【ギリシャ物語】共犯。
ちょっぴり大人向け描写ありです。
ねぇ、坊や。あなたに判るかしら。
女は景品じゃないのよ。
本当に欲しかったら、魂を見せて御覧なさいな。
自分の誕生日の宴の席を抜け出して、アフロディーテは庭へと続くテラスに出た。
黄金で作られた見事な宮殿も、美しい噴水や花々で飾られた庭園も、今日は全てがつまらない。
「退屈だわ」
テラスの手すりに飛び乗り、長いハニーブロンドを靡かせる。白い脚をぶらぶらさせていると、サンダルが外れて庭に落ちた。
「アフロディーテ様」
落ちてきたサンダルを拾い上げたらしい青年が、庭からアフロディーテを見上げた。
「主賓がこんな所にいて、宜しいのですか?」
「構わないわ。夫は鍛冶場に籠もりきり。愛人は自宅で謹慎中。こんな時に宴なんてやったって、楽しめるわけないじゃないの」
「…仕方ないでしょう。アレスも、あれだけ大人数の中晒し者にされれば、少々お灸をすえられても」
そう言いつつ、青年はサンダルを片手にテラスへの階段を登ってくる。
「そういうあなただって、見ていたわよね、最前列で。どう?素敵な見ものだった?」
アフロディーテが、花のように笑った。
「ええ。素晴らしいものを見せて頂きましたよ」
青年は、彼女の足元に跪くと、ほんのり薄紅色の爪先にそっと口付けた。サンダルをそこに履かせながら、前髪の間の瞳がキラリと輝く。
「……あら。あなた、結構小奇麗な顔をしているのね。知らなかったわ」
「お褒めに預かり恐縮です。私は、ずっと美しい方だと思っていましたが、アフロディーテ様」
立ち上がりながら、青年がにっこりと微笑む。
「あら、嬉しいわね」
トン、とテラスに下りたアフロディーテは、青年のさらりとした髪に指を這わせた。
「…ねぇ、もし私をあげるって言ったら…欲しいって言ってくれるのかしら?」
「それは当然」
「やっぱり、私が天界で一番の美人だからでしょ、ね?」
男なんてそんなものよ、とコロコロ笑うアフロディーテの手の甲を取り上げて、青年はそこにも軽い口付けを施す。
「恋は共同責任ですよ、愛の女神様?」
…それは、アレスのことを暗喩しているのか、それとも夫のへーパイストスのことか。
「坊やが言ってくれるじゃない。じゃあ、私とMake Love?」
「…本当に欲しいものは、きっと手に入らないの」
神であれ、人間であれ、きっとね、とアフロディーテは呟く。
返事代わりに、青年は豊かな胸に顔を埋めながら、その先端の愛らしい蕾を揉みしだいた。
「んっ、ねぇ、本当に欲しいと思ったものがあるのに…代わりのもので我慢できると思う…?」
「自分が耐えられるなら」
ちゅっ、と青年は魅惑的な腰のラインに触れる。胸から次第に下にさがった指が下腹部に回り、微かに蜜の音を立てる。
「我慢します……耐えられないなら、考えるだけ無駄でしょうし」
「あなたって思ったほど坊やじゃないのね」
「それは光栄」
「でも、私は坊やの方が好き」
「残念ですね」
青年は体を起し、アフロディーテの細く華奢な腰を引き寄せる。
「だけど、好みである必要はないでしょう。一夜限りの代用品なら」
「そういう言い方は嫌いだわ…んっ…」
甘い女神の香りがふわりと辺りに漂う。青年のエメラルド色の瞳が僅かに細められた。
「…代用が駄目なら、共犯ということで…?」
「あんっ…いいわ。今夜だけの…ね」
後日、自分が謹慎している間にアフロディーテが妊娠したと聞いて、アレスがすっ飛んで来た。
「なんでだ!俺に飽きたのか?!俺を捨てるのか?!!」
「やーね、そんなに心配することはないのよ、坊や。ただの遊びだから」
「遊びって?!!!相手は誰だ?!」
そういえば、名前は呼ばなかったわね…とアフロディーテは首を傾げる。
「ほら、あの……ヘルメス?」
「あいつか~~~~~!!!!!」
「ほら、頑張らないと取られちゃうわよ~?」
クスクス笑うアフロディーテの顔に、あの夜の陰りは無かった。
欲しいものがあるなら。
とことん、あがいてみるのもいいんじゃない?
ねぇ、坊や?
極短編。
ぎ、ギリギリ表OKですか?
ちょっとドキドキしながら書きました。ノーマルカップル。ちょいマイナー。
でも、この二人は確実に子供がいるので、問題ないカップリングでしょうか。
うちのヘルメスとアフロディーテは性格が似ているもので、恋愛というよりは共犯という雰囲気なのです。
もっといい女が書けるようになりたいです!今はこれで精一杯!!
ちなみに、時系列的には『失恋。』のかなり前です。
今のところ、『共犯。』→『初恋。』→『失恋。』→『南国』→『ポセイドンの再婚。』の順ですね。
過去も未来もバラバラで書いています。すみません。