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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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良妻

作者: 高千穂 絵麻
掲載日:2026/07/27

「走馬灯って誰が出てくるんだろう」


 寝しなに夫が声をかける。


 寝苦しい夜。エアコンからは冷気と共にうなるような音が、眠ろうとする神経を逆なでる。

 タオルケットでさえ蒸し暑く、麻のパジャマがじっとりと肌にまとわりつく。


「なによいきなり」

「当然おまえは出てくるだろ。それと子供たち」


 夫は小さな声で、ゆっくりと言葉を吐き出していく。


「親兄弟は、俺のと、おまえのところと。いろいろ世話になったからな」

「やめてよ、縁起でもない」

「それと、いとことか、親戚とか……幼稚園の頃の、あいつとか。もうなくなっちゃったけど、近所の公園でよく遊んだな」


 とめどもなく出てくる、夫の人間関係。幼い頃の出来事から、学校生活、そして社会人になって、私と出会って。


「ついこの間のように思えるよ」

「そうね」


 いつしか私も、夫の話に耳を傾けて、相槌を打っていた。


 目を閉じても鮮やかな景色が思い出される。南の海の透明度の高い青、雪山のコテージで身体を温めた暖炉の炎、新緑の山を眺めて歩いたことも。


「夏祭りで買ったおもちゃの指輪、まだ持っているかな」


 子供に買ってあげた射的の景品だったか。そんなこともあったかも。


「交通費精算の数字が合わなくて、夜通し確認したこともあったなあ」


 経理の仕事をしていたから、月末になると帰りが遅くなっていたっけ。新婚の頃は、私も寝ないで待っていたけど、最近はもう眠くなっちゃうのよね。


「あのお店、まだあるかなあ」

「どこのお店? 付き合っていた頃によく行ってた喫茶店は、この間閉店しちゃったけど」

「ああ、いつもホットケーキを頼んでたなあ」


 他愛のない昔話。

 記憶も曖昧になっているような、あやふやな過去。


 私の知らない頃の夫の話。


――


「それで奥さん」

「はい」


 殺風景な部屋は、心も寒くなる。

 パイプ椅子と、会議用の折りたたみテーブル。白熱球の卓上ライトが私の視界でやけに眩しい。


「夫の願いを、叶えようと思いまして」

「願い、ですか?」

「はい」


 口角が少し上がっただろうか。希望を叶えてあげるというのは、私の中でも特別な喜びが生まれていた。


「走馬灯が見たい、と」

久しぶりの投稿です。どうも、お久しぶりです。

2026年の夏も、暑いですね。

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― 新着の感想 ―
絵麻さんならではのブラックユーモアですね。 久し振りだとおっしゃいますが、まったく衰えていませんね!
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