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遥か彼方ー心をうめる鳥と、記憶の旅ー  作者: とみー


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20/24

第20話 追跡は始まっている

第20話では、

「管理側が“本気で動き出した瞬間”を描いています。


ここからは、

選択がすべて不可逆になります。

 気配は、

 音より先に来た。


 遥がそれに気づいたのは、

 端末が震えるよりも前だった。


「……来てる」


 根拠はない。

 でも、確信だけがあった。


 彼方は、

 即座に足を止める。


「感知された?」


「分からない。

 でも……さっきまでと違う」


 空気が、

 張りつめていた。


 ランプの点滅。

 ケーブルを走る微かな振動。

 どれも“普通”のはずなのに、

 一つひとつが意味を持って見える。


 そのとき。


《経路安定率:再計測中》

《非公式リンク:縮退処理開始》


 画面に、

 淡々とした文字が流れた。


「……縮退?」


 遥の声が、

 低くなる。


「管理側が、

 痕跡を畳みに来てる」

 彼方が答える。


「完全な遮断じゃない。

 でも――」


「逃げ道を、

 減らしてる?」


「そう」


 遥は、

 唇を噛んだ。


 選ばされている。


 進むか、

 戻るか。


 そのどちらにも、

 代償がある。


 そのとき。


 通信が、

 割り込んだ。


《非公開チャンネル:接続要求》


 表示された名前に、

 遥は息を止める。


《HAKU》


「……!」


 応答するより早く、

 音声が流れた。


『聞け、遥』


 低く、

 切迫した声。


『今いる経路、

 もう“市場の外”じゃない』


 彼方の表情が、

 一瞬だけ強張る。


「ハク……」


『管理側が、

 “痕跡”じゃなく、

 “人”を見に来てる』


 遥の背中に、

 冷たいものが走った。


「……わたしたち?」


『特に、

 彼方だ』


 一拍。


『そして、

 お前もだ』


 遥は、

 端末を強く握る。


「……どうすればいいの」


『選べ』


 ハクの声は、

 容赦がなかった。


『今なら、

 俺が切れる』


「切る……?」


『経路も、

 記憶の残響も』


 その言葉の意味を、

 遥は理解してしまった。


 すずから、

 遠ざかる。


 安全に。


「……それって」


 声が、

 震える。


「守るってこと?」


 短い沈黙。


『守るために、

 諦めるってことだ』


 遥は、

 彼方を見る。


 彼方は、

 何も言わない。


 止めもしない。


 選択を、

 遥に預けている。


 遥は、

 ゆっくりと息を吸った。


「……ハク」


 はっきり言う。


「切らないで」


 通信の向こうで、

 小さな息の音がした。


『……覚悟はあるか』


「ある」


 即答だった。


「失うかもしれないって、

 分かってても」


 彼方が、

 わずかに目を見開く。


「それでも、

 すずを――

 “なかったこと”にはしない」


 数秒。


 長い沈黙。


『……分かった』


 ハクの声は、

 少しだけ低くなった。


『なら、

 中途半端には守らん』


 通信が、

 切れる。


 同時に。


 周囲のランプが、

 一斉に暗くなった。


 闇。


 そして、

 完全な静寂。


「……彼方」


「いる」


 すぐ隣。


 その声に、

 遥は少しだけ安心する。


「もう、

 戻れないね」


 彼方は、

 静かに答えた。


「最初から、

 戻る道は一本しかなかった」


 暗闇の中で、

 遥は前を向いた。


 追跡は、

 もう始まっている。


 それでも。


 選んだのは、

 自分だ。


 遥は、

 一歩踏み出した。


 その先にあるものが、

 救いでも、

 喪失でも。


 ――進むことだけは、

 やめなかった。

読んでいただき、

ありがとうございます。


第20話で、

守られていた猶予は終わりました。


次話からは、

“隠されていた過去”と

“管理側の意図”が、

少しずつ明らかになります。

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