーっと仕事仕事で男性とのお付き合い経験なんてないわよ!? 私だってやばいなーって思ってたわよ! だけど、それを今話題にする必要ある? それともわざと? 私を馬鹿にしてんの!?」

 むかつく!

 嫉妬の心に火が灯り、蛇の腕輪がしゅうしゅうと音を立てて黒い霧を漏らす。

 レヴィアタンは腕輪を手で押さえつけ、二人をきっと睨んだ。

「水曜日は残業しないから! 私帰る!」

「ならば私も――」

「は? ついて来る気!?」

 立ち上がるルシファーをきっと睨み付けた。

「夜道は危ない。家まで送っていこう」

「必要ないけどっ」

 断ろうとしたけれど、ルシファーに肩を抱かれ強制的に連れて行かれる。

「兄さん――」

「勤務時間外だ。ここでやりあう気はない」

 言いながら、マスターに金貨を数枚渡した。

 ちなみにこのバーは、円でもドルでもユーロでも支払可能だ。

「……僕は絶対に兄さんを止めて見せる」

 ミハイルはルシファーの背中に言い放つ。

「ふん、聖職者は酒飲むな」

 ルシファーはそう言い残してドアを閉めた。



「本当に家までついてくるのなら、その格好をどうにかして」

 レヴィアタンが言うと、ルシファーはその身を黒いスーツに変えた。

 人間離れしたバイオレットの長髪が気になったけれど、夜道で犬の散歩をしている通行人とすれ違っても、それがルシファーだと気づかれなかったので気にしないことにした。

 世界を震撼させる登場をしてから一ヶ月。

 セブンス・ヘルとキューティー☆エンジェルズの戦いはあっという間にお茶の間の話題をかっさらった。今は大人から子供まで、誰もが知る存在だ。

 セブンス・ヘルのメンバーは、能力はもちろんのこと、ビジュアルも重要視して採用しているため、コアなファンも結構いたりする。

「それにしても、敵とはいえ可哀相ね。闘ってる相手が、まさか信頼してる人のお兄さんだったなんて知ったら複雑よねぇ」

「しかも、我らがクイーンにご執心だしな」

 それを知った時の、エンジェルズの反応を見てみたい気もする。いつもババア呼ばわりしていた敵が、ミハイル(ボス)の想い人だと知ったら相当ショックだろう。

「わーカワイソー」

「子供はそうやって汚い世界を目の当たりにして、大人になるんだ」

「ミハイルもさっさと諦めてくれないかしら」

「無理だろう。あいつは昔からしつこい。なんなら私が諦めさせてやろうか? あいつが興味あるのは処女(オトメ)だけだ」

 ルシファーはにやりと不適な笑みを見せる。

「結構よ! しかもそれ、セクハラ発言だからね!」



◆◇◆◇◆



 それから半年後……


 相変わらず、バー『死神の休息』でお酒を飲んていると、ミハイルがやってきては、レヴィアタンを口説くようになっていた。

 僕の聖女(マリア)になってほしい、とプロポーズをされたりもしたけれど、レヴィアタンはまだセブンス・ヘルのクイーンを名乗っている。

 一時、転職を考えたけど、あの生意気な(キューティー)小娘(☆エンジェルズ)どもの母親(マリア)役にはなれそうもない。

 確かに、寿退社は憧れるんだけど……

「おっと、時間よ。みんな手はず通りに」

 レヴィアタンは合図でもある炎の塊を地面に落とし、大きな声で口上を述べた。

 それに続き、仲間たちが順番に名を名乗る。

憤怒(ふんど)を司る悪の使者ダーク・サタン!」

怠惰(たいだ)を司る悪の伯爵ロード・ベルフェゴール!」

強欲(ごうよく)を司る悪の騎士ナイト・マモン!」

暴食(ぼうしょく)を司る悪の首領キャプテン・ベルゼブブ!」

色欲(しきよく)を司る悪の淑女レディ・アスモデウス!」

 そして最後に我らがボス、ルシファーが現れる。

 七人になった仲間は全員個性豊かで、数日から数週間に一度、誰かしらが街中(まちなか)に現れては、キューティー☆エンジェルズとの戦いを繰り返していた。

 黒髪オールバックに漆黒の軍服姿のダーク・サタン(三十三歳)は、警視総監を父に持つ警視庁のエリート。

 この前、豪華客船に爆弾を仕掛けた時は、警視という身分をフル活用して少しずつ爆破計画の情報を漏らし、マスコミに大々的に報道させた。

 当日は二時間の特番まで放送させて、本人はちゃっかりエンジェルズと協力するふりをしながらインタビューに答えていた。

 世界を征服をした暁には、各国の警察機関を牛耳るらしい。

 はちみつ色のふわふわの髪にかわいらしい顔立ちのロード・ベルフェゴール(十六歳)は、大企業の御曹司で、世界的に有名なバイオリニスト。

 実はアンジェルージュに惚れられている。たまに洗脳が解けたふりをしては、エンジェルズに助けを求め乙女心を弄んでいた。

 ちょうどいい暇つぶしのオモチャなんだそう。驚くほどサディスティックな性格の持ち主でもある。

 キツネの毛のマフラーをなびかせ、髪と同じ深緑色のスーツのホスト風の男はナイト・マモン(二十三歳)。

 彼は二つの顔を持っていて、エンジェルズ側では頼りないドジっこメガネの天才科学者騎士谷(きしたに)クンを演じ、秘密兵器を発明しながらスパイ活動をしていた。

 魔法と科学を混ぜて作ったエンジェルズの「どんな闇も払う希望の太陽の剣」と、ルシファーが作らせた「どんな光も飲み込む破滅の闇の鏡」の性能を向上させながら戦わせて楽しそうにデータを取っている。本当に、研究に対しては強欲だった。

 闇の鏡ver2.5が破壊された時、太陽の剣をver3.0にグレードアップしたからだと、マモンはバー『死神の休息』でレヴィアタンにこっそり教えた。

 この件はルシファーも黙認しているから、公になっても粛正されることはないだろう。

 ゴスロリドレスのレディ・アスモデウス(二十歳)はナイスバディのお色気担当。

 悪の幹部としての仕事がないときはキャバクラで働いているナンバーワンホステス。七人の中で女性は二人しかいないから、仕事中はお互いを嫌いあっているけれど、オフは一緒に買い物いったりする間柄だ。

 海賊風の衣裳に片目を眼帯で隠したキャプテン・ベルゼブブ(二十九歳)は、世界展開している三ツ星レストランのコック兼オーナー。

 暴食の力を利用して、顧客に高級料理を大量に食べさせては荒稼ぎをしている。このレストランの売り上げがセブンス・ヘルのもう一つの資金供給元で、たまにレヴィアタンは結依としてバイトをしていた。



「うふっ、みーんなあっちゃんの虜になるんだよっ」

 アスモデウスがレースをふんだんに使った日傘を振り回してウインクする。豊満なバストが揺れ、集まった男達の目が釘付けになる。

「アス、やりすぎだ。体力を温存しろ」

「あらサタン。別にいいじゃない、頭硬すぎよぉ。あっちの方もそうなら、夜のお相手してあげてもよくってよ。うふっ」

 アスモデウスはくねくねと(なま)めかしい動きをしながら、サタンの耳元にふうっと息を吹きかけた。

「ちょっと、余計なおしゃべりはやめてちょうだい!」

「えー、レヴィはもう疲れちゃったの? 若くないから?」

「黙れビッチ!」

 レヴィアタンはムチを振り上げアスモデウスに向き直る。お互い睨み合い、バチバチと火花が散った。

「あ、ベル坊が戦線離脱した。あのヤロー仕事サボりすぎだろ!」

 もう一人のベル、ことベルゼブブが竜巻を起こしながら舌打ちする。

 ベルフェゴールは頭を押さえながらふらふらと地面につっぷし、アンジェルージュが心配そうにかけよった。

 あれは彼の十八番で、一瞬だけ洗脳が解けたふりをしてただ地面に寝転がりながら、セブンス・ヘルとエンジェルズの戦いを傍観するのだ。

 さすがは怠惰の申し子である。

「そんなもん放っておけばいい。いいからさっさと新技を出せベルゼブブ。あとはお前だけだ。このままではデータが取れん」

 マモンは各自の攻撃力を数値化するのに忙しい。

 今回は珍しく七人全員が参加しての、エンジェルズとの闘いである。

「そろそろ潮時だな」

 金色の懐中時計を見ながら呟いたルシファーが、マントをひるがえして闇に消えた。

 それが合図だったかのように、ベルフェゴール以外が捨て台詞を吐いておのおの消える。



「わたしたちの勝ちだわ!」

「ルージュ、早くベルフェゴールを安全な場所に……」

「騎士谷クンに洗脳を解く発明品を作ってもらいましょう!」



◆◇◆◇◆



 セブンス・ヘルは、日々キューティー☆エンシェルズと戦いながら活動していた。

 毎回ただ負けているわけではない。当然、これも作戦のうちである。

 どこの世界でも出る杭は打たれるものだ。初登場時、この世界でのセブンス・ヘルはまだ新参者の悪の組織で、でかい口を叩けば、あっという間に世間からバッシングを受けて潰されてしまう。

 そのためテレビ、新聞、雑誌などに少しずつ登場しながら存在感を増し、アンダーグラウンドなファンを獲得していった。

 現在はじわじわと市民権を得つつ、支配力を増強させている。

 隠れて力を溜め、最後に一気にエンシェルズを倒すという算段だ。

 世界には『アンチ正義の味方』の人間も多く、確実にファンやパトロンが増えてきていた。

 ちなみに、各自の報酬はセブンス・ヘル公式ホームページ上での人気投票と、フィギュアやレプリカ武器などの関連グッズの売上で決まる。

 人前での露出度が多ければ多いほど人気も高まり報酬も増えるということ。

 そして今日は、待ちに待った給料日である。



 レヴィアタンは背伸びしながら大きな模造紙を壁に押し付け、四隅をピンで止めた。

「これでよし、と」

 腰に手を当てて『今月の売上順位グラフ』を眺めていると、ギイ、と気味の悪い音を立ててドアが開き、ベルフェゴールが現れた。

「レヴィさん、おはようございまーす」

 寝不足なのか、大きな口を開けて欠伸をしていた。

「ベル君おはよう。今日は来ないと思ってた」

「はっ、勘弁してくれよ。今日給料日だぜ?」

「でも、いいの?」

 昨日は戦いのあと、ベルフェゴールはエンジェルズに保護されていたから、三、四日はお休みだと思っていたのだ。

 そんなレヴィアタンの意図を見抜くと、彼は背負っていたバイオリンを降ろしながら、にやりと黒い笑顔を見せた。

「ああ、アレね。水族館行ったことないっつってアンジェルージュ……えっと朱里(アカリ)って言ったっけ? そいつと朝から二人で行ったんだけど、飲み物買わせてる間にばっくれてきた」

「へえ」

 レヴィアタンは苦笑いで相槌を打つ。

「アイツ、今頃一人でオレのこと探してるんだろなぁ」

 くっくっくっと悪そうに笑った。

「ベル君たら、相変わらずのドSっぷりね」

 ベルフェゴールは返事の代わりに、とびきりかわいい笑顔を向けた。

「さてさて、今月の成績は……」

 レヴィアタンの隣に立ち、売上順位グラフを眺める。

「わー、今月もルシファーさまぶっちぎり。全然表にでてきてないのに、すごいや」

 そういうベルフェゴールはサタンと僅差の二位である。

 この屈託のない笑顔が、彼の洗脳を憂うちびっ子たちと年上マダムの心をがっちり掴んでいるのだ。

「ねえ、ここでバイオリン弾いてていい?」

「いいわよ」

 何だかんだ黒い発言をしつつも、ベルフェゴールは誰もいない自宅やアジトに用意されている自室より人の集まるこの談話室を好み、勤務中はここにいる確率が一番高かった。

 そう、ここはセブンス・ヘルの地下アジト。

 関東某所の山中にある天然の洞窟を改良して作られた。

 入口は強固なセキュリティーで守られていて、中に入るのに指紋認証と虹彩認証が必要になる。

 男女別の更衣室の他に各幹部たちの自室と、簡単なダイニングキッチン、そしてこの談話室がある。

 玉座は階段状になっている一番高い位置あり、その横にはレヴィアタンが普段使っている事務机があった。

 動画投稿サイトなどに予告動画をアップする時は、この部屋を使って撮影しているから、できるだけ悪の組織っぽくするために、装飾には結構なお金をかけた。気味の悪い音がするドアもコンセプトのひとつ。

 黒光りする豪奢な玉座は、もちろんセブンス・ヘルの最高経営責任者でもあるルシファーが座るためのもの。

 レヴィアタンは、これから揃うであろう幹部のために紅茶を入れ始めた。

「オハヨ」

 次に現れたのはアスモデウスだった。

 昨日よりも露出の高い衣裳に変わっている。というか、裸同然。布地がものすごく少ない。

「もう夏服? 早くね?」

 彼女はベルフェゴールのつっこみを無視してつかつかと売上順位グラフの前に立つ。

「やっぱり……今月やばいと思ってた!」

 アスモデウスは六位だった。

「今月はお客さんの誕生日(キャバクラの出勤日)が多くて忙しかったのよね。来月巻き返してやる!」

 アスモデウスが紅茶を飲みながらソファに座り、ブランド物のバッグから数枚の楽譜を取り出した。

「見て。この曲、有名作曲家を誘惑して書かせたアスモデウスちゃんのテーマ曲なのよ」

「へえ、すげーじゃん。オレのも作らせてよ」

「うふふっ。ねえちょっと弾いてみてくれる?」

 ベルフェゴールに数曲のリクエストをしていると、ベルゼブブとマモンが揃って現れる。

「ハヨーっす。レヴィ、今日サタン欠席」

「二人ともおはよう。サタンはどうしたの?」

「昨日エンジェルズとやりあった時、部下が勝手にレインボーブリッジ封鎖したんだって。今日はその後始末」

「あら、忙しそう」

 レヴィアタンとベルゼブブが話している間、マモンはタブレット端末から目を話すことなくアスモデウスの座るソファに腰を下ろした。

 張り出されている売上順位グラフに興味がないのは、彼はセブンス・ヘルの他に、エンジェルズ側からも多額の報酬をもらっているから。

 この前は厚底メガネを外してエンジェルズの特番に登場していて、メガネを外したらイケメンだった法則に落ちた女性ファンを一気に獲得したらしい。

 その顔がナイト・マモンとそっくりなんてことは、まだ誰も気づいていない。

 ちなみに今月の売り上げは最下位である。


「それでは全員揃ったということだな」

 ルシファーの声が聞こえ、レヴィアタン以外の全員が大理石の床に膝を付いた。

 いつの間にか玉座についていたルシファーは、いつものように気怠そうな流し目で彼らを眺めた。

「今月もご苦労であった。昨日(さくじつ)の活躍、褒めてつかわす。特にベルフェゴール」

 名前を呼ばれ、ベルフェゴールが顔を上げる。

「そなたの演技力はなかなかのものだ。一日で四位から二位に躍り出たのだからな」

「はっ。お褒めに預かり光栄です」

 昨日のエンジェルズとの戦いのあと、ベルフェゴールの関連商品がどかんと売れた。まさに、楽して稼ぐとはこのことだろう。

 ――このヤロウ。何もしていないくせに――

 ベルゼブブとアスモデウスから嫉妬の波が押し寄せてきているのを、レヴィアタンは肌で感じ取っていた。

「レヴィ」

「はい」

 レヴィアタンが事務机の上に用意していたものの中から、ベルフェゴールと書かれた分厚い黒封筒を銀のトレイに乗せて運ぶ。

 封筒を受け取ると、ルシファーはベルフェゴールを近くに呼んでそれを手渡し、彼はうやうやしく受け取った。

 セブンス・ヘルは、今時珍しい現金支給である。

 売上順に呼ばれ、黒封筒を全員に渡し終えると流れ解散となった。

「ルーシー、サタンの分は私から渡しておくけどかまわない?」

「よきにはからえ」



 給料日のこの日、世界のどこにもセブンス・ヘルは現れず、平和そのものだった。





◆セブンス・ヘル今月の売上順位◆

          (前月比)


  一位 ルシファー(→)

  二位 ベルフェゴール(↑)

  三位 サタン(→)

  四位 レヴィアタン(↓)

  五位 ベルゼブブ(↑)

  六位 アスモデウス(↓)

  七位 マモン(→)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





……To Be Continued?

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