6 七夕で
今日は7月7日七夕の日だ。紅也と茜が付き合っていることはあの日の翌日に恋人宣言したために学校中に広まった。生徒会長と幼馴染には冷たい目で見られたが、今は関係修復が完了している。同級生にはリアル鬼ごっこ並みに追いかけられまわされ、死ぬ思いだった。
「アニキ!!ご馳走まだ~??」
ろくに料理をしない楓が腹を空かせて叫んでいる。
「そんなに文句言うなら、お前も料理手伝え!!」
「私はそんな細かい作業が嫌いなの!!」
「そんなこと言ってたら、お嫁にもらえないぞ!!」
「私は料理とか家事のできる男を捜すの!!」
「なんてわがままなんだ・・・」
そんなくだらないとは言い切れないなんともおかしい会話を料理の手伝いをしながら聞いていた茜と梓はくすくすと笑っていた。初めは失敗ばかりで大変だった茜だが、最近はようやくなれてきたようで、3食の手伝いをするようになっていた。もちろん妹たちも手伝いはするのだが、ほとんどは紅也と茜で作ってしまう。妹たち曰く夫婦料理なのである。言われていた当初は2人とも顔を真っ赤にしていたが、最近はなれたのかそれが普通と捕らえていた。これは学校でも有名で、茜が紅也の家に同棲していることはまだ言っていないが、朝早く来て作っているといううわさが流れていた。真実を知る妹たちは心の中で爆笑しているのだ。そんなこんなで今は七夕に向けたご馳走を作っていた。焼肉に、サラダ、寿司、さらには手作りオードブルなど。部活帰りの楓と輝にとっては最後の晩餐に近かった。
「いっけね、肉にかけるたれを買い忘れてた」
「ちょっと何してるんだよ兄ちゃん!!そんなんじゃ美味しく食えないだろ??」
「分かった今買ってくるよ・・・」
「私が行こうか??」
茜が役を買って出ようとしたが・・・。
「お前は今追われてる身なんだから夜道は危険だ。俺が行く」
そう言って、紅也は夜道を走ってスーパーに向かった。
きーん
自動ドアが開いて紅也は外に出る。雲ひとつない澄み切った夜空だった。
「今日なら久しぶりに天の川が見られるかな??」
買い物袋にたくさんのお菓子とみんながよく遣う焼肉のたれを入れて帰宅の途についていた。しかし問屋はそう簡単に幕を下ろしてくれない。
「やはり来たか・・・」
紅也の周りには黒尽くめの男たちが6人囲む形で現れた。茜を連れ戻しに来た部隊だ。紅也はすぐにサングラスとマスクをすると買い物袋を置いて、手には炎を作る。しかしここは住宅地。大きな音を立てると人々にも被害が出てしまう。相談屋としては大きな事態にもって行きたくないのである。
「お前らもいい加減にあきらめたらどうだ??」
「それはできない。ボスの命令だからな」
「お前らは彼女の気持ちを考えたことはあるのか??」
「そんなのはボスの前に無力。われわれには関係のないこと。ボスの命令が最優先」
「やっぱりお前ら腐ってるよ!!」
炎で作り上げた巨大な腕を振り回し男たちを殴り倒していく。まさかの攻撃に驚く男たち。鉄砲の発砲を食らうも頭を炎でカバーしているために効果はなく、体にいくら食らってもそれほど痛手にはならない。構造が常人とは違うのである。
「Giant's(巨人) iron hammer(鉄槌)!!」
次々と倒れていく男たち。しかし中に紅也の攻撃をかわすものもいた。
「お前は今までのやつとはまた違った感じがするな」
「下っ端使っても意味がないことをボスが判断したんだよ。まさかお前ごときにわれわれが使われるとはな!!」
「お前らは一体??」
「俺らは戦いに特化した人間さ!!戦いのためにあらゆる訓練をクリアしボスの警護を勤めている」
「国も物騒なやつを影では作ってるんだな」
「この国がそんなにきれいと思っちゃいけないぜ。この国の売れは汚く、醜い」
「俺もお前もそこの住人か・・・」
「そういうこった!!よく分かってるじゃねえか!!」
「それでも俺たちはその世界で幸せを見つけた・・・」
「俺達は誰も幸せにはなれない!!人を傷つけるしかできないのさ!!」
「そんな俺たちの幸せをぶっ壊すやつは俺がこの手で焼き尽くす!!」
紅也の腕に再び強大な炎が集まりだした。しかしそれが発動する前に。
「おせんだよ!!」
「ぐふ!!」
敵の回し蹴りが腹にクリーンヒットした。それに続けて膝蹴り・とび蹴り・とび膝蹴りさまざまな足技が高速に繰り出される。対する紅也はまだ技の発動に戸惑っている。
「ひゃははは、何もできないのか??そりゃそうだ!!俺は組織内で最も早い男だからな」
防御ができないまま、ただただけられ続ける。そしてついに紅也は。
ばさ・・・
荒野が倒れたのだ。体中がずたずたで血でにじんでいた。息も絶え絶えだった。
「はぁ・・・はぁ・・・そろそろ息の根止めてやるよ!!」
男は空中からかかとお年を腹に狙って繰り出す。それよりも早く紅也は。
「Dragon's breath(息吹)!!」
龍の形をしたものが紅也の腕に表れ、大きな口から炎を吹き出した。
その頃五十嵐家では紅也の帰りを待っていた。いつもならば数分で帰ってくる紅也が1時間たっても帰ってこないためにみんな心配していた。
「アニキのやつどしたんだろ・・・」
「お兄ちゃん・・・また何かに巻き込まれた??」
「兄ちゃんのやつ・・・また戦ってるんじゃねえか??」
3人の兄弟達は心配の言葉を出す。
「私のせいなの・・・??」
泣きそうな顔で言う茜。一番心配しているのは彼女なのだ。
「私見てくる!!」
茜は覚悟を決めて外に行こうとするが腕をつかまれる。
「梓ちゃん??」
梓が泣きながら腕をつかんでいた。
「アズサ・・・」
「梓・・・」
いつもはおとなしい梓が大胆な行動に出たことにびっくりしていた。
「お兄ちゃんは帰ってくる。あなたはただ待っていればいい。信じてあげていればいい」
そのヒトミには一寸の曇りもない。ただ兄の帰りを信じているのだ。
「そうだな!!兄貴は強いんだからな!!」
からからと笑いながら言うのは楓。
「それなら短冊に何か書けばいいんじゃないか??兄ちゃんがくるまで書いちまおうぜ!!」
輝が提案する。4人で思い思いに短冊に願いを書いていく。それはかなうのだろうか??
あたりは炎に焼かれて煤だらけになっていた・・・。あたりには立っている人影が1つと倒れた陰が1つ。
「はぁはぁ・・・、くそったれが」
紅也が立っていた。傷だらけで・・・。倒れた男は真っ黒に焦げて倒れていた。すでに息はなかった。
「また・・・血に染まったのか??」
『殺したのだ』
『お前は殺した』
『人に神の裁きを下した』
『それがお前だ』
ふらふらと袋を持って歩き始める紅也。先ほどの声は昔から聞いている。最近は聞いてなかったが、久しぶりに聞いた気がする。
「俺は光を求めてはいけないのだろうか・・・」
紅也は1人声をこぼして歩き続ける。光の世界に住むものたちの元へいくために・・・。
がちゃん
紅也は家のドアを開けた。すると目の前には涙顔の茜がいた。ぼろぼろの紅也の胸に飛び込んできた。小さな体が紅也に包まれる。
「どうしたんだ??そんなに泣いて」
「紅也が帰ってこないからでしょ!!心配したんだからね!!」
胸をぽかぽかと殴る茜。痛くはなかったが、心が痛かった・・・。
「ごめん・・・」
そんな沈んだ顔をする紅也の背中をバシッと楓は叩く。
「俺達の短冊の願いはかなったぞ!!」
「よかった~」
「当然だな!!」
口々に紅也にはわからないことを言ってくる。みんなでリビングに行くとそこには紅也が持ってきた笹に短冊が4枚かかっていた。どうやら紅也が戦っているときに書いたものらしかった。
「みんなもう書いてたのか。なんて書いたんだ??」
紅也が腰を下ろしてみてみるとそこには・・・。
『アニキが勝ちますように!! 楓』
『お兄ちゃんが無事でありますように。 梓』
『兄ちゃんが帰ってきますように!! 輝』
そして最後の1枚は茜が書いたものだった。
『紅也とみんなでご馳走を食べられますように。 茜』
熱い涙がほほを伝っていた。
「俺は幸せ者だな・・・」
ボソッと紅也がつぶやくと。
「何言ってるのかなアニキは。アニキにはもっと幸せになってもらわなきゃ困るんだよ!!」
「そうそう、お兄ちゃんは頑張りやさんだから」
「今日はみんなでご馳走だ!!」
輝は袋からテレを持ちだすと一目散にテーブルへ。それに続いて楓と梓も。
「また狙われたの??」
茜が申し訳なさそうに尋ねてくる。
「大丈夫。俺が守るから」
紅也の瞳には一寸の曇りもなく、覚悟に満ち溢れていた。
「よろしく」
茜もにっこりと笑った。
「それじゃあ、紅也も何か短冊に願い事書いてね」
そう言ってペンと髪を渡してくる茜。どうやらこういった行事もしたことがないらしく、かなり興奮している。
「俺は・・・」
紅也はにっこりと笑いながら書いていく。それをほほえましそうに見つめる茜。その後は皆でご馳走とお菓子を食べまくった。ほとんど楓と輝の腹の中に吸い込まれたが。楽しい七夕になった。その日の空には天の川がきらめいていた。
『家族みんなが楽しく幸せになれますように。 紅也』
天の川に2人の男女織姫と彦星が出会ったとき、地上でも1組のカップルが出会っていたのだった。それがいつなのかはみなのご想像に任せよう。
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