10 秋されど恋は色濃く
話も中盤。
今回は平和な1日??
冬も近くなって秋、紅也と茜は公園を散歩していた。逃亡生活を始めて半年、付き合い始めても半年。そんな2人の居場所は確立されつつあった。
「きれいな紅葉ね」
公園一帯に植えられたもみじの木々には色鮮やかな葉っぱがあった。
「そうだな」
上を見上げると空に伸びていく木々。紅也と茜はそれらを見上げていた。仕事も順調に行き、家計的にも心配はない。黒尽くめのやつらに関係する事件はここのところご無沙汰である。しかしいつ来てもおかしくないために警戒は常である。
「カップルとか家族連れが多いね」
「俺達だってカップルだろ??」
「そうだね」
今となれば当たり前のことに紅也たちは笑い合う。一は仕事対照としか見ていなかった彼女が今では常に自分の傍にいてくれる大切な存在になった。紅也はそんな彼女の存在を命に代えても守ろうと決意していた。
「今日はゆっくり楽しみたいね」
最近仕事が立て込んでいたためそれほど2人きりの時間がなかった。妹たちも気を使ってくれたのか、今日は2人で行くようにといってくれたのだった。
「何か食うか??」
「あのクレープ食べたいな」
紅也たちはベンチの近くに店を開いているクレープ販売車のところに行った。
「私はバニラで」
「俺はチョコで」
それぞれ購入し、ベンチに座り食べ始める。時間はもう午後3時になっていた。
「ちょうどいいおやつの時間だな」
「そうだね」
お互いに食べることに集中する。
「紅也の少し頂戴」
茜が自分の物を紅也に突き出しながら言う。紅也も仕方がないという顔をしながら食べさせる。
「今度はそっち食べようかな」
茜は飛びっきりの笑顔を見せて言う。それに紅也も顔が崩れて思わず笑みを作る。その後は2人してボートに乗り込む。紅也がこいでゆっくりとした時間を謳歌する。水面に浮かぶもみじをつかんで見せたりと子供みたいな顔を作る茜に思わず噴き出してしまった紅也。
「そんなに笑わないでよね」
「あはは、ごめんごめん」
手を振りながら謝る紅也。ふぅっと息を吐きながら仕方ないわねっと茜もあきれながら許してくれる。その後ボートの上ではお互いがあったときのことから昔話を楽しんだ。
「初めて会ったのは俺が任務から帰った後なんだよな」
「あの時はちゃら男につかまってたからね」
「なんで大声出さないのかって思ったぞ」
「あの時初めて外に出たからどうすればいいのか分からなかったの」
「じゃああの時初めて外の世界を見たって事なのか??」
「そうなるね」
茜がちょっと寂しそうな顔をしたので紅也は少し慌てた。
「でもそんなことよりも今の私には居場所がある」
はにかみながら紅也に言う。
「私の居場所は紅也がくれた。篝さんがくれた。楓ちゃん、梓ちゃん、輝君がくれた。そんな大切なところがあるから私は後悔してないんだよ」
「そういってくれると嬉しいな」
「当然よ」
その後ボートを返却し帰宅しようと公園の出口に差し掛かっていた。
「あれ??この木・・・」
茜が指差している木には葉っぱが色づくことなく緑のまま残っていた。なんとも寂しい感じがした。
「この木も昔からあるようだな。寿命かもしれないな」
「何とかならないかな・・・。このままじゃ仲間はずれでかわいそうって感じじゃない??」
「こればかりは自然の流れで仕方がないんだ。この木だって今まではみんなにきれいな紅葉を見せてきたんだ。いまは役目を終えようとしてるのさ」
「そうだね・・・」
納得していてもなんだか寂しそうな顔をする茜。
「どうしてそんなに気になるんだ??これみたいのやつだったらいくらでもあるだろう」
「確かにそうだけれども・・・。ここにはこれしかないでしょ??この木はまるで昔の私に似ているの」
「昔の茜に??」
「そう・・・昔の私。周りにたくさんの人がいるのに友達はいない。いるのはライバルだけ。色づかないものは捨てられる。そんな感じだったんだよね。屋敷にいるときは。必死に頑張って認められるようにしたよ。でも褒められることはなかった。もっと上を目指せといわれるだけ。それに耐えられなくなったときに無理やりの結婚・・・。私は狂いそうだった。そんな時に紅也たちに助けてもらった。今まで汚い色しか着いてなかった私をいったん真っ白にしてくれて、更にこんなにもきれいな色を付けてくれた。だから昔の私を見ているようで見捨てられないんだよね」
茜の目には涙があった。紅也にやるべきことは1つだけだった。周りには人はいない。あたりは真っ暗。明かりが2里時を照らしているだけ。紅也は木の棒で魔方陣を描く。
「The world is created and five elements.(世界を創造し5つの要素)Flame of flame and revolution of flame and creation of destruction(破壊の炎・創造の炎・変革の炎)Before having called the birth angel from the flame here(ここに炎より生まれし堕天使を呼び出したまえ)The name is Gulliver.(その名はガリヴァー。)[Ototenshi] [nari] of revolution.(変革の堕天使なり。)」
「紅也??」
目の前に現れたこの前とはまったく違う炎の怪物。似ているのは背中に翼があること。
「ガリヴァー、この木に変革の力を」
『アラガエ』
ガリヴァーから出た炎が気を包み込んだ。しばらくして消えたところから緑だった葉っぱに色がつき始めた。本当にわずかだが。
「きれい・・・」
「最後の力にちょっと手助けしてあげただけなんだ。この木も来年はないだろうね」
「それでも最後に色をつけた」
「それを俺達が見たんだ。これは忘れられない思い出だな」
「忘れない」
「ああ」
その後二人で手をつないで帰った。彼らがその場を立ち去ったときからゆっくりと色のついた葉っぱが地面に落ち始めていた。まるで彼らに感謝の涙を流しているかのように。そして空からは真っ白い雪が降ってきた。冬がやってきたのだ。そしてその冬の到来とともに最後の戦いが近づいてきていることを彼らはまだ知らない。
余談だが、彼らが腹をすかせた3人に帰宅が遅いことを理由に説教を食らったのはまたの話だ。
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