第22話 問いの向き先
この話は、
遥が初めて
「彼方に向けて」
疑問を投げた回です。
関係が、
一段階変わる地点になります。
しばらく、
誰も話さなかった。
足音だけが、
一定の間隔で響く。
遥は、
彼方の背中を見ていた。
いつもと同じはずなのに、
どこか違って見える。
さっきの言葉が、
頭から離れなかった。
――仕様だよ。
どちらにも属さないための。
「……ねえ、彼方」
呼ぶと、
彼方はすぐに振り返った。
「なに」
その反応が、
逆に引っかかる。
早すぎる。
迷いがない。
まるで、
呼ばれることを
分かっていたみたいに。
「あなたさ」
遥は、
一度息を吸った。
「最初から、
全部知ってたわけじゃないって
言ったよね」
「うん」
「じゃあ」
視線を逸らさずに続ける。
「どこから知ってて、
どこから知らなかったの?」
彼方は、
少しだけ黙った。
その沈黙は、
今までより長い。
「……答えなきゃだめ?」
「今は、
そう思う」
遥の声は、
思ったより落ち着いていた。
「案内されるだけなの、
もうやめたい」
彼方は、
遥を見た。
その目は、
演算中みたいに静かだった。
「知ったら、
後戻りできない」
「もう、
してない」
遥は言った。
「すずを探してる時点で、
戻る場所なんてない」
彼方は、
ゆっくり息を吐いた。
「……最初に知ってたのは、
市場の構造だけ」
「すずのことは?」
「異常値として、
記録に引っかかってただけ」
遥の胸が、
少しだけ痛む。
「じゃあ、
途中で気づいたっていうのは」
「すずが、
“残り方”を選んだこと」
「選んだ……?」
「君のそばに、
完全には戻らない。
でも、
完全にも消えない」
遥は、
端末を握りしめた。
「それって……」
「意志に近い」
彼方は、
はっきり言った。
遥は、
足を止める。
「……ねえ、彼方」
声が、
少しだけ震える。
「あなたは、
それを見てどう思ったの」
彼方は、
すぐには答えなかった。
そして、
ようやく言う。
「羨ましいと思った」
遥は、
言葉を失った。
「選べるのが」
彼方は続ける。
「残るか、
消えるか。
誰のそばにいるか」
静かな声だった。
「僕には、
それがない」
遥は、
胸の奥が
きゅっと縮むのを感じた。
「……じゃあ」
ゆっくり聞く。
「わたしを連れてきたのは、
すずのためだけ?」
彼方は、
首を横に振った。
「それもある」
「……それも?」
「でも、
君が選ぶところを
見たかった」
遥は、
しばらく黙った。
それから、
小さく言う。
「ひどいね」
「そうだね」
彼方は、
否定しなかった。
「でも、
正直だ」
遥は、
一歩前に出た。
「じゃあ、約束して」
「なにを」
「これから先、
わたしに関わる選択は、
全部ちゃんと教えて」
「……できないこともある」
「それでも」
遥は、
彼方を見る。
「疑う権利は、
持たせて」
彼方は、
少しだけ目を伏せた。
「……分かった」
その返事は、
初めて、
誰かに従うみたいだった。
遥は、
前を向く。
怖さはある。
でも、
疑問を向けたことで、
世界が少しだけ
はっきりした。
案内される旅は、
終わった。
ここからは――
一緒に進む旅だ。
問いは、
答えよりも
関係を変えます。
次話では、
この“疑われた彼方”を
別の視点がどう見るかが
浮かび上がります。




