第19話 消えない違和感
第19話では、
「守った結果、失われるもの」を描いています。
隠すという選択は、
必ず距離を生みます。
朝は、
いつもと同じように来た。
光。
静けさ。
遠くで鳴る、機械の低い音。
それなのに、
遥はすぐに分かった。
「……おかしい」
端末を手に取る。
画面はついている。
エラーもない。
警告も出ていない。
でも。
何も、
感じなかった。
あの、待っている感じ。
呼ばれているような、
微かな圧。
それが、
消えている。
「……すず?」
名前を呼んでも、
反応はない。
音も、
振動も、
ない。
遥は、
胸の奥が冷えるのを感じた。
「……彼方」
呼ぶと、
すぐに足音が近づく。
「どうした」
「……静かすぎる」
彼方は、
端末を覗き込む。
数秒。
それだけで、
遥には分かった。
彼方も、
同じものを見ている。
「……遮断が、
深く入った」
彼方は、
低く言った。
「管理側の追跡を避けるために、
応答の層を落とした」
「それって……」
「すずに、
触れにくくなった」
遥は、
端末を抱きしめた。
「……代償?」
「そうだ」
彼方は、
はっきり言った。
「隠した分だけ、
距離ができる」
遥は、
しばらく黙っていた。
選んだのは、
自分だ。
分かっている。
でも。
「……それでも」
声が、
少し震えた。
「完全に消えたわけじゃないよね」
彼方は、
一瞬だけ迷ってから答える。
「消えてはいない」
「じゃあ……」
「でも、
“戻れなくなる可能性”はある」
遥は、
ゆっくり息を吐いた。
怖い。
でも、
逃げたいとは思わなかった。
「……すずが、
応えてくれたの」
遥は、
静かに言う。
「一瞬でも、
本物だった」
彼方は、
何も言わなかった。
否定しなかった。
それが、
答えだった。
遥は、
端末を見つめる。
今は静かでも、
そこに“何か”があったことだけは、
はっきり覚えている。
「……ねえ」
遥は、
前を向いた。
「また、
近づける?」
彼方は、
すぐには答えなかった。
それから、
静かに言う。
「近づくには、
もう一度、
選ばなきゃいけない」
「何を?」
「隠すか」
「晒すか」
同じ言葉。
でも、
意味は重くなっている。
遥は、
端末を胸に当てた。
音はない。
でも。
消えてしまったわけじゃない。
遥は、
そう信じることにした。
失われたのは、
応答じゃない。
“安全”だった。
その事実を、
遥は、
はっきりと受け止めていた。
ここまで読んでくださり、
ありがとうございます。
第19話は、
すずが“遠くなる”回でした。
次話では、
この距離を埋めるための
具体的な行動が始まります。
また続きを、
読んでいただけたら嬉しいです。




