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5 体育祭で

 5月上旬、桜学園高等学校では1週間後に体育祭が企画されていた。現在はロングホームルームを使って出場する種目を決めていた。


「はいはーい、これから種目を決めて生きたいと思いまーす」


前で仕切っているのはクラスの委員長中州(なかす)留美子(るみこ)。責任感が強く、体育祭の実行委員長でもある。黒板の前には書記として茜が立っていた。何でも一番時がうまいからと言うことだった。


順調に種目が決められていく。皆々やりたい種目を選ぶ。紅也はリレーと3000メートル走を選んだ。そんな中で一番楽しんでいたのは茜だった。何でもこのようにみんなで大きな行事をしたことが無かったらしい。みんなはしゃぐ茜にはじめはびっくりしていたが、経緯を理解すると彼らもテンションが上がっていた。めったにないクラスの一体感を感じることができた。担任も嬉しそうだった。


「それではこれにて種目の決定を終わりたいと思います。お疲れ様でした~」


『おつかれ~した』


その後は思い思いに会話を始める。中に話し始める生徒もいれば、まじめに勉強し始める生徒もいた。物静かに本を読み始める茜に仕事モードの紅也が声をかける。


「ずいぶんと楽しそうだったな。中学まではこんな風なこと無かったのか??」


「うん、私の通ってた学校はいつも勉強と作法ばかり。立派な人間になるためには遊んでいる暇はないといわれていたからね。こんなに楽しいと思ったのはいつ以来かな」


哀愁を漂わせて言う茜の顔には喜びがにじんでいた。


「本番はもっと楽しくなる。お前もクラスに貢献できるようにせいぜい頑張るんだな」


「五十嵐くんはスポーツ得意なの??」


突然紅也の背中に黒い影が現れた。茜は突然のことにひっと悲鳴を小さくあげる。紅也は俊足で蒼手の胸倉をつかむ。そこにいたのは・・・。


「紅ちゃん・・・ギブ!!ギブ!!」


加藤椎名が苦しそうに言っていた。そして紅也は自分が今何をつかんでいるのかをようやく理解した。なにかむにゅっとやわらかい感触がした。これは・・・。


「紅ちゃん・・・」


椎名の胸だった。ただでさえ平均よりもある椎名。それをわしずかみされたとするとお決まりの・・・。


「紅ちゃんのエッチ~!!」


高速で放たれるびんたをもろに受けそれでも1歩も動かない紅也。しかし茫然自失していた。すでに通常モードに戻っているのだ。


『紅也~??』


クラスの男子が紅也のことを尋問し始めた。女子は女子で椎名のことを慰めたり、よかったね~と賛辞を送っていた。それを複雑そうに茜は見ていた・・・。


そして体育祭当日、天気も快晴に恵まれた。五十嵐家では朝から大騒ぎだった。


「アニキ~、おにぎりには肉巻いてな~」


運動量が多い楓は食べる量も多い。紅也のおにぎりの中では肉巻きが大好物なのだ。茜は隣で黙々と料理を続ける紅也を見ていた。


「五十嵐君は料理上手よね~。わたしはみんな作ってもらってたからまったくできないんだよね」


なんだかうらやましそうに見ている茜を見て紅也は。


「それなら作ってみる??」


おにぎりを見せて言う。茜は最初は戸惑っていたが、すぐにやるといって手ほどきを受けた。そして数分後、ようやくうまく形作ることに成功した。何度も失敗したが、めげずにやるのはお嬢様のプライドが許さないそうだ。


「やった~」


紅也と茜は抱き合って喜んだ。それを近くで3人にジーっと見られていることにしばらくして気づいたため、あわててはなれて紅也は再び料理に取り掛かり、茜は真っ赤になって部屋に着替えに行った。


しばらくの間、3人はにやにやをやめずに紅也に早くくっつけと矢次にせかす言葉を送っていた。


体育祭は開会式を通して各競技場所で行われた。紅也は種目が最後だったため、友達の応援をして回っていた。ふと見てみると茜が棒高跳びを行っていた。結構な記録を出していたため残っているのは茜を除いてそれを部活で行っている生徒だけだった。


茜の表情を見てみるとはじける笑顔を回りに振りまきながら競技に没頭している。次々と記録をたたき出す彼女に周りの生徒たちは歓声を送っていた。そして彼女はそれに丁寧に答えていた。転校して数週間だがもう隠れファンクラブができていた。

「これは同棲していることがばれたら大変だな」


「あら、誰が誰と同棲しているのかしら??」


「おわ!!」


突然気配も鳴く声をかけられたので驚いてしまう紅也。後ろを向くとそこには・・・。


「千尋か・・・」


仕事モードで名前を呼ぶ。目は据わっていた。


「その鋭い目は私を続々させてくれるわ。そのめをどうやって屈服させるか・・・。楽しみね」


「何が楽しみなんだ・・・。俺はこれでも仕事中なんだ」


「あら、あなたが仕事モードで気配に気づかないなんて珍しい」


「お前を気配読んで見つけたことが俺にあったか??」


「無かったわね」


にっこりと笑いながら腕に抱きついてくる千尋。学校でも人気の生徒会長が男とラブラブしているところを見せられると男生徒たちはいっせいに紅也を睨みつける。仕事とはまた別の殺気を感じている。


「それにしてもあなたもまた大きな仕事を請けたもんね。私だったら無視しちゃうかも」


「そうは言ってられない・・・。この前のお前の1件と関係している家柄の人なんだから。それに家出してきたんだから血眼になって探してるだろうな」


「そうね、彼女がもし捕まったらどうするの??」


「そのときは助けに行く」


「仕事だから??」


「仕事だから・・・なのか??」


「あら・・・あなたの心にまた別の女が入り込んでみるようね。あの子があなたと同棲しているのね??」


「ああ、想像通りさ」


「これはちょっと不利かしらね」


「まったくこんなときにその話はやめてくれ。それならば俺のいないところで女同士でやってくれ」


「あなたをめぐっての戦いなのよ??」


「俺は賞品か??」


「あなたは賞品よ」


「なんだか軽く落ち込む」


「まあ、私のものになれば玩具になっちゃうかもしれないわね」


「それは考えただけでも怖いな」


「あら、そんなあなたもいいかもね。仕事行くときは私と対等なのに、帰ってくると「ストップ!!」なんでよ」


「周りからものすごい殺気を感じるんだ」


「それはあなたのせいでしょ??」


「お前が俺を巻き込んでなんかおかしな想像を言ってるからだよ」


「まあいいわ、また後出会いましょう。また仕事が入ってるから」


「分かった・・・」


「それじゃ」


そう言って千尋は生徒たちの群れの中に消えていった。すでに高飛びは終わってたらしく、お昼になっていた。紅也

のことを待っていた茜。どうやらすべて聞いていたようで少し暗かった。


「どうした??体調が悪いなら言ってくれよ??」


「大丈夫よ・・・」


「そうか??ならいいんだが。なら妹たちのところに行こう。昼飯だ」


「そうね」


お昼は千尋や椎名を巻き込んで美味しくいただいた。昼休みは長いために休んでいる生徒が多かった。茜と紅也は常に1組となって行動していた。いつ襲われるか分からないからだ。


「ご飯美味しかったよ。また私にもできるやつ教えてよ」


「ああ、かまわない」


「仕事モードでしゃべらなくてもいいんだよ」


「これはもう癖だからな」


「それなら直していこうよ」


「それは・・・」


紅也の言葉が途中で切れた。茜もすぐに紅也の後ろに隠れた。彼らの目の前に黒尽くめの男たちが現れたのである。一目見ただけで敵だというのを感じ取った紅也はすぐに戦闘体勢になる。男たちもこぶしを構える。さすがに学校で発砲はできないらしい。そして後ろの黒い車の奥の席にはいつぞやの和服男が座っていた。


「お父様・・・」


茜が泣きそうな顔に恐怖をあらわにしていた。この状態はやばいと紅也は急いで逃走を開始する。それを追いかけてくる男たち。茜を競技場の妹たちのところに行くようねいい残し、己は再び舞い戻る。最後に茜が何か行ったがはっきりとは聞こえなかった。ただ・・・。


『・・・ないで』


それだけは聞こえた。紅也は深くは考えずに、すぐに黒のロングコートに着替え、サングラス、マスクを装着した。男たちは紅也を5・6人で囲む。どれも鍛えられていることを感じさせる。しかし紅也はひるまずに手に炎を浮かばせる。そして男たちののどから汗が地面に落ちた瞬間、戦闘が始まった。


男たちはフットワークを使いヒットアンドアウェイを繰り返す。紅也は一撃必殺が多いため散り散りになられると困る。だからといってそれようのものが無いわけでもないのだが・・・。


すっと両腕を空に向ける紅也。そして答える!!


「メルトダウン!!」


小さな男たちを囲むぐらいのドーム上のものが出来上がった。男たちは逃げられないことに焦り始める。そして・・・。最後は温度が急激に上がり脱水症状でミイラに近い状態になる男たち。紅也自身もふらふらである。それでも怪力を発揮して男たちを男の乗っている車まで持っていく。


「殺さずに返すのか??」


男は目を開けずに質問する。


「ああ、殺すことは基本的商売ではないのでね。やばいときは殺す」


目も見ずに振り向きざまに言う。


「茜は・・・なぜ私から逃げるのだ??桐崎家の仕来り上、結婚相手の条件は決まっておるのに・・・」


「結婚手のはあんたらが勝手に決めるものではないだろ」


「それは一般の凡人どもの場合だ。我々のような人間は仕来りに従うことが更なる発展につながることを知っている」


「だからといってあいつの幸せを壊していいのか??」


「なんでも手に入るのに何が幸せを壊すだ・・・。何を言ってるのだ火遊び少年」


「金持ちボンボン親父にはわからねえだろうな・・・。俺のように金が無いことで不自由な生活しかできないやつらがこの世界にごまんといることを」


「私たちにとって関係のないことだよ」


「あいつだって凡人さ。凡人以下の俺が言うのもなんだけれどさ」


「お前は桐崎家を侮辱するのかね??」


静かな口調の裏には怒りがこめられていた。


「別に。でも料理もできない女の子が結婚してどうなる??作らせるからいいなんて考えてるんじゃないだろうな!!あいつだって普通の女の子だ!!自分で見つけた恋はしたいと思うはずだ!!それをお前のような腐った金持ちが破壊しようというのなら・・・」


いったんきってからあらん限りの声を張り上げた。


「俺はお前のその腐った考えを天が罰を与えるのに変わって、おれ自身が炎罰を与えてやる!!」


声に殺気をこめて答える。しかし男はまったく動じない。


「お前ごときが私に勝てると思ってるのか??この青二才が!!」


そう言い残すと車を発進させた。いつの間にか男たちも消えていた。どうやら帰ったらしかった。


「幸せね・・・俺は・・・」


そう言い残し、着替えを済ませるために校舎に入っていった。


紅也はその後のリレーなどで大活躍し、妹たちや茜とともに賞状を貰った。帰り道、妹たちが先頭を歩き、その後ろを茜と紅也が歩いていた。


「これからも今日みたいに狙われる可能性がある、常に君の楚辺にいることを進めたいんだが・・・。君が了承さえくれれば」


「そうですか・・・」


しばらく下を見たまま考えていた茜だが、頭を上げて。


「私を助けてくれませんか??桐崎家という闇の中から・・・。あそこにはもう帰りたくない。やりたいこともできない。欲しいものはあってもやりたいことが無い・・・。そんな生活はもう嫌なの・・・。興まで一緒に住んでみて、ここはあちらよりも手間はあるけれどもそれをやってよかったという満足感を感じることができる。だから私はここにずっといたい」


顔を真っ赤にしながら紅也を見つめる茜。夕日ではない。顔が上気しているためだった。楓たちは何も言わずに2英を見ていた。紺屋も驚いた顔から仕事モードに移行する。


「今の俺が君を好きかどうかは分からない・・・。でもこれだけは言える・・・仕事だから一緒にいるわけではないということ・・・。それだけははっきりしている」


「アニキ!!」


急に楓が大きな声を出す。


「兄貴はいつも私たちのことばかりだよね!!少しは自分の幸せも考えてよ!!」


「そうですよお兄ちゃん・・・」


梓も続ける。顔には涙を浮かべ、手をぎゅっとつかんでいる。


「私たちはもう十分お兄ちゃんに幸せを貰っています。だから今度はお兄ちゃん自身が幸せになってください。だって今度は家族みたいに慣れるかもしれないから」


親がいない・・・。それが彼らにとってほかに過程と違っていたのだ。だから3人は兄の紅也を父親の理想像としてみてきた。それは今でも変わらない。そして今は母の姿を茜から見ようとしている。周りから見れば子彼らは中のいい家族に見えるに違いない。


「そうだぜ兄ちゃん、兄ちゃんは俺達の大黒柱。つまり父親ってわけだ。兄ちゃんは俺達に理想の父親像を見せてくれた。今度は母親像を見てみたいぜ」


そういわれて顔を真っ赤にさせる茜。さらに真っ赤になったためもう卒倒しそうである。紅也は考えた。


(仕事のために最初はかくまった・・・。数週間一緒に過ごした。確かに何も家事ができない。これでは母親像は無理だ・・・。それはなぜか??それは彼女を縛っているものがあるからだ。仕来りがあるからだ。それをぶっ壊せばなんでもない。ならやるべきことはこれなのか??本当に彼女は望んでいるのか??だからそのようなことを言ったのか??考えても分からない)


茜はきっと目をまっすぐに紅也を見つめていた。彼女はもう逃げていない。


「アニキは寂しかったんだろ??だって1人で闇の世界に入っていったんだ。俺でさえ怖くていけないところに、死に物狂いで修行して・・・」


楓の言葉が紅也の凍った心を溶かす。


「お兄ちゃんは頑張ってます。褒めてほしいんじゃないですか??」


梓の言葉が紅也の凍った心をさらに溶かす。


(な・・・なんなんだこの感覚。胸が熱い・・・)


紅也はおかしくなった己の胸に手を当てる。動悸が激しい。今までにない感覚。理解が追いつかない。否理解できない。


「兄ちゃん・・・頑張ってるんだからさ。もっと素直になろうぜ」


輝の言葉が紅也の凍った心をさらに溶かす。


紅也はいつの間にか己の胸を強くつかんでうずくまっていた。意味不明な痛みが胸にあふれてくるのだ。目頭が熱い。

そして不意に柔らかいからだが紅也を包んだ。目の前には茜が紅也を抱きしめていた。茜からは女の独特の甘い香りがした。


(なんだか・・・懐かしい。こんな感覚いつ以来だろうか・・・)


いくら紅也が思い出そうとしても闇ばかりが彼を襲う。彼の記憶には無いエピソード。彼は知らなくても彼を産んだ両親(・・)は知っている。


(ああ・・・そうか・・・この感覚は・・・)


「・・・うぅぅううぅ・・・えっぐうぅぅぅううぅ・・・うわーぁあああぁぁぁぁあぁ」


紅也はまるで生まれたばかりの赤ん坊のように泣いた。しかし妹たちと茜は笑わなかった。むしろ安堵している。彼がテメ込んでいたものが今吐き出されているから。紅也は小さい頃からたった1人で戦ってきた。誰にも頼らず、誰にも褒められず。だからこそ茜に感じるものは懐かしさ、そしてまた別の感情。


「おかあさーん!!うわぁぁぁっぁぁぁあああ」


茜のことを母親と勘違いしている。しかしそんな紅也を優しく撫でてあげる。それは泣く子供をあやす母親のように。


「頑張ったね・・・よく頑張ったね」


「ああ・・・俺頑張ったんだ」


「頑張ったね・・・だから少しお休み」


「休んでいいのか??こんな俺でも??」


「私があなたの休む場所になりたい」


「ああ・・・」


そして彼らは抱きしめあった。坂の上の空は茜色に染まっていた。


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