第11話 書店 Side - A
隣の席の小鳥遊さんと僕は。
運命の赤い糸で結ばれているらしい。
だから近くに彼女がいるとすぐに気づく。
赤い糸の色彩が濃くなり、よりハッキリと視認できるようになるからだ。
ただ、弱点もある。
それは、僕が判別出来るのは、あくまで赤い糸で繋がった本人だけと言うことだ。
写真に写ったり、映像で映っていても、赤い糸は教えてくれない。
自分で見つける必要がある。
だから、その日僕が写真に写った彼女を見つけたのは、まったくの偶然だった。
「あ、小鳥遊さんだ」
本屋の雑誌コーナーにて平積みされた、新刊雑誌のコーナー。
入れ替え作業をしていると、たまたま手に取った雑誌に、小鳥遊さんの姿が写っていた。
見覚えのあるティーン向けのファッション誌だ。
僕は電車で数駅離れた本屋でアルバイトをしている。
学校までの定期圏内にある、大きな本屋だ。
この近辺はほとんど同級生が来ず、最悪来たとしても人が多いからバレない。
まぁバレたとしても、学校にわざわざ言う人はいないだろうけど。
普段学校では友達がいない僕だが、ここでは割と親切にしてもらっている。
高校生のアルバイトは珍しいし、真面目に働いているのもよい方向に作用しているらしい。
働いてもう二年目になる。
仕事にはすっかり慣れた。
「鈴原さん、仕事サボって何やってるんですか?」
声を掛けられる。
一年後輩の沙雪コハルさんがいた。
この大きな本屋で働く同僚で、僕の一つ下の高校一年生。
ここで働く高校生は僕たちだけということもあり、割とこうして交流することが多い。
「いや、ちょっと同級生がいたから」
「同級生? 見つかるとまずいんですか?」
彼女は周囲をキョロキョロする。
「いや、そっちじゃなくて、こっち」
僕が雑誌を指さすと、彼女は驚いたように目を見開く。
「えっ……? もしかしてこの美人さん?」
「もしかしなくてもそうだよ」
「すご……表紙になってる……」
「読者モデルでも表紙になることあるんだね」
「ほとんどないと思いますよ。私も見たことないです」
「沙雪さん、こういうの見るんだ」
「まぁ、たまに。この人、有名なインフルエンサーだったりします?」
「インフル?」
「SNSで大量のフォロワーがいる人のことですよ」
「SNSかぁ」
「まさかやってないんですか?」
「友達いないからね」
「悲しい青春……」
沙雪さんはそういうと、ふいに雑誌のページをパラパラとめくる。
そして小鳥遊さんが映っているページで手を止めると。
「あ、インスタとツイッターやってるみたいですよ」
と言って、スマホをポチポチといじくり始めた。
そのまま画面を開いて、僕に見せてくる。
「ほら、すごいですよ。フォロワー数一万」
「すごいんだ」
「ふつうこんなにいないですし、読者モデルしていてもこんなにいる人いないと思います」
画面に映っていたのは、写真を上げて交流するSNS。
そこには、小鳥遊さんが自分で投稿したであろう画像がある。
オフショットと言う奴だろうか。
見たことのない表情で笑みを浮かべる小鳥遊さん。
学校の制服とは格段に違う、オシャレな姿だった。
まるで別世界の人間だ。
完全に有名人に見える。
「読者モデルって、もっと一般人に毛の生えたようなものかと思ってたよ」
「普通はそんなもんだと思いますけど。この人、めちゃ人気ですね。可愛いー。友達なんですか?」
「友達……?」
友達なんだろうか。
正直よくわからない。
一応お弁当は一緒に食べているが。
お金貰って作っているしな。
「ビジネスの関係かも」
「え、何それ、怖い」
沙雪さんが慄いていると、ふいに「すいませーん」と声を掛けられた。
僕が振り向くと、ついさっきまで雑誌の表紙にいた顔が目に入る。
小鳥遊ミナミさんがそこに立っていた。
「すいません、この雑誌十冊欲しいんですけ……ど……」
どうやら写真ではないらしい。
なぜなら、僕の左手小指の赤い糸が彼女の左手小指に向かって伸びていたからだ。
最初は僕に気づいていなかった小鳥遊さんは、少し怪訝な顔をして僕の顔を見た後。
やがて顔をワナワナとこわばらせた。
「な、何でここにいるの……?」
「何でって、アルバイト先だから」
「ば、バイトしてたの!?」
そこでハッとしたように、小鳥遊さんは首を振る。
「ち、違うから」
「何が?」
「別に表紙になったのが嬉しくて配ろうとか思ってへんから!」
「思ってたんだね」
「ちゃうって!」
「十冊で良いんだっけ」
「だから、ちゃうんやって!」
彼女はそう言って踵を返す。
「お、お仕事頑張って! お疲れ様!」
そして彼女は逃げるように去っていった。
僕の背後で、ポカンと沙雪さんが口を開けている。
「ほわー、キレーな人……。本物だぁ」
彼女は呆然と小鳥遊さんが去っていった方向を見つめている。
そのスマホの画面が、ふいに目に入った。
あっ。
僕のお弁当の写真。
「……喜んでくれてるのかな、一応」
僕と隣の席の小鳥遊さんは。
運命の赤い糸で結ばれているらしい。




