1 偶然??の出会い
少年は夕日で茜色に染まる坂を歩いていた。紅桜学園高等学校の制服姿だ。彼の名前は五十嵐紅也。紅桜学園高等学校2年生だ。彼は友達の手伝いとして相談屋を営んでいる。
『相談屋』 さまざまな相談事をそれに見合った報酬で解決するという仕事をしている。彼もまた相談屋の仕事の第1線で活躍している。両親が旅行好きで年に2・3日しかいなく、1年の双子の妹と弟と4人で暮らしていた。もちろん食事は紅也が作っていた。
「今日の仕事の報酬で何とか3ヶ月は持つかな」
家計のこともしっかりと考えている。まるで主夫である。そんな紅也の前方ではなにやらナンパが行われていた。桜色のショートヘアーの女の子だった。見た感じ同い年って感じ。背は150後半。スタイルは平均的。そんなことよりもその女の子は嫌がっていた。
「おいおいねーちゃん。俺達と遊ばない??」
大学生らしき男が女の子の腕をつかむ。女の子は強く引かれたためかきゃっと悲鳴を上げる。それをニヤニヤと笑っているほかの2人の学生。
(まったく・・・、大声上げればいいものを・・・)
疲れた体で、早く夕食を作らなければいけないのにまさかの状況に出会ってしまった紅也。はあっとため息をつく。そうしてゆっくりとそのナンパ集団に近づく。
「そんなにいやがるなよ~。俺達そんなにひどいことはしないからさ」
「そうそう、ちょっとそこのレストランで話ができればいいんだから」
下心丸出しの目つきで言い寄る学生。必死に嫌がる女の子だが、如何せん、体の差が大きすぎた。
「おい、その請いやがってるだろ??離してやれよ」
1人の学生の方に手を乗せて話す紅也。
「ああ??誰だてめえ??関係ないだろ??」
「そうそう、あっち行った行った」
「女の子が嫌がってるのを見過ごすわけには行かないな~」
「高校生がいきがるんじゃねえぞ!!」
頭に血が上っているのか、とうとう切れてしまった学生たち。顔が不細工になってますよ。なんてことはいえないので無視する紅也。
「オメエ、ちょっと痛い目に遭わなきゃわからねえらしいな」
手をバキバキと鳴らす学生。どうやら格闘系のスポーツをしているのだろう。ほかのやつよりは筋肉の付が違っていた。
しかしそんなことは相談屋の彼には関係なかった。
「くたばれ!!」
3人が一気に殴りかかってきた。それを軽くかわす紅也。拳銃の弾丸をかわすのも容易な彼にとってパンチなど止まって見える。かわしては人間の急所に的確に攻撃してじわじわといたぶる。それによって後で一気にダメージが来るのである。
「「「ぐあ~~」」」
あまりの痛みに悲鳴を上げる学生たち。彼らを見下ろして紅也は吐き捨てる。
「手前ら・・・2度とこの子に近づくんじゃねえぞ!!」
「「「すいませんでした~~」」」
なんとも情けない声をあげて逃げていった。その場に残ったのは紅也と女の子だけだった。女の子はおずおずしながらも逃げていく学生たちを見る紅也に話しかける。
「あ・・・あの」
透通ったソプラノの声に反応する紅也。顔を真っ赤にした女の子がうつむいていた。もじもじしているのがなんともかわいい。
「もう安心してください。あいつらはもうあなたには近づきませんよ」
にっこりと笑いながら話す紅也。さらに女の子は真っ赤になる。
「あ・・・あの、助けてくれてありがとう。いきなりだったからどうすればいいのか分からなくなっちゃって・・・。
あなたが来なかったら私今頃どうなってたか・・・」
災厄のパターンを考えてしまったのだろう。彼女はいきなり泣き出してしまう。どうすればいいのか分からない紅也はあたふたとするばかり。
「ああ・・・っと・・・ええっと・・・。こんなときどうすればいいのか分からないけれど・・・また何かあったら連絡して。俺こんなのやってるから」
そう言って女の子に名刺とハンカチを渡す。女の子はハンカチで涙をぬぐいつつ、名刺を見る。
「相談屋??」
彼女はなんだこれは??という顔をしている。それは当然だなっと言う顔を紅也はしている。
「相談に応じたお金を払ってくれればそれを解決するという仕事だよ。いろんな相談を受けるんだ」
笑いながら話す紅也。
「俺はまだまだ下っ端だけれどもね」
ここは苦笑いしながら言う。女の子はじっと名刺を見ている。ふと腕時計を見るとすでに6時30分をすぎており、周りは日が落ちて街灯が点灯していた。ご飯を作らなければいけない時間だった。したの3人はご飯にうるさく、部活もしているのでいつもおなかをすかせて帰ってくるのだ。それにご飯が間に合わなければ、きついお仕置きが待っているからなおさら遅れられないのだ。
「ごめん。俺後帰らなきゃいけないから。何かあったら連絡頂戴ね」
そう言い残して紅也は走って行った。少女は紅也の後姿を見つめていた。
次の日の朝、いつものように紅也は朝食を作っていた。そこに下の3人の妹と弟が起きてきた。
「アニキ~おはよう。ごはんは??」
長女の五十嵐楓。バスケ部所属で1年生ながらレギュラーである。兄に対する態度がどうしても大きい。彼氏がいるのになぜか料理が苦手。だからいつもデートで弁当を作るのは紅也に決まっていた。
「お兄ちゃん、おはようございます」
次女の五十嵐梓。吹奏楽部所属で1年生。吹奏楽は紅桜学園高等学校の部活の中でももっとも優秀な成績を収めており、つい先日の大会でも最優秀賞をとっていた。彼女も出場して個人賞もとった。
「兄ちゃんおっは~」
まったく古い言い回しで起きてきたのは次男の五十嵐輝。同じく1年生で野球部に入っている。中学まではリトルリーグで投手兼4番を任せられていた。高校でも活躍中である。
そんなすごい兄弟を持った長男が五十嵐紅也。部活には入らずに4人をまかなうためにアルバイトと相談屋をやっている。いつも傷だらけの兄に3人はいつも心配していた。声をかけても大丈夫の一点張りで、中学のときは骨折して帰ってくるということもあり、そのときは相談屋をやめるようにいった。
しかし紅也は聞かずにそのまま今日まで続けている。そのため、兄弟3人はお金については文句を言ったことはない。なぜこんなにも大変な生活(相談屋で大金が入るのでそれほど貧しいというわけではない)をしているのかには大きな、そして悲しい理由があった。
それは・・・親がいないということだ。両親を亡くしたのではない・・・捨てられたのだった。
紅也が5歳のとき、眠っている紅也たちを家に置いたまま両親が物をすべて持って夜逃げしたのだった。彼らに残ったのは両親が仕事の失敗とギャンブルで溜め込んだ億単位の借金だった。
来る日も来る日も取り立て屋に脅かされる毎日。知り合いもいなければ、友達もいなかった。そんなある日、こっそりと外に出ていた紅也はパン屋から残ったパン耳をもらいに行っていた。
その帰り道、ふと道端できれいな女性から紙をもらった。黒いコートを着ていたので誰かは分からなかったが、甘い香りと、胸のふくらみを見て女性だと確信した。その紙のは『相談屋』についてのことが書かれていた。電話は運よく残っていた10円玉で操作し、相談屋に電話した。
その日の夜、決まってやってきた取立て屋をその女性が倒して、紅也たちを救ってくれたのだった。その後、その女性の家にお世話になることになり、女性から紅也は戦いの基礎を教え込まれた。きつかった。泣きたかった。逃げ出したかった。
でもそれでは小さな妹、弟たちを親と同じく捨てることになってしまう。それだけは嫌だった。親のようにはなりたくなかった。だから必死に頑張った。
いつしか自分も一緒に仕事をするようになった。お金もそのときからもらうようになり、警察とも知り合いになった。そのときから自らが炎術士として目覚めたことを知ったのは。始めは自分が怖かった。みなに嫌われるのではと・・・。
しかし女性も警察も、そして妹たちもそんな俺を嫌わなかった。むしろ女性は喜んでいた。自分の生徒が1人立ちすることを喜んでいたのだった。
その日から、極秘任務にも参加するようになり、不良たちを捕まえたり、殺人事件の解決に協力したり。時には外国にも行ったりした。そのおかげで外国語はほとんど話せるようになった。
「おはよう3人とも、ご飯はもうできてるから、顔洗ってから食べるんだよ」
そうして今日も1日が始まった。
きーん こーん かーん こーん
ホームルームが始まる鐘が鳴った。紅也は窓ぎはの後ろから2番目のところに座っていた。どうやら今日は転校生が来るようで、そのことで話が盛り上がっていた。特に男子はかわいい女の子だタオ言うことで盛り上がりは尋常ではなかった。先生が入ってきた。田村茂。数学の先生。すらりと背が高く、イケメン。女子からの人気が高い。彼女持ちの男子も嫉妬するほどである。
「え~、今日はみなが知ってるとおり、転校生を紹介する。入ってきなさい」
田村が言うとゆっくりとドアが開き、転校生が入ってきた。紅也は興味なさそうに外を見ていた。しかし『おー!!』という生徒たちの歓声に思わず振り向いてしまった。
「!!」
目を疑った。自らの目に移る女の子が・・・この前助けた娘だったからだ。思わず立ち上がってしまう。
ガタッ!!
その音にクラスの全員が紅也に視線を移す。
「どうした紅也??まさか桐崎茜さんと知り合いか??」
声が出ない。それもそのはず無意識のうちに驚いて立ってしまったのだから。
「ええ・・・あの~・・・その~」
もごもごと彼らしくない表現に、友達の栗野新平が冷やかす。
「せんせ~、まさか紅也が女の子と知り合いのわけないでしょ!!」
それに便乗する仲間もいる。
「そうそう、紅也は女の子恐怖症だからね~」
中学時代からの親友柴崎優だ。
「もったいないよな~、顔は嫉妬するくらいいいのに~」
幼馴染の橋場卓也だ。そのほかにも言いたいことを言われて顔を真っ赤にする紅也。
「みんな言いすぎだよ~(怒)紅ちゃんはすごく優しいんだから!!(えっへん)」
「何だ~椎名??前から思ってたんだけど~さ。紅也とはできてるの??」
恋愛ものには敏感な川井信吾が口を挟む。
「わわわたしは紅ちゃんとはまだ幼馴染であって・・・そんな関係ではないけど・・・そんな関係にはなりたいと思ってる・・・(ボン!!)」
『きゃー、椎名、顔真っ赤~。かわい~』
女の子に冷やかされる椎名。その横で真っ赤なまま固まっている紅也。なにが起きているのかわからず突っ立っている茜。そこに・・・。
「君のその可憐な容姿に心を射止められました♡僕と付き合ってください!!」
いきなり転校生に告白しているのはキザな樽川徹だった。突然のことだったので顔を真っ赤にしてうつむくアカネだったが。
「ごめんなさい・・・」
「の~~ん!!」
見事に撃沈する徹。
「また徹のやつ告白してやがる・・・」
「あいつのうち金持ちだからって、むかつくよな・・・」
「でもあいつ悪いやつではないからな・・・」
「憎めないんだな~これが・・・」
クラスメイトが徹について駄弁る。
「はいはい、静かに!!こちらはかの有名な政治家桐崎重喜代さんの娘さんの桐崎茜さんだ。みんな、よろしくしてやってくれ!!」
『はーい』
クラスメートが一斉に言う。茜は嬉しそうに笑った。
「桐崎の席は~五十嵐の前だな」
ざざざっとクラスの男子が紅也を睨む。
『何でお前ばかり・・・』
こう見えても紅也はもてる。しかし女を前にするととたんにしおらしくなってしまうため、ドSの女性には格好の餌食なのだ。このように女性恐怖症になってしまったのもドSの女の子との付き合いが原因だった。(妹は大丈夫なのだが・・・)
その日は茜の周りにはたくさんの人だかりができた。みんなは茜が政治家の娘だということは関係なく付き合っているのだ。それが彼女にとっても嬉しいのだろう、はじける笑顔が男子のハートを射止めていた。そんなこんなで放課後。
紅也は生徒会室に呼ばれていた。
がら がら がら
ドアを開けるとそこには髪の長い女子生徒がいた。
「桜井先輩、今度はなんですか??」
生徒会長 桜井 千尋。 警察庁トップ幹部の父を持つ、正義感が強い女子生徒だ。紅也はこうして彼女が父親からもらってきた情報を提供して、彼に仕事を与えているのだった。
「最近は物騒な事件が多いのでそれらの手伝いをっと思ってたんだが・・・急ぎの仕事だ・・・」
突然彼女の声が変わったので紅也の疲れてねむそうだった目が引き締まった。
「重要度は??」
声が低くなる、仕事になると、いつもははきはきした声が残酷さを伴った低い声となるのだ。彼は2重人格だった。
「レベルS」
「どんな内容だ??」
「・・・このグループからとある誓約書を奪ってきてくれないか??」
「どんな内容のものだ??」
「今度建てられる会社があるでしょ??あれ・・・表向きは貿易のためのものらしいけれど、裏では麻薬や違法なものが取引するためにものらしいわ・・・。ここ、海に面してるから密輸が絶えないのよ・・・。だからそんなやつらが集まるような建物が私のいるところに建てられては虫唾が走る。だから急ぎの仕事であれを止めるために誓約書を奪ってきてくれないか??」
「それはいつ取引される??」
「情報では深夜零時ね」
「了解した・・・。それと見返りは「私の体」・・・いくらだ??「だから私の」だから金額はいくら払ってくれるのかって聞いてるんだ!!」
「つれないわね~、しょうがない・・・10万でどう??」
「それだけあれば・・・2・3ヶ月はもつ」
「弟・妹思いなのね・・・」
「当然だ・・・。あいつらには俺とは違って幸せになってほしい」
「あなたはいいの??」
「俺は・・・」
「あなただって人間よ??幸せにならなくちゃ・・・」
「まずはあいつらの幸せが大切だ・・・。俺のはその後でいい・・・」
「私はいつでもいいのよ」
「俺がこんなになったのはお前らのせいなんだからな・・・」
「照れちゃって。かわいい」
「・・・うるさい」
「まあ、死なないように幸運を願ってるわ」
「ああ・・・」
そう言い残して紅也は生徒会室を出て行った。
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