第14話 残された側
第14話は、
遥のいない場所で交わされる会話です。
彼方とハク。
二人は同じものを知っていて、
同じ場所には立てない。
そんな距離感を、
言葉少なに描きました。
遥が眠ったあとだった。
簡易端末のランプは落とされ、
あの扉の奥は、
一時的に遮断されている。
彼方は、
一人で外に出た。
高架の影。
通信ケーブルの下。
人の気配が、ほとんどない場所。
「……まだ連れてるのか」
低い声が、
暗がりから届いた。
彼方は、
振り返らなかった。
「必要だからだ」
「必要、ね」
白い髪の老人が、
影の中から姿を現す。
ハクだった。
「必要なのは、
あの子か。
それとも――」
言葉を切る。
「お前自身か」
彼方は、
少しだけ間を置いて答えた。
「選べる立場じゃない」
「昔から、
そう言うな」
ハクは、
短く笑った。
でも、
その笑いには
温度がなかった。
「今度は、
戻せると思ってるのか」
「……完全には」
「だろうな」
ハクは、
視線を逸らす。
「記憶は、
戻すもんじゃない」
「分かってる」
彼方は言う。
「でも、
消される理由もなかった」
ハクは、
その言葉に反応した。
ほんの一瞬、
目が細くなる。
「……あれを、
まだ“消された”と思ってるのか」
「違うのか」
「違わない。
だが――」
ハクは、
一歩だけ近づく。
「選ばれなかっただけだ」
彼方は、
その言葉を受け止めたまま、
動かなかった。
「君も、
失った側だろ」
ハクが言う。
「だから、
あの子に重ねてる」
沈黙。
風が吹いて、
ケーブルが小さく揺れる。
「……重ねてない」
彼方は、
静かに言った。
「同じ場所に、
立たせたくないだけだ」
ハクは、
しばらく彼方を見つめていた。
それから、
小さく息を吐く。
「……相変わらずだな」
「何が」
「自分が壊れてることだけ、
認めない」
その言葉に、
彼方は何も返さなかった。
代わりに、
視線を上げる。
「次は、
どこまで残すつもりだ」
ハクは、
答えなかった。
ただ、
背を向ける。
「残すかどうかは、
もう俺の仕事じゃない」
歩き出しながら、
一言だけ残す。
「だが――」
振り返らずに、
言った。
「“残された側”の覚悟を、
あの子に押しつけるな」
ハクの姿が、
暗がりに溶けていく。
彼方は、
その場に立ち尽くした。
遥の眠る方向を、
一度だけ見る。
「……分かってる」
それが、
誰に向けた言葉だったのかは、
彼方自身にも分からなかった。
ここまで読んでくださり、
ありがとうございます。
第14話では、
「すずの記憶」ではなく、
それを巡る“大人たち”の立場に
少しだけ触れました。
次話では、
再び遥の視点に戻ります。
そして、
この会話が何を意味していたのかが、
少しずつ見え始めます。
また続きを、
読んでいただけたら嬉しいです。




