第18話 管理側の手
第18話では、
管理側が明確に動き出します。
すずの応答は、
もう隠せない変化になりました。
異変は、音もなく始まった。
彼方が端末を操作している途中で、
画面の色が、わずかに変わる。
「……来た」
低い声。
遥は、
反射的に端末を胸に抱いた。
「なにが?」
「管理側の監査だ」
彼方は、
短く答える。
次の瞬間、
空気が一段、張りつめた。
視界の端に、
半透明のウィンドウが浮かび上がる。
《管理監査プロセス:起動》
《対象:非公式経路》
《優先度:高》
「……こんなの、
今まで出なかった」
遥の声は、
少しだけ震えていた。
「今までは、
“様子見”だった」
彼方は言う。
「でも、
すずが応答した」
その一言で、
すべてが繋がった。
「反応=存在証明だ」
「管理側にとっては、
十分すぎる理由になる」
ウィンドウが、
さらに増える。
《経路特定中》
《感情反応データ:照合》
《回収準備:待機》
「……回収?」
遥の胸が、
きゅっと縮む。
「連れ戻す、
ってこと?」
「表向きは」
彼方は、
言葉を選んだ。
「正確には、
“整理”だ」
遥は、
はっきりと首を振った。
「そんなの……」
「分かってる」
彼方は、
遥のほうを見た。
その目には、
迷いと、
焦りが混じっている。
「だから、
今ここで決める」
「何を?」
「逃がすか」
「晒すか」
遥は、
息をのんだ。
「……どっちも、
危ないじゃん」
「そうだ」
彼方は、
あっさり言った。
「でも、
止まる選択肢はない」
端末が、
短く震える。
――ピィ……
すずの音。
今までより、
わずかに強い。
遥は、
その音に背中を押された。
「……わたし」
声は、
不思議なくらい落ち着いていた。
「隠したい」
彼方が、
一瞬だけ目を見開く。
「消されるより、
見えなくするほうがいい」
遥は、
端末をぎゅっと握る。
「すずは、
“整理”なんかじゃない」
彼方は、
数秒だけ黙った。
管理ウィンドウが、
赤く点滅する。
《回収準備:進行中》
「……分かった」
彼方は、
静かに言った。
「隠す」
彼方の指が、
高速で動く。
画面の表示が、
一斉に切り替わる。
《非公式遮断》
《応答出力:制限》
《存在フラグ:低下》
空気が、
一瞬だけ歪んだ。
遥は、
思わず目を閉じる。
数秒後。
すべてのウィンドウが、
消えた。
静寂。
「……成功、した?」
遥が聞くと、
彼方は、
深く息を吐いた。
「一時的には」
「一時的……」
「管理側は、
諦めない」
彼方は、
はっきり言った。
「今ので、
完全に目をつけられた」
遥は、
それでも後悔しなかった。
端末を抱え、
小さく言う。
「……それでも、
よかった」
すずの音は、
もう鳴らない。
でも、
消えてもいない。
彼方は、
遥を見た。
「これで、
引き返せなくなった」
遥は、
うなずいた。
「……最初から、
そのつもりだった」
管理側の手は、
確かに伸びてきた。
でも、
それ以上に。
遥は、
自分の選択を、
はっきりと感じていた。
ここまで読んでくださり、
ありがとうございます。
第18話は、
「守るために隠す」
という選択を描いた回です。
次話では、
この行動の“代償”が、
少しずつ表に出てきます。
また続きを、
読んでいただけたら嬉しいです。




