赫の精霊師
「…………くそっ、アリアあああああ! っ…………、おいっ…………生きてたら返事をっ…………」
10歳という年齢である幼き少年の声は、古びた地下に重く響き渡る。
錆びきっている鉄で造られた牢屋が、地下横一面に並べられている。そこで最も開け場所に少年は蹲って、最も親しい友の名前を叫んだ。
だが、その声に答えてくれるはずの少女の声はなく、少年の顔は絶望に染まっていく。
「なんで…………なんで、こんなことにっ…………あ、ああああああああ…………」
童顔の少年の顔が悲痛に歪む。その瞳からは洪水のような涙が流れ出して、ポタポタと苔の生えた石畳の上に音を立てて落ちていく。そして、石をレンガのように敷き詰められた床に書かれていたのは、幾何学模様の紋章のような刻印だった。
それは、少年が儀式のために、白いチョークで描いた陣。模様の周りを円で囲っていて、近くには幾重もの書物が散らばっている。その書物はどれも古びているが、どれも上質な紙を使用しているため、そこまで損傷はない。
少年は高級な書物を、少年は立ち上がって乱暴に手で払う。払って、山積みになっていた本の山を崩す。その行為自体に意味はない。だが、そうでもしないと、最も大切なものを喪失した悲しみから、気を紛らわすことができなかった。
「くそっ…………くそっ…………くそおおおおおおおおお!! 僕は、僕は…………」
身なりは貧相で、体つきは脆弱そのもの。薄汚れた服から少し捲れて見える肋骨は浮き出ていて、しっかりとした食事を摂っていないことがわかる。靴すら履いていなく、素足のままで後ろ足は黒い汚れがこびりついている。
何も認めたくなくて暴れるように手足を動かすと、ガッと拍子になにか足で踏んでしまって、「うっ」と小さく呻く。
「なんだっ、なんだよっ!」
と抑えようのない怒りをぶつけようとぶつかったものを見ると、それは半分になった髪飾りだった。それは、アリアが身につけていたものに違いない。髪飾りなんて買えるだけのお金はなく、アリアが手作りで作ったものだ、間違いなく。
髪飾りにつけられているキラキラ光っている石は、時間をかけてこの牢屋にある石を少年と選んで、削っていったものだったから。
でも、それは半分に引き裂かれていて、もう片方がどこにも見当たらない。どんなに少年が視線を忙しくなく動かしても、瞳に映ることはない。これだけ光っていたら確実に見つかるはずなのに、どこにも。
「…………アリ…………ア。……………………アリア…………ア………………」
狂った機械のように呟きながら少年は、妄想に近い想像に囚われる。
生きているはずだと、少女は、どこかで生きているはずだと。
そんな理想な想像に縋ることでしか少年は自我を保つことができなかった。
だから少年はそれから五年間ずっと修行をした。
アリアが、帰ってくるその日まで、ひたすらに。ただ、天才の名を欲しいままにした彼女の影を追って、狂ったように、少年は魔霊術を磨いていった。
――そして、五年後。物語の扉は――再び開かれる。
読み切りです。