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遥か彼方ー心をうめる鳥と、記憶の旅ー  作者: とみー


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16/24

第16話 応答の輪郭

第16話は、

すずの“反応”に焦点を当てた回です。


大きな奇跡ではなく、

小さな応答。

でも、それが何よりの前進です。

 最初は、気のせいだと思った。


 端末を持ったときの、

 指先の感触が、

 昨日と少しだけ違った。


「……あれ?」


 遥は、

 画面を見下ろす。


 表示は変わらない。

 エラーも、警告も出ていない。


 それでも、

 何かが――

 「待っている」感じがした。


 彼方は、

 少し離れた場所で、

 通信ログを確認している。


 遥は、

 声をかけずに、

 そっと端末に触れた。


 画面が、

 わずかに明るくなる。


《記憶データ:断片》

《感情反応:検出》

《応答準備中》


 昨日までは、

 なかった表示。


 胸が、

 小さく跳ねた。


「……彼方」


 名前を呼ぶと、

 彼方はすぐに顔を上げた。


「見えた?」


 遥は、

 無言でうなずく。


 再生ボタンは、

 まだ押していない。


 怖かった。


 音が聞こえなかったら。

 昨日より、

 何も残っていなかったら。


 でも――


「……すず」


 名前を、

 小さく呼んだ。


 端末が、

 短く振動する。


――ピィ……


 今までより、

 ほんの少しだけ、

 長い音。


 途切れない。


 遥は、

 思わず息を止めた。


 音の中に、

 かすかな揺れがある。


 一定じゃない。

 でも、雑音でもない。


「……応えてる」


 遥の声は、

 震えていなかった。


 彼方は、

 画面を覗き込む。


「ランダムじゃない」

「呼びかけに反応してる」


「じゃあ……」


 言葉が、

 喉で止まる。


「……分からない」


 彼方は、

 正直に言った。


「でも、

 昨日より確かだ」


 遥は、

 端末を胸に抱いた。


 あの朝。

 窓辺で鳴いていた声。


 目を覚ますまで、

 何度も呼んでくれた、

 あの音。


 それとは違う。


 でも、

 まったく別でもない。


「……すずは、

 わたしのこと、

 分かるのかな」


 彼方は、

 すぐには答えなかった。


「記憶は、

 完全に戻らない」


「うん」


「でも、

 “関係”は残る」


 その言葉が、

 胸に落ちる。


 関係。


 名前を呼んで、

 応えてくれること。


 それだけで、

 十分だと思えた。


 遥は、

 もう一度、

 端末に触れた。


「……おはよう」


 返事は、

 すぐには来なかった。


 でも。


――ピィ……


 さっきより、

 ほんの少しだけ、

 やわらかい音。


 遥は、

 笑っていた。


 涙は、

 まだ出なかった。


 でも、

 確かに思った。


 すずは、

 消えていない。


 ただ、

 形を変えて、

 ここにいる。

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます。


第16話では、

記憶そのものよりも、

「関係が残る」という可能性を描きました。


次話では、

この変化が周囲にどう影響するのか、

静かに波紋が広がっていきます。


また続きを、

読んでいただけたら嬉しいです。

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