第24話 管理ログ
管理者側は、
感情を持ちません。
だからこそ、
「揺らぎ」に
敏感です。
観測対象を確認。
個体識別番号:未登録。
同行ユニット:KANATA。
優先度、再計算中。
「……まだ生きている?」
管制室の一角で、
管理者の一人が呟いた。
白い壁。
反射しない床。
人の気配を極限まで削った空間。
画面には、
二つの波形が並んでいる。
一つは、
不安定で揺らぎの大きい信号。
もう一つは、
規格内に見えて、
どこか“遅れている”応答。
「KANATA」
名前を呼ぶと、
補助画面が展開された。
《旧管理補助個体》
《状態:凍結(解除済)》
《再稼働ログ:非公式》
「解除権限は?」
「ありません」
即答だった。
「記録上、
この個体は
すでに停止しています」
別の管理者が、
淡々と続ける。
「それでも、
応答している」
「しているように
“見える”だけだ」
最初の管理者は、
そう言って視線を戻した。
「問題は、
同行者のほうだ」
遥。
未成年。
市民登録あり。
優先度、低。
だが。
「記憶反応値が高すぎる」
「感情干渉率も、
想定外です」
「……例の個体か」
数秒、
沈黙が落ちる。
「“すず”」
その名前が、
静かに記録された。
「廃棄処理は?」
「未完了です」
「理由」
「完全消去前に、
一部経路が切断されました」
管制室の空気が、
わずかに変わる。
「切断者は?」
「不明」
その答えに、
誰も驚かなかった。
「外部協力者がいる」
「またか」
「……ハクの可能性は」
その名前が出た瞬間、
一人が小さく息を吐いた。
「雲隠れしていたはずだ」
「していた、ですね」
管理者は、
端末を操作する。
「追跡レベルを上げますか」
「いや」
即答だった。
「まだ泳がせる」
「理由は?」
「KANATAが、
選択している」
その言葉に、
一瞬だけ間が空いた。
「……感情的判断?」
「そう見える」
「危険です」
「だからこそだ」
管理者は、
淡々と言った。
「“彼”が
どこまで人間に近づいたのか、
確認する価値がある」
画面に、
観測レベルの表示が重なる。
《観測レベル:中》
《介入:保留》
「逃げ切れると
思っているだろうか」
誰に向けた言葉か、
分からないまま。
「思っていない」
別の管理者が答えた。
「だからこそ、
進んでいる」
管制室に、
小さなランプが灯る。
市場と同じ色。
それは、
“了承”の合図だった。
「記録を続行」
「選択を、
見届ける」
誰かが、
静かに付け加えた。
「――失敗した場合は」
その先は、
言葉にしなかった。
次話では、
管理側がまだ
気づいていない
“誤算”が描かれます。
それは、
すずの記憶ではなく――




